闇精霊に好かれた精霊術師(旧題:ダンジョン最下層でパーティに見捨てられた精霊術師の少年、闇精霊に気に入られ最強の精霊使いになる。)

お茶っ葉

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三章

44話 謹慎処分

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 まだ陽が昇りだす前の仄暗い早朝の時間。
 フィアーはベッドから起き上がると闇に紛れて行動を開始していた。
 物音を立てないようにゆっくりと床に足を降ろす。軽い体重のお陰か軋む音も小さい。

「トルは……呑気に寝ているわね。こういう時に子供は扱いやすくて助かるわ」
 
 昨夜に魔力制御の訓練をしていたのもあってトルの眠りは深い。
 宝物の帽子を胸にニノの私服を枕にして大の字になって寝ている。
 二人は一つのベッドを共用で使っているのだが、寝相が悪いのでいつも蹴り合いに発展していた。
 
「……廊下には人の気配はない。よし、今なら行ける……!」

 慎重にドアを開けて滑り込むように抜け出る。
 下から光が届いていた。耳を澄ませると一階から物音がする。

「うわーん! 黒い煙が出てきたー!!」
「どうして具材を混ぜるだけで失敗するんだ!! おかしいだろ!?」
「わかんないよー! ただちょっと美味しくなるように隠し味を追加しただけなのに!」
「明らかにそれが原因だろっ!! 何を入れたんだ!? おい早く火を消せ!! 燃える燃える!!」

 フィリスとセレーネが水屋で大騒ぎしている。
 何かを燃やしたかのような焦げ臭い匂いまで昇ってきた。
 フィアーは危うく咽そうになるも鼻をつまんでグッと我慢する。

「……あの二人は何をやっているのよ。まっ、都合がいいけど」

 そのまま無視して煙の中前を進む。
 すぐ隣には新しく設けられたノートの部屋があった。
 小型ゴーレムが入り口前に佇んでおり、周囲を索敵しながら警戒している。

 まるでこの先に進むなら許可を取れと言わんばかりの存在感。
 
「何で新参者の癖してまるまる一部屋与えられているのよ……私なんかトルと二人で一室なのに」

 教育係として任されて以降フィア―は何かとトルとセットで扱われる事が多かった。
 それそのものは信頼されていると考えれば悪くないのだが、こういう時に不利益が生じる。

「困ったわね……アイツ結構勘が鋭いから、前を通り過ぎるだけで気付かれるかもしれない」

 ゴーレムをやり過ごすだけなら闇属性の靄で視界を防げば事足りる。
 こういう自立型の人形は実はそこまで精度は高くない。あくまで威圧を与えるのが主目的なのだ。
 ただノート本人が傍にいるとなると話は変わってくる。基本的に召喚主に近いほど性能が上がる為だ。

「あともう少しなのに……面倒臭い」

 目的地である少年の部屋に忍び込むにはこの道しかない。
 最悪、空間転移という荒業も候補に入った。これは一歩間違えると悲惨な目にあう危険な手だ。
 座標を数ミリ誤るだけで壁の中に埋もれてしまう。肉体の器が無事であっても屋敷の壁が無事では済まない。

 この場に魔力探知に優れた人物が多く住み着いているのも問題だ。 
 今はウィズリィの存在もある。高位の魔法を使えば瞬く間に取り押さえられてしまう。
 
 認めるのは癪だがフィアーは水の精霊の実力を高く評価していた。
 まともに戦えば勝率は五割にも満たないだろう。ウィズという主人格を考慮してもだ。
 飄々とした態度に騙されそうになるが、こと技術面において彼女に勝る精霊は存在しない。

 それだけ油断ならない相手という事。
 前回はあくまでお遊びの中での本気なのだ。
 
 悩みに悩み、立ち止まっている間に下の階では何やら進展があったようだ。
 
「こ、これはどういう事態ですか!? 私が朝市にまで買い出しに出ている間に一体何が――――コホッコホッ、酷い匂いです……!」
「ノート様これは違うんです、私はただちょっとお手伝いを……! 驚かせたくて……!」
「何が違うというんだ。別の意味で驚いたし危うく全焼するところだったんだぞ!」
「……朝からお説教ですね」
「うわーん。許してー!」
「自業自得だろう……」

 ノートとセレーネに挟まれフィリスは泣きべそをかいていた。
 二人とも根が真面目なのでこうなると小一時間は梃子でも動かない。
 上階からその一部始終を眺めていたフィアーは密かにほくそ笑んだ。

「しめた。ノートも一階にいる。これで前に進めるわ!」
 
 フィリスへの対応に集中して上への警戒がおざなりになっている。
 フィアーは軽やかな足取りで部屋の前を横切った。ゴーレムも何のそのだ。

「施錠は……していない? 少し不用心ね」

 自分が忍び込んでいるのも棚に上げてフィアーは一人ごちる。
 屋敷には四精霊に加えて鬼人に闇妖精、獣人も各所に点在している。下手な要塞よりも難攻不落だ。
 不逞の輩が盗みに入れば……翌日には街に墓標が一つ増える事となるだろう。
 
 よってニノが部屋の入り口に鍵をしないのは別におかしい事じゃない。
 まさか内部にその手の輩が存在するとは想像だにしないはずだ。  

「…………そろり……そろり」

 中央にあるいつの間にやら進化していたダブルベッドに匍匐前進で近付く。
 ここまできて失敗は許されない。ごそごそとベッドの中に潜り込み、その熱を肌で感じる。
 遂にお目当ての人物に辿り着いた。まずは腕を掴んで頬を擦り付ける。

「……ふふっ、相変わらずのお寝坊さんなのね」

 今日までそこそこ長い時間を共に過ごしてきた。
 一時は二人だけで生活を送っていたのだ、だからこそフィアーは彼の弱点を熟知している。

 ニノは一度眠ると少し騒いだ程度では簡単に目が覚めない。
 
「これも契約の影響なのかしら……それともレムの力? 防衛本能が働いている?」
 
 ニノの持つ再生能力は強力だが消費が激しい。
 更に言えばその性質上常に発動している状態に近い。
 日常的に魔力を放出し続けるのが如何に燃費が悪いか。本人が想像する以上に負担があるのだ。
 浅い傷の治りが鈍いのも無意識に魔力の消費量を抑えているのが原因とも取れる。

 つまり今のニノは身体を休ませる為に一種の冬眠状態に陥っているのではないかという仮説。

「……はぁ、よかった。まだフィリスには襲われていない……! 綺麗なままね」

 少年の服を少しはだけさせ、その白い肌にペタペタと触れていく。
 二人が同じ部屋で過ごすと聞かされた際、フィアーは失神しそうになるほど衝撃を受けたのだ。
 
 自分の物を他人に穢されるほど屈辱的なものはない。
 フィリスに関しては人間の中では多少認めているものの。それとこれとは話は別だ。
 幼馴染だろうが何だろうが、譲れないものは誰にも譲らない。
 
「――――お主はついに強硬手段に出たか!!」
「なっ、なななななな!! 何でウィズリィがここにいるのよ!?」

 毛布の中から突然現れた幼女の姿に驚いてフィアーはベッドから転げ落ちる。

「それはワシの台詞じゃ。あれだけノートを変態扱いしておいて、お主も同じ穴のむじなではないか!」
「それを言ったら貴方もこっそり忍び込んでいるじゃない!! どの口が言うのよ!!」
 
 顔を合わせるなり言い争う二人。
 仲が良いのか悪いのかわからないがとにかく内容は酷かった。
 ニノは相変わらず中央でぐっすりと寝息を立てている。起きる気配はない。

「一人部屋となってウィズの奴が心底寂しがってのう。勝手に入り込んだのじゃ。ワシは悪くないぞ?」
「どっちも貴方自身でしょうが!! それくらい予想はできていた癖に!!」

 彼女の事だ、ウィズの行動を読んだ上での企みのようで尚更性質が悪い。
 我が物顔で少年の部屋に入り浸るウィズリィにフィアーはひたすら抗議する。

「フィリスだけでなくニノニノの事もすっかり気に入ってしまってな、我ながら困った子じゃよ」

 そう言って持ち上げた少年の人差し指には歯跡がついていた。ウィズの悪癖だ。
 気に入った人物の指を咥えてしまうのだ。そうすると落ち着くらしい。

「ぐぐぐ……わ、私だって……!」

 衝動のまま、負けじとフィアーは左手を掴んで噛みつく。

 ――――ガリッ
 
 義手だった。

「いひゃい……歯が……!」
「……まぬけじゃな」
「うるひゃい!」

 口元を抑えながらフィアーは涙目になる。
 ウィズリィは最初こそ呆れながらも、その表情を真剣なものに切り替えていく。

「以前から疑問だったのじゃが何故そこまでしてお主はニノニノに固執する。何か特別な思い入れでもあるのか?」
「……別に、私が誰を気に入ったっていいでしょう?」 
「それはそうなのじゃが、あれだけ人を毛嫌いしておったからのう。理由が気になるじゃろう?」

 フィアーのニノに対する好意は本物でそれは疑うべくもない。
 ただそこに至る経緯を知る者はいなかった。ニノも特にそれについては言及していない。
 誰しもが自然とそういうものなんだと受け入れていた。
 
「命の恩人であるニノニノを親として見ているトル。赤ん坊の頃からその成長を見守り続けてきたノート。この二人はまだわかる。しかしお主の場合殆どニノニノとの接点がないではないか」
「……封印を解いてもらったわ」
「たったそれだけでか? 闇精霊としての使命を、生まれ持った固定観念を覆すほどのものとは思えん」
「…………」

 ウィズリィの鋭い視線を受けて、フィアーは具現化させた背中の羽に触れる。
 それは無意識の行動にも取れた。指先で触れた箇所には抉られたような深い傷が残っている。
 
「ニノは……私の存在を許容してくれた。孤独で、張り裂けそうだった心を救ってくれた……」
「……そうか」

 ウィズリィはそれだけで納得したように身を引いた。
 いつだってノートもウィズリィも必要以上に踏み込まず、かといって見捨てたりもしない。
 精霊としてだけでなく個としての尊厳を守ってくれる。
 
「さて、そろそろ時間じゃ。ワシも眠るとするかのう」
「本当、忙しないわね……」
「――――ふぇ? あ、ああ、こ、こわい……」

 一瞬にしてウィズリィの声色が変わった。主人格に戻ったらしい。
 ウィズはもぞもぞと身体を動かすとフィアーから逃げるようにニノの背中にくっつく。
 初対面の頃から変わらず彼女はフィアーを怖がっていた。

「こらー! 侵入者を掴まえたよ!」
「ひゃあ!!」

 前ばかりに気を取られている隙に何者かに背中を取られる。
 後ろから羽交い締めにされたフィアーは必死に暴れるもビクともしない。
 それもそのはず。相手は鬼の怪力を持つ少女であり、この部屋の主でもあった。

「寝ているニノ君に悪戯しようとしても無駄だよ!? お姉ちゃんが許さないからね!」
「は、離しなさい!! 寧ろ、貴方が悪さするだろうと思ったから私が助けに来たのよ!」
「フィリスさんにそこまでの度胸はありません。今日も朝から逃げるように一階に降りてきたみたいですし……」
「うわーん……私の意気地なし……しくしく」

 ノートは叱りつけるようにフィアーの鼻に指を乗せる。

「こっそり忍び込んだつもりなのでしょうけど。この部屋にも仕掛けてあるのですからね?」

 よくよく見るとニノの部屋には小型ゴーレムが複数体設置されていた。
 入り口から死角になるよう計算されており、油断したところを捕らえる二重の罠になっていた。
 
「げっ……どこまで厳重に監視しているのよ!」
「そうしないとこの屋敷の悪戯っ子たちが、次々とニノの私物を盗んでいくからでしょう?」
「……だって、落ち着くから……よく眠れるし」

 フィアーは少年の服を枕にしないと眠れないようになっていた。
 彼の匂いには安眠効果でもあるのだろうか。トルも影響されてか真似するようになっている。

「昨日は帰って早々に気絶しちゃったし……朝目覚めたらニノ君の顔が近くて転げ落ちちゃったし……部屋に戻れないから仕事を手伝おうとして壁を焦がしちゃうしで。もう駄目なんだぁ……おしまいだよぉ」
「おかげさまで朝の仕事が増えました。後でレックにも頼るとして……さて、フィアー。わかっていますね?」
「ちょ、ちょっと……それなら私だけじゃなくウィズリィも……!」
「フィアーちゃんも一緒に反省しようね……! 仲間ができて嬉しいよぉ……!」
「い、いやああああああああああああああ!!」



 ◇



「はぁ……どうしよう。これ、かなりまずい状況だよね……」

 普段なら昼食を取りながら雑談に花を咲かせているはずの食堂にて。
 今はその緩やかな時間とはかけ離れた空気が、全員が一堂に会するこの一室に漂っている。
 屋敷に備えてある机を並べてまるで会議室のように部屋の役割を変えていた。

「二ヵ月の活動禁止だもんね……その間の生活費どうしよう。借金もまだ返せてないよ! 大ピンチ!」
 
 フィリスは努めて明るく茶化しながら苦笑していた。

 事の発端は中級試験での僕たちの盗賊団への対応だった。
 基本的に冒険者は凶悪犯に対して生殺与奪の権限を得ている。
 しかし、権利を持つ事とそれを実際に行使するのとでは、意味合いは大きく変わるもので。

 当然ながらこの仕事は依頼人との信用によって成り立っている。
 そして前回の依頼はレックさん以前に中央の騎士団からの要請が始まりだったのだ。
 
 つい先日、その騎士団からギルド宛てに正式な抗議文が届いた。
 内容は僕たちの冒険者としての是非を問うもの。
 
 盗賊団の生き残りが凄惨な状態であった事。そこから闇属性の反応が見られた事。
 以上の二点から僕たちが非人道的な虐殺、拷問を行ったものだと認識されてしまったのだ。
 どうも連中が過去に所属していた組織の情報を欲して、中央からわざわざ身柄を引き取りに来たらしい。

「ダブラスさんたちが何とか穏便に事が進むように尽力してくださったから二ヵ月の謹慎で済んだけど。……本当ギルド長には足を向けて寝られないよ」

 事情を理解してくれている人たちが庇ってくれた。
 本来なら冒険者の資格ごと剥奪されてもおかしくなかった。
 こうして悩む事すらできなかったかもしれないと考えると、まだ救いはある方だ。

「ケイシアも騎士団に凄く怒ってたみたいだよ。実際に抗議文が届いたのは私たちだけだったみたいだし」
「ま、まぁケイシアさんのお父さんは騎士団の偉い人らしいからね……よくある話だよ」

 その辺はあまり触れない方が賢明だと思う。

「私が何も考えずに暴れたから、ごめん……ごめんなさい」

 フィアーは小さく縮こまるようにして謝っていた。
 あの時は僕も彼女に強く当たってしまったから。それも思い出しているのかもしれない。
 ただあの一件はフィアーが変わる契機になった気がするし、無駄だった事にしたくない。
 
 だから僕はフィアーを責めない。今回は運が悪かっただけなんだ。 

「現状だと二ヵ月は厳しいのか? 蓄えはどうなっているのじゃ?」
「うーん。最近出費が重なったからねぇ……節制すれば、ギリギリかなぁ?」

 家計簿とにらめっこしながらフィリスは一人呻く。
 それも彼女の楽観的な視点が含まれているはずなので、実際はもっと窮地に陥っている。
 
 ウィズリィ様とノート様を迎え入れる為の準備だったり。
 レックさんとセレーネの雇用費も含めてとにかく色々と時期が重なった。
 どれも僕の昇格を見込んでの出費だっただけに予定がかなり狂わされた。

「フィリスが巻き込まれたのが一番の痛手だったね」
「あはは……私も深く関わっちゃったしね……! 悪い噂はすぐに広まっちゃうものだから」

 獣人の村の件で各地へ謝罪に回ったのでフィリスも名前を覚えられていた。
 僕の協力者として巻き添えになる形で謹慎処分を受けてしまった。つくづく運が悪い。 

「タダ飯食らいを四人も抱えておるからのう。それにワシらの為に部屋まで用意させてしまった」
「そ、そうですね……私たちが負担になっているは確かです」
「うぅ……。ごめん……なさい」

 ノート様もトルも、フィアーと同じように落ち込んでしまった。

「いやいや、無理言って住まわせているのは僕たちの方なんですから、謝らないでください!」 
「だからといって、それに甘え続けるのは違います。何とかして私たちも仕事を探さないと……!」
「しかしワシらのような世間知らずの、それも精霊を雇うような奇特な人物が存在するかのう?」
「……うぅ。……トル、役立たず」

 気持ちはありがたいけど、きっと難しいと思う。
 箝口令が敷かれているとはいえ噂程度で精霊様の存在が囁かれている。
 やっぱりみんなどこか浮世離れした雰囲気があるから、断られる可能性の方が高い。

「えっと……お困りでしたら。私たちの給与を減らしていただいても……」
「それだけは絶対にしません!」「駄目だよっ!!」

 レックさんの提案を僕とフィリスが同時にかき消す。
 労働に対して正当な対価を支払わないなんて冒険者以前に人としてお終いだ。

「パパ、気の遣い方を間違っている。コイツらはそういうのを一番嫌うんだから」
「……申し訳ない。御二人に対して失礼な提案でした。しかし、セレーネの方がよく理解していますね?」
「た、偶々だから」

 セレーネは頬を赤らめ肉を頬張る。
 そういえば話に夢中でせっかくの料理が冷めてしまっている。
 ただ申し訳ない事に今はあまりお腹が空いていない。目の前の事で頭がいっぱいだから。

「とにかく、この二ヵ月間は僕たちの方で何とかするから。もしかしたらみんなにも苦労を掛けるかもしれないけど。その時はごめんね」
「が、頑張ってこの窮地を脱しようね、ニノ君!」

 部屋の中を、空元気なフィリスの掛け声だけが虚しく響いていた。
 


 ◇



「……駄目ですね。亜人が多く住まう工業区を中心に探したのですが、どこも条件が厳しいです。業務内容はともかく拘束時間が長くて……数週間も傍を離れるのであれば本末転倒ですし」
「まぁ当然じゃろう。好きな時間に働けてそれなりの稼ぎがある都合のいい仕事なんぞそうはあるまい」

 今後の方針を決める為にノートの部屋に四精霊が揃っていた。
 ニノは自分たちの力で何とかすると言っていたものの、それで黙って待っている彼女たちではない。
 既にそれぞれ行動を始めており、そして結果はどれもかんばしくなかった。
 
「きっとあの子たちは私たちの為に今以上に無茶をするはずです。……素直に頼ってもらえないのが寂しいですが。とにかく少しでも負担を肩代わりしてあげないと……いつか身体を壊してしまいます」

 ニノもフィリスも変なところで頑固なのだ。
 楽しい事だけではなく苦しみだって共有させて欲しい。
 そう考えていてもどこかに譲れない一線がある。踏み越える事を簡単に許してもらえない。

「ワシらが精霊である以上一定の隔たりがあるのは仕方がない。こちらから歩み寄るしかないじゃろうな」
「トルも……頑張る。でも、何をすればいいの?」
「………………」

 三人が部屋の中央で相談している間にもフィアーは一人ベッドの上で俯いていた。
 原因が自分にあるのだと彼女は理解している。それなのに誰からも責められない。
 それがかえって苦しい。お前のせいだと強く責められた方がまだマシだった。

「結局……私は戦う事でしか役に立てないのよ……」

 闇精霊として与えられた才能をただ振るえばいい時代はとっくの昔に終わってしまった。
 これからは自分の頭で考え行動し。そして周囲にも配慮しなければいけない。
 それがこの世界で生きるという事。少年の言っていた通りだった。

 だから必死になって考える。
 これからも彼の傍に居続ける為に。
 いつまでも甘えたままでは、きっと最後まで胸を張って隣には立てない。
 
「……そうよ。私には力しかない――――力はあるのよ!」
「フィアー? どうかしましたか?」
「ノート、これ以上仕事を探す必要はないわ。私たちも冒険者になればいいのよ!!」

 フィアーは立ちあがると拳を握り締め力強く宣言する。

「……本気で言っておるのか? そも、此度の謹慎はお主の闇属性が発端なのじゃぞ?」
「わかってる。でも、それでも私はニノの助けになりたいの。他にも考えたけどこれしか思い浮かばなかった。私には戦う事しかできないから。……その中できっと助けになれる事はあるはずよ!!」
「……トルも、役に立ちたい! 冒険者になる。もう待ってるのは、嫌だ!」

 フィアーの考えにトルも賛同する。
 二人は不器用ながらに自分のできる範囲で助けになろうとしているのだ。

「フィアーが本気で考えた末の結論であるなら悪い考えではないかと思います。謹慎が解けた後も二人のサポートができますし。何より立場として対等にいられます。一緒に行動ができるのですから」
「……人の組織に属するというのじゃぞ。今以上にあの子たちに迷惑を掛ける可能性も考慮した上でか?」
「当然……そうならないように考える。絶対にもう過ちは繰り返さない。私だって支えたいの!! ずっとずっとニノは私の事を考えてくれているのに、でも私は何も返せていない……嫌なのよ。ただ甘えているだけなのは……このままじゃきっと私はニノにとってただの精霊で終わってしまう……そんなのは嫌……!」

 フィアーは目元を拭いながら必死に訴える。
 闇の少女が見せる眩いくらいの強い感情に、この場の全員が驚いた表情を見せていた。

「……ウィズリィ、もういいでしょう? この子の決意の強さは十分届いているはずです」
「うぃずりぃ……トルからも……お願い。トルも……頑張るから」

 トルもノートもフィアーに感化されて彼女の後押しをする。

「――――いずれはこうなるじゃろうと予期しておった」

 ウィズリィは立ち上がると部屋の窓を大きく開ける。
 風が吹き込み、新鮮な空気が中に入り込む。熱くなった場を冷ましてくれる。
 頃合いを見計らって彼女はすました顔で振り返った。
 
「さて。善は急げとも言う。早速、ギルドへ向かうとするかのう」
「えっ、今からですか? 相手方の迷惑にもなりますし、後日約束を取り付けてからの方が……」

 この中の一部はギルドに顔が割れているのだ。
 全員で訪ねたりすればたちまちパニックになる事だろう。
 これ以上問題を起こせば謹慎期間が延びるどころかクビが飛びかねない。
 
 しかし、ウィズリィは指を振りながらなニッコリと微笑む。

「それなら既に済んでおるぞ? 今頃ギルド長がお待ちかねのはずじゃ」
「……はぁ? 流石に準備が早すぎるわよ!! ウィズリィ、貴方始めっからそのつもりでいたわね!?」
「ノート辺りが最初に言いだすかと思ったのじゃがな。まぁお主の熱い想いが聞けた事じゃ、それで良しとしよう」
「う、ううううううううう、うるさーーーーーーーーい!!」
「フィア……顔が、真っ赤!」
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