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第13話 罪人の烙印

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‥カツッ、‥カツッ。


「ほら、さっさと歩け。」

 聖花はダンドールから衛兵に引き渡された後、ヴェルディーレ家の紋章が印された物とは程遠い馬車に抵抗しながらも押し入れられた。
 馬車の中は、4人ほどが座れそうな椅子があったが、衛兵と思わしき男2人が既に聖花の向かいに座っていて、殆ど満杯状態だった。

 目的地に着くまで終始無言で、まるでお通夜のような空気が漂う中で、ガタガタと激しく揺れるものだから、彼女は出来れば立ち上がっていたいと感じた。

 場所に着くと、一緒に馬車から降りた男たちが、聖花を取り囲むようにして「付いて来い」と言った。
 聖花が顔を上げると、そこは以前行ったゴルダール伯爵家よりも遥かに大きい所ーー国の中心にある、王宮ーーの裏手にある小屋だった。
 ポツン、と建つ小さな建築物は控え目に言っても人が何人も入れるような大きさではなく、ボロボロだった。

 色々な感情が入り混じり、すっかり大人しくなった聖花は、連れられるがままに小屋の扉の傍まで歩いた。
 そして、男たちの内の一人が、その扉を開けると、地下へと続く螺旋階段のようなものが目に入った。

 段々と階段に近づいて行くと、そこは薄暗くて奥が見えない上に、冷たい石で囲まれた空間が広がっており、薄気味悪かった。

 ‥カツッ、‥カツッ、‥‥カツッ。

 聖花は段差を一段一段、ゆっくりと降りていた。
 それでも段を降りるごとに石と靴が触れ合う音が木霊している。

 抑えられた時に脚を痛めたのか、それとも先ほどの馬車のせいで腰を痛めてしまったのか。それとも‥‥。
 あまりにも遅すぎて後ろの男が指摘しても、彼女から返事は帰って来ず、変わらぬペースで階段を歩いている。

 前の男は先に奥へと消えてしまって、彼女らには姿が見えなかったが、下の方からコツコツとテンポよく降りる音が他の物音と混じって彼女らの方まで小さく響いてきていた。


「ここだ。‥‥‥‥着いたぞ。進め」

 後ろから男の苛立った声が聞こえてきた。
 ようやく辿り着いた場所は、階段よりも遥かに開けていて、ランタンの中で揺れる炎が、聖花には不思議と魅了的に見えた。

 男はずっと立ち尽くす聖花を見て、遂に頭に来たのか、軽く舌打ちをして彼女の腕を掴んだ。
 意識が引き戻された聖花が自分で歩けると主張したにも関わらず、男は彼女を引きずるようにして空いた牢まで無理やり引っ張った。


「おいおい、罪人とはいえ女性に乱暴したら駄目だろう。痛がっているじゃないか、止めてやれ」

「フェルナン、罪人を庇うのか?男だろうが女だろうが一緒じゃねぇか」

「それでも、だ。いい加減、上に報告するぞ?ビート。
 ‥‥まさか女性にまで手を出すとはな」

 牢の前まで着くと、先へと進んでいたフェルナンと呼ばれた男が待ちくたびれように立っていた。

 彼はビートの様子を見て、目元を抑え心底呆れているような様子だった。
 ビートの暴力が日常茶飯事であることは見て取れたが、きっと女性にまで被害を及ぼしたのは初めてのことだったのだろう。

 ビートはフェルナンの脅しに怯んで、聖花の手を物を投げるかのように離したが、其れもダンにぶつぶつと注意されていた。
 聖花が痛む手を見ると、腕には掴まれた跡がくっきりと残っていた。


「じゃあ‥‥、そろそろ入って貰おうか。さっきはビートがごめんね。僕も先に言って悪かったし、そのことも含めて謝るよ。配慮が足りなかった」

「‥‥‥‥‥他にも人がいるのですか」

 全く喋らなかった聖花がやっと口を開いたので、フェルナンは一瞬驚いたように固まった。
 そして、そこまで詳しくは教えられないけど‥‥、と言ってから話し出した。


「今のところ、君のような人たちは何人かいるけれど、あと半年も経たない内にほんの数人まで減るかと思うな。それと、僕たちのような衛兵の端くれは罪人を連れて行くだけで、見廻りをする人は別にいる。たまに、僕らよりずっと偉い人が来ることもあるから、態度にも気を付けてね」

「貴方は、‥‥‥‥」

 聖花がフェルナンにどうしてそんなに教えてくれるのか聞こうとした丁度その時、側からククッと笑う声が聞こえてきた。
 その声の主は、先ほどの機嫌の悪そうな表情とは裏腹に、今度は物珍しそうな目でフェルナンを見て今にも開きそうな口を必死に抑えるビートだった。

 ビートの思わぬ邪魔によって会話が唐突に終わってしまったので、フェルナンは流石に聖花をやっと牢に入れた後、彼女に「またね」と言い、踵を返してビートと共に暗闇へと飲み込まれた。
 彼らは何か小声で言い合っていた。


「牢獄、か‥‥‥‥」

 一人になった聖花はポツリ、と呟いた。
 何故こんなことになったのか、自分が何故ここにいなければならないのか、と言う気持ちもあったが、何よりも家族に見放されたように感じてならなかった。
 涙はすっかり枯れ、ごちゃまぜだった感情もどこかに消失し、今の彼女には虚しさだけが残っている。

 彼女が牢を見渡すと後ろに蛇口のようなものと濁った鏡が設置されていて、それ以外は何もない。


(もう一人、私がいて。親は私を誰か分かっていなくて‥‥‥)

 彼女は先の事件を思い返した。
 そして、震え出した身体を抑え、恐る恐る少しヒビの入った鏡に近づいた。


「え 、 、 、?」

 彼女は驚愕した。



 何故なら、サファイアのような深い青の髪に真っ黒な目を持つ、鏡に映るその少女はーーーーー。
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