闇精霊に好かれた精霊術師(旧題:ダンジョン最下層でパーティに見捨てられた精霊術師の少年、闇精霊に気に入られ最強の精霊使いになる。)

お茶っ葉

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三章

54話 精霊神器

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「終わってみれば呆気なかったな。馬鹿が、俺をその気にさせなければ死なずに済んだものを」

 フレアは興奮したまま苛立ちと共に吐き捨てた。
 目障りだった少年の姿はない。灰が無残にも残されているだけだ。

 最初から殺すつもりなどなかった。
 寧ろ、半殺し程度に抑えて長く苦しみを味わわせようと考えていた。
 怒りに身を任せた結果、予定とは違った結末を生んでしまった。あとでドリンに怒鳴られるかもしれない。
 
 それを面倒に思いながらフレアは肩を回す。
 想像以上に力を使わされた。その事実が余計に腹立たしい。

「まぁいい。本気で戦った結果だ。グチグチと文句を言われる筋合いはない」

 中央ではその辺の規則は緩い。真剣勝負の場では血が流れるものなのだ。
 大勢の立会人もいて不正を働いた訳でもない。今回は不幸な事故として処理されるだろう。
 
 フレアは焼け野原となって人が減った周囲を見やる。そして目が合った。
 全身に蔦を絡ませた頭のおかしい同僚。何を考えているのかわからない瞳が揺れている。
 こちらを責めているような、悲しんでいるような。どちらともつかない感情の波。

 これでもフレアはドリンとは幼少からの長い付き合いになる。
 最初から口の減らない気に食わない女だった。それでもフレアは彼女の実力だけは認めている。
 過去に何度か手合わせをした事があるが、一度として傷を負わせる事も叶わなかった。
 
 火と樹。属性の相性で有利を取りながらも手も足も出ない。
 あまりにも実力が桁外れであり、傍にいるだけで無力さを感じさせられる。
 その人知を超えた技術を盗もうとずっとつきまとっているのだ。
 
 いつの日かお前を越えてみせる。
 そう宣言するようにフレアは、ドリンに対して首を掻き切る仕草を見せつける。 
 相変わらず彼女の反応が薄い。いや、よく見るとその口が僅かに動いていた。

「フレア、どうやら…………ここまでのようだな」
「は? それはどういう――――」

 真意を確かめようとした瞬間。
 背中に怖気が走った。経験がそうさせたのか身体が反射的に動く。
 激しい金属音。弾かれるように地面を滑る。爪を突き立て姿勢を制御する。

「なっ、俺が……打ち負けただと…………!?」

 油断はしていない。念を入れて強化も続けている。
 そもそも平常時の状態ですら力負けする事などなかったはず。にもかかわらず弾かれた。
 眩暈が襲う。信じられない。脳が事実を拒絶する。敵の姿は見えない。 

「何が、起こってやがる……?」

 疑問に答えるのは無機質な咆哮。
 白銀の人形ミスリルゴーレムだった。土属性単体で生み出せる最強のゴーレム。
 大地の精霊術師であるニノが扱えても何らおかしくない。おかしくはないが、やはり何かが変だ。
 取り返しのつかないミスを犯したような、そんな焦燥感に駆られる。

「クソッ、嫌な予感がする」

 砲台を二つ消費し、白銀の人形を強引に捻じ伏せる。
 召喚主が近くにいなければ所詮は木偶の棒。妨害もなくいとも簡単に崩れ落ちる。
 
 弱い。弱すぎる。時間稼ぎか、砲台を使ったのは間違いだったか。
 何が正しくて何が間違っているのか判断がつかない。不安が高まるばかりだ。

「奴はどこに行った!? まさか、地中潜行か……? いや、それにしては長すぎる」

 熟練の土属性使いは地面に潜伏する術を持っている。その技術に聞き覚えがあった。
 火属性使いが炎と一体化できるように、しかしそれには前提として膨大な魔力が必要である。
 もって数秒。その間も常に魔力を浪費し続ける。戦術としてそう使い物になる代物ではない。

 地中に身を潜めながら召喚魔法を行使するなんて現実的ではない。
 だが実際に目の当たりにしている。それ以外に考えられない。
 まさしく精霊の……神の御業。

「死角を狙っている……? ――同じ手を喰らうかああああああ!!」
 
 フレアは意識を集中させ、今度こそは奇襲に先手を打つ。
 出現に合わせて鉄爪を振るう。多少は驚かされたがやはり中身は素人のまま。
 依然として攻め方が単調である。爪が少年の身体を容赦なく貫く。

 そして、人の身体が崩れた。

「何ぃ!?」

 生温い感触がフレアの腕を包み込む。
 少年の姿が歪み、泥となって覆い被さる。
 全身が重い。触れた箇所から泥が硬直化していく。 

「石化魔法の一種か、小賢しい真似を……!」

 炎を活性化させて自身の身体を泥ごと焼き尽くす。
 自傷により皮膚が裂け、血が弾け飛ぶ。安い代償だった。
 隙を潰してもう一度奇襲に迎え撃つ。急所を狙った一撃を弾く。

 ――ガガガ、ギィーーーーン

 やはり弾かれてしまう。痺れる腕に固い感触が残されていた。
 
「やっと制御ができた……。さて、ここからが本番だ」

 目の前で純白の長い髪が揺れていた。
 穢れのない真っ直ぐな二つの瞳が、フレアの全てを見抜いている。

「お前は……本当にあのニノ・アーティスか……?」

 疑問に対して少年は静かに頷く。
 元より中性的であった少年は、髪が伸び、より女性らしさを際立たせていた。
 まるで別人を相手にしているようでフレアは混乱する。一体どちらが本物なのか。

「その名を一生忘れられないように、身体に刻み付けてやるから覚悟しろよ!」

 そう答える少年の手には、その容姿には不釣り合いの重槍が握られていた。
 


 ◇



「地槍グングニル……これがノート様の本来の力」

 精霊様が与えられた使命と共に、女神様から託された原始の力。
 彼女たちだけに扱えるとされる神の武器。

 僕が以前使った創生の剣は、中身が空っぽの抜け殻のようなもので。
 その内側に秘められていた力の源は、今は各精霊様たちに宿っている。
 つまりこの重槍は創生の剣の一部。僕の望みに応じて戻って来てくれたんだ。
 
 今、僕は限りなくノート様と、土属性と一体化している。
 その反動からか、肉体にも変化が訪れていて。視界に映るところで前髪が伸びていた。
 少し頭が重く感じる。風で揺らいで耳がくすぐったい。
 
 もしかしたら見えない部分も変化があるのかもしれない。
 想像するだけでも恐ろしいので今は考えないようにしよう。この戦いにだけ集中する。 

「さぁ、仕切り直しだ。今度は簡単にはいかないぞ」

 握っているだけで魔力がとめどなく溢れてくる。終わりの見えない力の奔流。
 ただ問題なのは僕自身が槍を持ったのが初めてなのと、全身に襲い来る疲労感。
 瞼が重たい。今すぐにでも闇に沈んでしまいそうになる。この状態は長くは続かない。
 
「前々から男女だとは思っていたが、ついに恥も外聞もかなぐり捨てて女にでもなったか!」
「……こっちも余裕がないんだ。くだらない挑発は聞かないから」
「ハッ、そう言われて素直に相手すると思うか?」

 僕に時間がないと知ると、フレアは逃げるように距離を取る。 
 させるか。地面を蹴り跳躍する。精神的な負荷とは真逆で身体が軽い。
 男の驚愕した顔が大きくなっていく。

「早いッ、撃ち落とす!!」
「無駄だ、僕を守れ土壁アースウォール

 壁が炎の弾丸を受け止める。
 以前と比べても数倍の強度。足場に使い更なる飛翔、上空から槍を叩きつけた。
 割れる地面。衝撃から逃れようとするフレアを見つけ、右の踵を軸に身体を回して円を描く。

 重槍の柄に当たってフレアの表情が歪む。
 過去に教わった棒術の要領で槍を振り回す。重量のある武器は単純に鈍器としても強力だ。

 武器を使うというより、武器に使われている。
 それでも今は十分。人一人を打ち倒すには過剰すぎるほどの力。
 素人同然の横振りでも、容易く炎を打ち消し対象を捉える。

「こ、こんな……素人同然の戦い方で……!!」
「見える、そこだ!」

 精霊の炎に護られたフレアの身体が宙を浮く。
 一閃の後に戦況が大きく動く。目にも止まらぬ速さで穂先が相手の肩を貫いた。

「ぐふっ……」

 フレアは鉄の匂いを漂わせながら、砂の上に赤い雫を垂らし転がっていく。
 逃がさず連撃を加えていく、両腕を弾いて防御の構えも取らせない。蹴りを叩き込む。
 口から胃液を零しながら、フレアはギリギリのところで立っていた。
 
「がっ、ああああ、ば、馬鹿な……一方的に押されているだと!? ……何が起こっているんだ!?」
「これで終わりか? 反撃はどうした? もう後がないぞ?」
「ち、違っ、こんなはずは……俺が負けるはずが……!」

 得意としていた近距離戦ですら押されている。
 フレアは目に見えて動揺していた。隙なんて幾らでも見つけ出せる。
 それでもあえて相手の出方を待つ。ここまで来たら納得のいく終わらせ方をしたい。

「俺が……こんなところで終わるはずがないんだああああああああああ!!」

 最後の一つの砲台が弾けて、フレアの身体の中に取り込まれる。
 怒りを魔力に変えた正真正銘、全力の炎。生命を滅ぼす死の息吹。

「地獄の……地獄の業火に……焼かれて消え失せやがれエエエエエエエエエ!!」
「フレア、これで終わりだ」

 槍を地面に突き立て、迎え撃つ準備を始める。
 精霊神器はただの武器じゃない。より効率的に属性力を集める為の触媒だ。
 重槍が光の粒子となって身体に取り込まれていく。力の余波が天にまで昇り雲が割れる。
 
 胸に宿すのは純粋な願い。
 悔しさを、無念を、授けられた優しさを、想いの全てを力に変えて。
 この戦いに終止符をつける一手。心の中で最初から決めていた。
 
「目覚めよ、太古より封印されし破滅の巨人。その禁忌の力を僕に示せ。眼前の敵を捻じ伏せろ!!」

 願いを解き放ち。腕を伸ばして命じる。
 巨大な二重魔法陣から緩やかに古代兵器グランゴーレムの左腕が降臨する。
 金色に輝く装甲はこれまでの不完全さはなく。神々しさと禍々しさを兼ね備えている。

「俺があああああああ、テメェみたいな甘ったれにいいいいいいいいいいいいいいいい」

 フレアの全てを巨人の手のひらが受け止めた。
 装甲を覆う完全防壁によって無残にも霧散していく。中心から青白い光を伴った砲台が出現。
 土と水。二つの属性力を併せ持つ破滅の光。地獄をも凌駕する炎を撃ち出した。

「あっ、あ、あぁぁぁぁ……嫌だ……嫌だあああああ! 来るなあああああああああ!!」

 鼓膜を震わす轟音。世界を砕く衝動。
 大地を割り空間を切り裂き、フレアの身体を紙屑のように吹き飛ばす。

 流石にこれだけの規模の威力、当たれば周辺の生命をも根絶やしにしてしまう。

 軌道を曲げ天高く昇った光線は空中で炸裂。冷たい水滴となって落ちてくる。
 それで十分だった。フレアは死の恐怖という病に侵され腰を抜かしている。
 顔面を蒼白させ小鹿のように足を震わせていた。後は、どうとでもなる。

「歯を喰いしばれよ!」
「え――――がああああああっ、あ、あっ……」

 その無防備な身体にただの拳を叩きつけた。男は大の字になって倒れる。
 非力な一撃。大した威力もなかったはず。それでも立ち上がってくる気配はない。
 フレアの心は完全に折れていた。ついに僕は力でも精神でも上回った、過去の因縁にケリをつけたんだ。

「……僕の勝ちだ」

 静かに息を吐くように宣言する。
 背中から少ないながらも、残った人たちからの祝福する声が上がっていた。 
 


 ◇


 
「ニノ、ニノ!!」
「ノート様! 僕、やりました――――よおおお!?」

 目にも止まらぬ速さで駆け寄ってきた彼女を受け止めようと両手を広げたら、そのまま押し倒された。 
 前から思っていたけど意外と力強い……。あの重槍を振り回していた時点で何となく察してたけど。
 
「おかえりなさい。無事で、何よりです。……とてもとても勇ましかったですよ?」
「ノート様のお力添えのおかげです」
「そんなの、貴方の為でしたら私は……全てを捧げると決めましたから」
「いつの間にそんな一大決心を……。もっと自分を大事にしてくださいね?」
「もう、それをニノが言いますか?」
「うっ……説得力がないですよね。ごめんなさい」
「でも、もう慣れました。危なっかしい弟を見守るのも姉の大事な役目ですから」
「これも……姉弟の距離ですか?」
「ええ、誰にも邪魔できない私たちだけの距離です」

 額を合わせすぐ目の前で彼女は微笑む。
 離れ際に頬に暖かい何かが触れた。勝利の女神の祝福だった。
 僅かな動作も見逃さずにフィアーが指を差して騒ぎ出す。
 
「にゃああああああ。ノート、貴方何しているのよ!? それは調子に乗りすぎでしょ!!」
「弟を甘やかすのも姉の特権です」
「……しくしく。見せつけられちゃた」
「ふぃりすないてる? よしよし、なかないで?」
「……むぅ。ずるい」

 後ろが阿鼻叫喚の地獄絵図になっている。
 姉弟なんて言い訳でしかないのは周囲にはバレバレで。
 不義理を働いているとは自覚している。フィリスにはしっかり謝っておこう。

「突然髪が伸びるものだから驚いたぞ。あれだと見た目を相まって女にしか見えないな」
「あー、やっぱりアレは夢じゃなかったんだ。現実を直視したくなかったよ」
「何故だ? 性別を変えられるんだぞ、便利そうじゃないか」
「セレーネは男になれたとしたらどうするの?」
「女の亜人は何かと舐められやすいからな。後は筋肉もつきやすそうだ」
「そう言われると……便利かもしれないけど、逆だしなぁ……」
 
 どうやらあの現象は、神器を手にしていると起こってしまうみたいだ。
 昔からよく間違えられていたけど、髪が伸びると本当に男として見てもらえなくなる。
 容貌は母さんのを色濃く受け継いでしまったから。虐めの原因にもなってたくらいだし。
 
「もうしばらく続いてくれたら面白かったんだが。私の使用人の服とか着せてみたかった」
「いいですね。きっとニノ様に似合いますよ。よろしければ今から御作りしましょうか?」
「やめてください……。そんな趣味ありませんから!」
《ボクも見たかったなぁ……本人の視線からだとよく見えないし》
 
 精霊神器。強力だけど使うのを躊躇う欠点があるらしい。
 今思うとほぼ全員に見られていたんだよなぁ。恥ずかしい。

「ところでさ、どうしてニノ君はグランゴーレムを一人で呼び出せたの? しかも完全体だったよね」
「ん、それはフィリスたちが頑張ってくれたからだよ」

 戦いの余波で魔法防壁が早々に破壊され炎が外部にまで浸食した。
 それを二人が率先して鎮火にあたってくれたので、周囲には水属性が充満していた。
 あとはこちらで引き寄せて複合させる。力はより強い力の方へ集まる性質があるから。 

「悔いを残さずに終わらせられたのも、二人の助けがあったからだよ。ありがとう」
「そっか。それなら走った甲斐があったね!」
「わーい。ほめられた!」

 フィリスとウィズちゃんが手を合わせながら喜んでいる。
 もちろん、ただ水属性があっただけではこれまで通り未完全な召喚に終わっていた可能性もあった。

「そうですか。一時的とはいえ私はウィズリィを上回ったのですね……」
「それだけ強く僕の勝利を願ってくれた。ノート様にも感謝しています」

 これまでの僕はどう頑張ってもフィリスの力と釣り合わなかった。
 単純に技術の差というより、ウィズリィ様の実力が突出しすぎている面もあったと思う。
 現に今までグランゴーレムの発動はフィリス主体であって、僕は補助的な役割に過ぎず。
 それも向こうがある程度こちらに合わせる事で成り立っていた。
 
 力を抜くというのは意外と技術が必要なもので。
 特に僕たちは一人じゃなく、精霊様の魔力も含まれるので余計に調節が難しい。
 結果、今日に至るまで未完全な召喚魔法となっていた。それがついに解消されたんだ。
 
「やっと完成したんだね~。私たちの努力の結晶……ここまで本当長かった」
「左腕だけでも凄まじい威力だったから。使い所には気を付けないといけないけど」
「そういえば冒険者さんの何人かが泡吹いて倒れてたよ。どこかに運ばれていったけど大丈夫かな?」
「明日から変な噂とか流れるんだろうなぁ……」
「あはは、ご愁傷さまだね……」

 きっと今頃、ギルドでは僕の噂が尾びれ背びれを付けて広まっているはず。
 以前ポートセルトでもそうだった。グランゴーレムは中央でも存在だけは認知されていたけど。
 ついに大衆の前で披露してしまった。勢いのまま使ってしまったけど、後が怖い。

「良い物を見せてもらった。期待していた以上の内容だった」
「む、ドリンちゃん。何の用かな?」

 若干棘のある声でフィリスが対応する。
 ドリンは機嫌がいいのか少しだけ口角を上げて、初めて見せる表情で驚いた。
 精霊会の頃は常につまらなそうにしている姿を見かけていたから余計に。 
 
「私が言っていた通りニノ君は強いでしょ! これで見直してくれた?」
「もう一度言うが期待していた以上だった。こちらとて最初から甘く見ていた訳ではない」
「あれ? そうだったの? でも興味がないって言ってたような……」
「以前のように内に秘めた力を出し惜しみするような男であればな。だがそれも杞憂に終わった」

 後ろで樹人トレントがフレアを乱暴に引き摺っていた。
 太い幹を人の手足のように扱う土人形ゴーレムと似たような魔導生物で割と乱暴者だったりする。
 土人形と違うのは彼らは己の意思を持つという事と、環境に応じて進化するという事。
 
 樹属性使いはかなり希少なのでそれ以上詳しい事は知らない。
 ただ動きが想像以上に激しい。さっきからフレアがグルグルと振り回されていた。

「あの、殴った本人が言うのもなんだけど、怪我人にそれは酷くないかな……?」
「敗者に相応しい姿だろう。フレアも最近調子に乗っていたからな。いい薬になる」
「えぇ……二人は一応、仲間なんだよね……?」
「お前たちが考えているような深い関係などではない」
「へぇ、複雑なんだ。奥が深いなぁ」
「……深くないと言っている。わざとか?」
「うん、わざと」
「そ、そうか……どういう反応をするのが正解なんだ?」

 いまいち掴み所がなく感情が読み取りにくい。
 かといって付き合いが悪い訳でもない。こうして冗談にも乗ってくれたりするし。
 僕を見つめる視線には確かな熱がこもっていた。子供のような純粋な眼差し。期待、なんだろうか。
 
「ともかくだ。本戦でお前たちと剣を交えるのを楽しみにしている。それまでには完璧に使いこなせるようになっておけ。私はこの時を心待ちにしていた。二度も期待を裏切るような真似をしてくれるなよ?」

 用は済んだとばかりにドリンは背を向けて去っていく。虚ろな男を引き摺って。
 使いこなせと言うのは精霊神器の事だろうか。僕が彼女を裏切ったって……何の事だ?

「……もしかして最初から僕の事を知っていたのか。この身体に眠る力を……まさか」
《信じがたいけど。ニノちゃんにボクの血が流れているのを当時から知っていた可能性はあるね》

 正直、ドリンに関しては殆ど情報がない。
 そもそも最初から訓練が必要ないほどの実力の持ち主でありながら精霊会に顔を出していたし。
 フレアやフィリスでさえ敵わなかった。そして僕の秘密を知っているかのような口ぶり。
 
 まるで底が見えない。

「予選を飛ばしてもう本戦の話って、ドリンちゃん相変わらず凄い自信家だね……。確かに強いのは認めるけど」
「強いと言っても相手はたったの二人だぞ。恐れる必要はないな、数の力で押し切ってしまえばいい」
「わーい。おしきるおしきる!」
「ウィズは、よくわかって、なさそう……」

 結局のところ、今大会はユニオン対抗戦なので人数差は大きく関係する。
 どんな実力者であろうと、限られた空間で複数人を相手するのは厳しいもの。
 対等の条件で戦えないというのは惜しい気もするけど、そこは彼女たちの問題なので仕方がない。

「そう上手くいくでしょうか……?」
「ノート様?」

 小さくなるドリンの背中を見つめながら不安気にノート様が呟く。

「いえ、今になって初めて気が付いたのですが、あの方は、少しだけニノに……似ていたんです」
「はぁ? どこが似ているのよ。あのいけ好かない女とニノが一緒な訳ないでしょ?」
「見た目とかそういう話ではなく、中身の部分でですが……私の気のせいでしょうか?」
「興奮しすぎて頭がおかしくなったんでしょ。私たちの目の前でニノを襲うくらいだし。……ケダモノ」
「……悪ふざけが過ぎたと自覚していますけど。その言い草はあんまりです……!」

 ノート様はかぶりを振って忘れてくださいと付け加える。
 気になるところだけど、どちらにしろ強敵であるのは確かなので注意しておこう。
 一度挫折を味わったフレアだって、更に強くなって戻って来る可能性はある。

「さて、そろそろ宿に戻ろっか。正直、すっごく疲れて明日が心配になるんだけど」
「大丈夫大丈夫。どうせいつもみたいに自己修復するんでしょ?」
「傷は治っても体力までは戻らないんだよね……筋肉痛とかがあとで響かないかなぁ……」

 治療魔法も万能じゃない。
 歳を取れば効き目が薄まったりするし。怪我の種類によっては逆効果になったり。
 今は若いからそこまで気にする必要はないけど。何が言いたいかというと、早くベッドに転がりたい。

「ニノ君、年寄りみたいな事言ってる」
「ノートと比べたら皆若いでしょ」
「フィアーは一々私を引き合いに出さないでください! 年増じゃないです!」
「それを言ったらフィアも同じ……」
「としまーとしまー!」
「ほら、ノートのせいでウィズが変な言葉覚えたじゃない」
「私の責任ですか!?」

 種族が違うのだから歳の差なんて些細な事なのでは?
 別に容姿に影響されるでもないのに。女の子としてはやっぱり気になるんだろうか。

「あれ、そういえばケイシアさんたちは? 姿が見えないけど」
「先に戻ったみたいだよ。今日は応援に駆けつけてくれたけど。明日からは敵同士だしね~」
「一言お礼を伝えたかったんだけど。タイミングが悪かったかな……?」

 実家の仕事で忙しいのか、ケイシアさんの姿を見かけたのは今日が初めて。
 宿の件もあるし直接話す機会が欲しかった。明日からは予選もあるし、すれ違いはこれからも続く。

「いざって時に剣が鈍っても困るから。慣れ合いは最小限に留めるのでしょ。まっ、私は顔見知りであろうと邪魔立てするなら容赦なく潰すけど」
「フィアーちゃんは程々にね? ただでさえ闇属性は目立つから。慎重に行動しないとっ」
「ええ、全力で手加減して滅茶苦茶にぶちのめすわ! 腕の見せ所ね」
「我々の偉大な闇の力を愚かな人族共に見せつけてやりましょう! フィアー様、万歳!」
「私の可愛い娘が楽しそうで何よりです」
「……う~ん? 心配だ、本当にわかっているのかな……?」
「いっぱいつぶす~! つぶす~!」
「フィアとセレーネはウィズに悪影響を与える……離れる」

 トルがウィズを抱きかかえながらこちらに逃げてきた。
 年下ができてトルはすっかり良いお姉さんになっている。
 目線を合わせて服に付いた泥を払いながらポンポンと撫でている。二人とも可愛い。
 
「ところでウィズリィはいつになったら戻って来るのでしょうか?」
「そういえば最近見かけないよね。どうしちゃったんだろう?」
「しらない~!」
「本人がそう言い切っていたらおしまいでしょ……どうするのよ。明日が本番なのよ?」
「まぁまぁウィズリィ様の事だし、直前になったらひょっこり戻って来るよ!」
「だといいのですが……」
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