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第九話「愛に変わった日~陽が落ちる前に~」6

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 懐かしい日の思い出、まだ半年くらい前の話しなのに、本当に今では遠い過去のような記憶だ。

「でも、不思議ね。まだ、あの時の初めてしたキスの感触を覚えていて、思い出すと胸がキュンとしてしまうだなんて……。
 思い出が本当に色褪せたものになっていくかは、その人の心の持ちよう次第ってことなのかしら……」

 長い夜、椅子に座りながら力を抜いて、机に腕をだらんと載せて、私は未だにこの手にある屋上の鍵を手に持ちながら、静かに思った。

 学園祭の後で分かったことが二つある。

 それは旧校舎側の体育館での火災の後見つかった二人の遺体、警察の調べでは未だに身元は分かっていないそうだが、直接の死因は火災によるものではなく、心肺停止によるものだったということ。
 それと、あの時助けてくれた赤津羽佐奈と別れ際に名乗った女性、彼女は赤津探偵事務所という都内にある実在する探偵事務所に勤めている、正真正銘の探偵だそうで、彼女は嘘を言っていなかったということだ。

 私は一度、そこまで行って感謝の気持ちを伝えようかとも思ったが、一人で用事もなしに行くのは迷惑に感じて、未だに行けていない。
 時々、コメンテーターとして軽快なトークを披露し、テレビに出演している姿を見かけるので、今も元気にご健在であるのは一方的に知っているのだけど。

 だけど、他の人に言う勇気はさらさらないが、あの人には不思議な力が備わっていると考えるのが自然だ。
 私の知らない超常的な力、スピリチュアルで、まるでエスパーのような、超能力と呼ぶには物足りない、人を超えた力。

 あの人が俗に言うサンキッカーのような人であったとして、それを世間で公言することが出来ないということも理解できるから、安易に言いふらすようなことをしない方がいいのだろう。

 そんなものが本当に、世間に知られることなく存在するのか。未だに答えは出ないが、彼らが再び今年も凛翔学園の学園祭にやってくることがあれば、少しは真相に近づけるのかもしれない、私は密かにそんなことを考えていた。

 思い出したり、考えたりしていたらすっかり就寝時間になっていた。

「机の上も、部屋も殺風景なままなのは良くない気がするから、いっそ胡蝶蘭こちょうらん|でも育ててみようかしら」

 花を育てるのも気分転換にはいいかもしれないと、私は一人暮らしが板についてきたところで思った。

 私は思い出に浸るのもこれくらいにして照明を切って、眠りにつく準備を始めた。
 
 これ以上、過去の記憶を回想すれば、やがて、彼と別れた日のあの耐え難い出来事まで思い出してしまうだろう。

 後悔ばかりが今もこびりついて離れない、心が痛む思い出したくない記憶。
 それは、今の私が思い出すにはまだ荷の重い、忌まわしい過去に違いなかった。
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