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第6話 不穏な気配

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 あっという間に時間は過ぎ、綺羅びやかなパーティーも終わりへと差し掛かった。

 片付けなどでメイドたちが会場内を忙しく動き回っている。パーティーを楽しむ貴族たちの邪魔にならないように。

 聖花はアナスタシアたちと色々な会話を交わし、仲を深めた。好きな物の話から家のことまで様々だ。
 彼女らも聖花同様、学園に入学する予定らしく、聖花は学園生活がより楽しみになったのだった。

 そんな聖花も今は一人きりである。により、パーティーホールより少し離れた廊下を歩いているのだ。
 明かりは乏しく、何処までも薄暗い道が続いている。

 聖花たちが会場に来た当初、屋外に見えた幻想的な夕焼けは既に見当たらない。あるのは窓硝子ガラス越しに映るほんの小さな星々だけだ。
 ガラスで囲われた蝋燭の火がゆらゆらと揺れ、廊下を歪に照らす。まるで踊っているかのようだ。

 どこか薄気味悪く、不思議な気持ちに聖花は陥る。


「…‥もう。まさかトイレがこんなに遠いなんて…」

(それにここ、他の場所より暗い……)

 気味悪さを誤魔化す為か、聖花がポツリと愚痴を溢す。
 辺りにはメイドすら見当たらず、彼女は行く場所を間違えたように感じた。早足でメインホールに向かう。

 そうしていると、聖花はおかしなことに気が付いた。そもそも誰にこの道を聞いたのだろうか、と。
 とても案内無しで行ける場所ではないのだ。

 聖花が頭を捻って思い出そうとした、丁度その時。
 

 コツン、コツン、コツンーーーー


 不意に、彼女の向かう先から、誰かの歩く音が聴こえてきた。
 こちらに向かってきているようで、聖花に聴こえる音が次第に大きくなっていく。


(………………………誰?)

 恐ろしく気配を感じたのか、聖花は自然と身構えた。生唾を飲み込む。

 その場から今すぐ逃げ出したい衝動に駆られたが、何せ一本道なのでそれも出来なかった。
 じっと視線の先を真っ直ぐ見つめ、固められたかのようにその場に立ち止まる。

 ……それからほんの暫くして、一人の少女が、薄暗い闇の中から現れた。何処か奇妙な森閑とした雰囲気をまとって。

 その少女は、髪が胸と肩の間辺りまで伸びており、どこか幼い顔立ちをしている。ただ、暗くて本当に判別出来ているか聖花には不明だ。髪色も把握することができない。


「…あの、、、いきなりで申し訳ないですが、こちらの先にトイレは…、あ、いえ何でも御座いません。
お花を摘みに行きたいのですが、どこにあるのですか?見当たらないのです」

 少女が何処の誰は分からないが、一刻の猶予もない。
 恥ずかしがりながらも、聖花はその少女に尋ねることにした。

 この世ではトイレという用語が存在しない。従って、聖花は別の表現で懸命に伝えることにした。
 ‥‥‥‥‥伝わるかは別だが。
 

「……ふふっ。急に話し掛けるものだからビックリしました。さん、其方そちらでしたら、ここから私の方に向かい真っ直ぐ進むとすぐに見つかりますよ」

 しかし、どうやら通じた様だ。
 少女は小さく笑い、彼女に道を教えてくれた。


「そうなのですね。教えて頂きありがとうございます。自己紹介が遅れて申し訳ございません。マリアンナ・ヴェルディーレと申しますわ。ダンドール伯爵様の二女です。よろしくお願いしますね」

 聖花は少女に対し、できる限り丁寧に挨拶をした。やんわりと微笑む。

 先ほどまでの何処か恐ろしい気持ちは聖花からすっかり失せた。が、どうも釈然としないように感じていた。
 聖花にはそれが少し不思議だった。


「……、よろしくお願いします。…ところで、先に行かれてはどうでしょうか?見たところお急ぎのようですし」

 少女は軽く会釈して、聖花の瞳をチラリと見た。まるで覗き込まれているかのように。
 聖花は少し背筋が寒くなるのを感じた。

 丁度その時、窓ガラスの向こう側から入って来た星の光が、少女の眼をうっすらと反射した。黒く染まった眼、だ。

「‥‥‥‥‥どうされました?」

「…あぁ、そうですね。お気遣いありがとうございます。では失礼しますね。また後でお会いすればお話ししましょう」

 我に返ったように、聖花は感謝の気持ちを告げる。そして、少女の言った方向に従って歩き出した。

 少女はその後ろ姿をじっと眺めていた。



「二人とも、遅くなってしまいました。パーティーはもう終わりですね。まだまだ話し足りないです」

 聖花は慌てた様子でアナスタシアたちに駆け寄った。

 無事にあの場から迷わずに聖花は戻ってくることが出来た。
 きっとパーティー会場の眩い明かりのおかげだろう。


「そうですね…。ところで、随分遅かったですね。
 何処かに寄り道でもされていたのですか?」

 リリエルが心底不思議そうに尋ねる。それもその筈で、聖花が席を外してからかなりの時間が経っていた。


「いいえ、お花を摘み行っただけですよ。
 恥ずかしながら途中で少し迷ってしまって…。思っていた以上に遠くて驚きました。
 先に来ていた黒目のお方に助けて頂けたお陰で、無事に辿り着けたのですよ」

 聖花は先ほどのことを照れながら二人に話す。
 すると、リリエルが不思議そうに首をかしげ、アナスタシアは驚愕したように声をあげた。
 どうしてそんなに驚いているのか、聖花は疑問に思った。が、アナスタシアが声を上げたことで、それは一変した。


「こんな暗い中、お花を摘みに行ったのですか!?
 何故そんなことを‥‥‥‥?」

 何か会話が噛み合っていない気がする。聖花はそう感じた。

 アナスタシアが続ける。

 「加えて、私の知る限り、今日来ている令嬢に黒目の方はおりません」

「……え、…?」

 アナスタシアの衝撃的な一言に、聖花から気の抜けたような声が溢れた。
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