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三章
59話 大きな子供
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「闇ダアアア。喰ライ尽クシテヤル」
「まるで猛獣ね。頑丈な鱗がちょっと厄介だけど、思考が単純だから与しやすいわ」
雷龍が四足で跳躍、素早い動きでこちらに迫る。まるで大型獣の狩猟だ。
セレーネより更に深い闇を抱えるフィアーに狙いをつけている。圧倒的な質量差。
「フィアー!」
「平気よ。この程度の相手に苦戦するような私じゃない!」
漆黒の鎌が龍燐を傷付ける。
踊るような足捌き、衝撃を受け流すと連撃を与えていく。
削り落とされた破片が散らばる。棘が突き刺さりフィアーの肌にも血が流れている。
雷龍が呻き声を上げた。
辺りを漂う闇を吸い取って怒りを増大していく。
「ニノ様いけません! 闇精霊では龍の本能を刺激しより狂暴性が増すだけです! 光です、光属性を使使ってください!」
「光属性? でも今は魔ノ月で本領が発揮できない……足りるだろうか?」
肝心のレムちゃんが眠りについていて、僕一人では大きな制限がある。
単体で少量を使うならまだしも。複合魔法や上位の魔法になると相当気張らないと。
「以前貴方が消滅しかけた時に私が闇属性を使って防ぎ止めた。体内に留まる少量の属性を中和するのに大きな力は必要ないわ。龍人自体が光属性との親和性も高いから、継続的に続ける方が重要よ!」
「どちらにしろ難しい相談だよね」
一度に大きな力は必要ないにしろ、継続して送る為には暴れる相手の動きを止めなければいけない。
しかも傷付ければ傷付けるほど外界の属性を吸収して闇が肥大化していく。
闇は闇を惹きつけるから。なるべく傷を負わせず近付かないと。
そして一撃喰らえば即死。……無茶苦茶だ。
「それじゃニノは諦めるの?」
「……まさか。試練は困難なほど燃えるってね! ここまで逃げっぱなしで飽き飽きしていたところだよ」
「ふふっ……奴の右腕にセレーネが残した傷跡がある。あそこからなら効率的に進められるはずよ」
「よし、方針は決まった。あとは実行に移すだけ。最初から全力でいくよ!!」
地面を踏みしめノート様の力を借りる。召喚した地槍を握り締めた。
身体に起こった変化を意識しないようにしながら、雷龍を迎え撃つ。
「邪魔ヲスルナアアアアアアアア!!」
「させるか!」
腕に掛かるとてつもない重量。属性同士のぶつかり合い。
相手が龍ともなると精霊神器といえど簡単な力押しは通用しない。
土属性の加護と属性の相性の追い風を受けて、身体を捻り敵の体重を利用する。
「グオオオオ、グアアアアアアッ!!」
勢いよく転がりながらも強引に立ち上がると、木々を蹴りながら再度咆哮。
またしても狙いはフィアーか。振り下ろされた拳に地槍を合わせる。
無茶な攻め方が祟ったのか今度は簡単に弾き返す事ができた。
相手が着地する間際に足元を沼に変える。片足が沈み体勢が崩れた。
「今だっ!!」
「ヌウウウッ?」
右手から伸ばした光の糸をセレーネが残した矢傷にまで伸ばす。これで僕と雷龍は繋がった。
魔力で紡いだ糸だ。簡単には断ち切れず、そしてお互いの退路も断たれた。
「龍人相手にやるわね。それでこそ私の精霊使い。その格好もとても似合っているわよ?」
「褒めて貰えるのは嬉しいけど。今の僕の姿は目を瞑ってて欲しいかな……」
「嫌よ、どんな姿でも貴方は私のものなんだから。全て記憶しておくわ」
「……度量が大きいね」
長髪が耳をくすぐる。押さえつけられた胸が少し苦しい。
性別まで変わってしまう切り札は、使うのがこれで二度目だけどやっぱり慣れない。
この状態だと全てにおいて元の身体より優れているのが悲しいところ。
「早く男に戻りたいし、さっさと終わらせるよ!!」
地上の覇者である龍との格闘戦。
敵の動きを細部まで読み取れる、元々動体視力には自信があった。
そこに神器による魔力付与で更なる強化を受けている。気分はともかく脳の回転は最高潮だ。
「グルウウウウウウウウウウウ」
手当たり次第に岩が破壊され、雷龍が触れた箇所が黒ずんで消滅している。
当たれば痛いでは済まされない。常に回避を心掛けた方がいいか。
そうなると必然的に距離を取る必要があり、糸の維持が難しくなる。
「困ったな。あの威力じゃ盾で受け止めるのは危険そうだ」
「ニノ様。こちらをお受け取り下さいませ!」
「これは?」
パオラさんから投げ渡されたのは記章だった。
その数にして二十。最初に彼女が見せびらかしてきた物の殆どだ。
「そちらの記章には魔法防壁? とやらが内封されているとの事。上手く活用してください!」
「そうか、欠点ばかり気にしていたけど。本来の用途はそっちの方だったね。助かります!」
これだけの数が合わされば盾と組み合わせて並大抵の攻撃は防いでくれる。
一撃即死の危険はなくなり、だいぶ余裕が生まれた。
「うちが盾になるよ。将来の旦那様に生傷なんて負わせられないからね……いひひ。見せ場到来!」
クムさんが無い胸を張って前に躍り出る。
自分より小さな子に盾となってもらうのは抵抗あるけど。
龍人だから身体はとてつもなく頑丈で、歳も僕より遥かに上なんだろう。
「……旦那様はお断りしますけどね。龍人族のおもちゃになるつもりはありませんから」
「がーん。フラれた。落ち込むよ~はぐぅ」
「クムさん、今は真面目にやるところですよ! ニノ様、この子を適当に使ってやってください!」
「どの口が言ってるのよ! 不真面目さの権化の癖に! 後で覚えていなさいよ!」
フィアーは悪態つきながらも転移魔法を発動する。
戦場の至る場所に黒い靄が、簡易的な転移ゲートが複数。
雷龍が接近。咄嗟に後ろの靄を潜り抜ける。
転移、すぐ上空の靄から降り立ち雷龍の背中を取った。
光剣を伸ばして叩きつける。龍燐によって弾かれ霧散した光属性を吸収して糸が強固になる。
「グウゥゥゥゥゥゥ」
「よし、効いている!」
本能によって操られた身体は常に非効率な運動を繰り返している。
普段よりも消耗が激しいはず。少しずつ体力の方を削っていけば中和も早まる。
「いい加減に目を覚ます! 旦那様に無理させるなっ!!」
「世話のかかる子ですね。まぁそういうところが可愛いのですが。少々おいたが過ぎますよ!」
反転して牙を向けてきた雷龍を、クムさんが宣言通り盾となって受け止める。
力尽くで押し倒し、立ち上がったところまた押し倒す。豪快な戦い方だった。
同時にパオラさんが水属性で妨害。足元を執拗に狙って援護する。
「ガアアアアアアア! 邪魔ダアアアアアアアアアアアアア!!」
全身から放たれる無数の雷光を大地の盾と防壁で受け止める。
衝撃で記章が五つほど吹き飛んだ。距離が近いとはいえふざけた威力だ。
「消耗が激しいのはこちらも同じか……!」
日頃意識の外で操っていた光属性を一人の力で呼び寄せる。
想像以上に疲労が溜まる。普段どれだけレムちゃんに助けられていたのかがわかる。
義手が悲鳴を上げていた。僕の身体に流れる魔力の異変に勘付いたらしい。
「焦らないで、着実に効いているわ。奴の動きが鈍くなっている。形振り構わない攻撃がその証拠よ」
倒れないようにフィアーが僕の腰に手を回して支えてくれている。
そうだ。焦る必要はない。結果をすぐに求め過ぎてはいけない。己惚れるな。
「――――おい、今ならやれるんじゃないか?」
「龍人と《精霊会》で争っているぞ。好機だ!!」
「お前たち一斉にかかれ!!」
森の中が騒がしくなっていた。人の気配が増える。
地面に無数の炎の矢が突き刺さった。点滅して魔力が膨張する。
「なっ、今はそれどころじゃないっていうのに!? くそっ避けられない!!」
爆風を浴びて吹き飛ばされそうになる
記章の一つにヒビが入った。数には余裕があるとはいえ、気が散って集中できない。
「アイツら安全圏からよくも……! 待ってなさい! 今から私が――」
「――――雑魚の相手はこの私めにお任せください」
パオラさんが単身で敵陣に突っ込んでいた。
「で、で、出やがった!! 従者の格好をした龍人だ!!」
「相手は一人だ。龍人といえど三十人以上で囲めば勝機はある! 後ろを狙え!!」
「前衛が時間を稼いでいる間に、魔法使いは奴の足を止めろ!」
こんな場所に三十人も集まって来たのか。
あらかじめユニオン同士で手を組んで邪魔な相手を蹴散らしてきたんだろう。
規約には反していないとはいえ、彼らもそれで勝って納得できるのか疑問だけど。
「汚らしい口を開くなゴミ風情が。同じ空気を吸う事すら烏滸がましい。……失せなさい」
パオラさんが冷たい瞳で言い放つと、どこからか取り出した武器を肩に担ぐ。
鱗に覆われた大剣には光沢のついた牙が二本。どれも彼女たちと同じ種族の素材が使われている。
「ひぃ、ひぃぃぃ。あ、足が……動かない。こ、こんなのに勝てるのか……!?」
「怯むな! 遠距離だ!! 遠距離から狙うんだ!! 近付けさせるな!!」
「は、早い。早すぎるぅぅぅぅ捉えられないぃぃぃぃ!!」
ただそこに立っているだけで敵が戦意を失っている。
「龍人を相手にするのがどれだけ愚かしい行為か。その身に刻んで差し上げましょう」
一振りで五人が吹き飛んだ。
激しい血飛沫が舞い負傷した冒険者たちが膝を付く。
そこに容赦のない蹴りが。腕と足を折り、周到に戦闘力を奪っていく。
「龍人が龍殺しの大剣……? 貴方たちに常識って言葉は存在しないの?」
「昔に鬼人族から押収した魔剣です。これぞ亡き同胞に対する最高の供養」
「最高に狂っているわね……」
一人で三十以上の冒険者たちを相手に暴虐の限りを尽くしている。
素人同然の剣捌きから繰り出される叩きつけは、途方もない破壊を生み火属性並みの爆発を起こす。
その卓出した足捌きは、ただでさえ目立つ従者の格好をした女性の姿を誰も捉えられていない。
まさしく暗殺者。
魔族専門の殺し屋は人族が相手であっても何の障害もない。
「アハハハハハ、かつての戦場を思い出します。泣きなさい。許しを請うのです。私はお世辞にも剣の扱いは上手いとは言えません。手が滑って頭を吹き飛ばされても知りませんよ!?」
「ゴフッ……や……め……」
「た、助け……ギャアアアアアアアアアアアアア」
また一人声が聞こえなくなる。
殺してはいない。大会中の故意の殺人は罰則の対象になるから。
「ニノ、よく覚えておきなさい。あれが戦争を生き抜いた狂人の戦よ」
今を生きている僕たちと明らかに練度も意識も違う。
どれだけ優れた熟練者であろうと、数十倍もの軍勢に囲まれては瞬く間に押し込まれてしまう。
集団の強さなんて誰に教えられずとも子供でも理解できるし、それを覆すのが難しい事も。
彼女にはそんな常識すら通用しない。
長く生き、戦争を経験している人物だからこそ得られる強さ。
龍人としての能力だけじゃない。その精神面においても強靭で他者を圧倒している。
今更ながら身震いしてきた。可能性として今後こういった超越者とも争う事になるんだ。
「駄目だ……目の前に集中しないと!」
超越者とまではいかなくても、目の前の雷龍も強敵だ。
いきなり天上を見上げるのではなく。一歩ずつだ。光の糸に力を籠める。
「……グググ……ア、あれ……? ニノの…………旦那? オレ……何してんだ……?」
「ライカ! さっさと目を醒ませいっ!! 年寄りに無理させるなっ!」
「頭が……いてぇ……。幻聴が……!」
「魔ノ月が闇を増幅させている……? まだ油断はできないぞ!」
空に浮かぶ赤い月が強い影響を及ぼしている。
隙を見せればたちまち光が押し負けてしまう。完全に消し去らないと。
「ッ! 旦那様、危ない!!」
「あれはマズいわ。ニノ、避けなさい!!」
雷龍の伸ばした手の影が膨らむ。
人の腕が変貌して、龍の巨大な爪となって広がった。
そのまま垂直に降り注ぐ。あまりにも範囲が大きすぎて逃げ切れない。
「盾を――――いや、それだと押し潰される……! ここは転移だ!」
フィアーの腕を引いて靄を潜る。
轟音が波となって押し寄せた。森の一部が消滅。
「二撃目くるよ!」
次は伸びた尻尾が極太の鞭となって僕たちを狙う。もう一度転移。
すると雷龍が一回転。転移先にまで攻撃を届かせていた、爪が頭上から落ちてくる。
駄目だ。このままじゃ転移が間に合わない。
「させ……ないっ!!」
真横から雷の弾丸が雷龍の腕にめり込んだ。落下位置を大きくずらす。
雷属性同士が激しく火花を散らし、連続した爆発を生んでいく。僕たちのすぐ傍まで衝撃が走った。
「ニノ君! 助けに来たよ。この人を止めればいいんだよね!」
フィリスが雷龍の身体を後ろから羽交い締めにする。クムさんと二人掛かりで力任せに動きを封じる。
「フィリスさん! あまり無茶をしないでください。ニノ、ごめんなさい。遅くなりました!」
ノート様が僕の隣に立ち土属性を解き放った。
暴れる龍の四肢を石化させ僅かな抵抗も許さない。
「げっ、鬼人族!? こんな所に生き残りがいた!?」
「ひぃぃ龍人族!! 怖いからこっち見ないで!!」
「けんかしたら、めーっ!」
「「ごめんなさい」」
フィリスとクムさんが顔を見合わせて驚いていた。
すかさずウィズちゃんが間に入って仲裁する。これで《精霊会》全員が揃った。
「動きは完全に封じた。あとは中和を終わらせるだけ――――なっ!?」
雷龍の瞳が赤く光っていた。
唯一自由が利く口を大きく開けて喉の奥から炎を発現する。
まさか龍の息吹!?
こんな至近距離で撃たれたら本人もろとも消し炭にされる。
全員を守る盾なんて、今から詠唱しても間に合いそうにない。
「早く、早く!! 正気に戻れえええええ!!」
あと少し。あと少しが遠く。
体内の光属性が足りない。あと一手何かあれば……!
――――シュッ
耳元で風を切る音が鳴った。龍の右腕に矢が突き刺さる。
「ふぅ……。先ほどの借りは、これで返したぞ」
背後でセレーネが木の上から弓を構えていた。
彼女の小型の弓には僕の光属性を宿した魔光石が埋め込まれている。
森妖精は光属性と樹属性を主に扱い。魔の血が混ざり闇妖精になってもその性質を失う訳じゃない。
切り札として渡していた光の力。それが最後の決め手となった。
「いっ――――――痛ってええええええええええええええ! 刺さった! 手に刺さってる!!」
「あっ、ライカが正気に戻った。……それは当然の報い。反省する!」
綺麗に垂直に飛び出す血を押さえながらライカさんは転がっていた。
生成に失敗した炎を零しながら。あまり怪我をする事に慣れていないのか大袈裟だった。
◇
「手間かけさせてからに。あとでうちの買い物に付き合ってもらうから。もちろん全部ライカ持ち!」
「え、いや。オレの小遣いにも限度が……ぐっ、気分が悪い……闇が纏わりつく……!」
「誤魔化すな馬鹿! 闇は完全に中和されたでしょっ!」
「痛いっ!? ご、ごめんって!!」
奥の方でライカさんがクムさんに叱られていた。
戦いが終わってみんなが集まって来る。全員怪我は少ないけど泥だらけだ。
「よくわかんないけど。ニノ君たちは暴走した龍人を止める為に龍人と協力していたんだね。……やっぱり状況がよくわかんないや!」
「わかんない! わかんない!」
「……同じ雷使いとして……恥ずかしい。あとで、説教!」
「セレーネ。怪我をよく見せてください。綺麗な肌に跡が残っては大変ですから」
「……ええい、触らなくていい。私は平気だ」
「ほら、無理しないの。本当は辛かったのでしょう?」
「ふ、フィアー様!? ですから平気で――――あうあう」
セレーネはノート様に捕まって治療を受けていた。
そろそろ予選初日の終わりを告げる鐘がなる頃だ。殆ど雷龍と戦っただけで終わってしまったけど。
無事全員が二日目に挑戦できる数の記章は手に入った。かなりの余裕がある。
「ニノ様。先程の有象無象から剥ぎ取った戦果です。どうか受け取ってくださいませ」
「えっと……?」
手渡されたのはまたしても記章だった。
あの短時間で全滅させたのか。合わせれば一人では持ちきれない数だ。
確か集団の中には上級冒険者もいたはずなのに。彼女は怪我どころか服に汚れすらついていない。
「僕たちが倒した訳でもないのに貰っても大丈夫なんですかね?」
「相手が結託してニノ様を狙っているのですから。この程度は規則に抵触していないかと」
それはそうなんだろうけど。
パオラさんの場合裏がありそうで疑ってしまう。
彼女は落ち込んだ様子を見せながら両膝を綺麗に地面につけていた。
「誠に申し訳ございませんでした。今回は悪ふざけが過ぎました。どうかご慈悲を、貴方様に嫌われては今後お嬢様に口を聞いてもらえなくなってしまいます……! パオラ。寂しくて死んじゃう……!」
「悪戯がばれた子供みたいね。それをいい歳した龍がやっているんだから世話がないわね」
「……嫌です。僕は絶対に許しませんから」
「しゅん……。お願いします……何でもしますから……!」
正座して涙目になりながら許しを請うパオラさん。
今までの傍若無人な態度が嘘のようだ。それができるなら最初からやって欲しかった。
「――――なんて冗談ですよ。ライカさんの暴走も不測の事態で悪気はなかったみたいですし。そもそも今は敵同士で戦って怪我をするのは当然で……。どうしても気にするなら今日の予選が終わったら、改めてセレーネに謝ってください。それで今回の件は終わりにしましょう」
「ああっ。その慈悲深い寛大なお言葉。心から感謝します!」
フィアーの言う通り彼女たちは子供なんだ。
精霊様と同じで人の考えに縛られず、自然のままにやりたい事をやる。
文句をつけたところでどうにかなるものじゃない。そういうものなんだ。
「……この後、時間が空いたら一度ゆっくり話しませんか? 戦いとか目的とか抜きにして」
「ちょっとニノ!? 危険よ、連れ攫われるわよ!?」
「ううん。最初から一方的に拒絶した僕も悪かったんだよ。そりゃ納得なんてできないよね」
一族の命運が掛かっているんだ。彼女たちの意志は固く。
追い返してもまた今回のようにこっそりくっついてくるだろう。
なら一度はしっかり話し合うべきだ。妥協点が見つかるかもしれないし。
パオラさんの事は苦手だけど。
子供だと思えばまだ可愛げがある気がする。うん……多分。
「ニノ様……」
じっと熱い視線が注がれる。何故か耳の方に。
耳を噛むのが龍人の愛情表現なんだろうか。……そういうところから一つずつ学んでいこう。
未知の恐怖が消えれば。もしかしたら仲良くなれるかもしれない。
「駄目です。ハムハムは我慢してください。反省しているんですよね?」
「くぅん」
「……やっぱり危険なんじゃない?」
「まるで猛獣ね。頑丈な鱗がちょっと厄介だけど、思考が単純だから与しやすいわ」
雷龍が四足で跳躍、素早い動きでこちらに迫る。まるで大型獣の狩猟だ。
セレーネより更に深い闇を抱えるフィアーに狙いをつけている。圧倒的な質量差。
「フィアー!」
「平気よ。この程度の相手に苦戦するような私じゃない!」
漆黒の鎌が龍燐を傷付ける。
踊るような足捌き、衝撃を受け流すと連撃を与えていく。
削り落とされた破片が散らばる。棘が突き刺さりフィアーの肌にも血が流れている。
雷龍が呻き声を上げた。
辺りを漂う闇を吸い取って怒りを増大していく。
「ニノ様いけません! 闇精霊では龍の本能を刺激しより狂暴性が増すだけです! 光です、光属性を使使ってください!」
「光属性? でも今は魔ノ月で本領が発揮できない……足りるだろうか?」
肝心のレムちゃんが眠りについていて、僕一人では大きな制限がある。
単体で少量を使うならまだしも。複合魔法や上位の魔法になると相当気張らないと。
「以前貴方が消滅しかけた時に私が闇属性を使って防ぎ止めた。体内に留まる少量の属性を中和するのに大きな力は必要ないわ。龍人自体が光属性との親和性も高いから、継続的に続ける方が重要よ!」
「どちらにしろ難しい相談だよね」
一度に大きな力は必要ないにしろ、継続して送る為には暴れる相手の動きを止めなければいけない。
しかも傷付ければ傷付けるほど外界の属性を吸収して闇が肥大化していく。
闇は闇を惹きつけるから。なるべく傷を負わせず近付かないと。
そして一撃喰らえば即死。……無茶苦茶だ。
「それじゃニノは諦めるの?」
「……まさか。試練は困難なほど燃えるってね! ここまで逃げっぱなしで飽き飽きしていたところだよ」
「ふふっ……奴の右腕にセレーネが残した傷跡がある。あそこからなら効率的に進められるはずよ」
「よし、方針は決まった。あとは実行に移すだけ。最初から全力でいくよ!!」
地面を踏みしめノート様の力を借りる。召喚した地槍を握り締めた。
身体に起こった変化を意識しないようにしながら、雷龍を迎え撃つ。
「邪魔ヲスルナアアアアアアアア!!」
「させるか!」
腕に掛かるとてつもない重量。属性同士のぶつかり合い。
相手が龍ともなると精霊神器といえど簡単な力押しは通用しない。
土属性の加護と属性の相性の追い風を受けて、身体を捻り敵の体重を利用する。
「グオオオオ、グアアアアアアッ!!」
勢いよく転がりながらも強引に立ち上がると、木々を蹴りながら再度咆哮。
またしても狙いはフィアーか。振り下ろされた拳に地槍を合わせる。
無茶な攻め方が祟ったのか今度は簡単に弾き返す事ができた。
相手が着地する間際に足元を沼に変える。片足が沈み体勢が崩れた。
「今だっ!!」
「ヌウウウッ?」
右手から伸ばした光の糸をセレーネが残した矢傷にまで伸ばす。これで僕と雷龍は繋がった。
魔力で紡いだ糸だ。簡単には断ち切れず、そしてお互いの退路も断たれた。
「龍人相手にやるわね。それでこそ私の精霊使い。その格好もとても似合っているわよ?」
「褒めて貰えるのは嬉しいけど。今の僕の姿は目を瞑ってて欲しいかな……」
「嫌よ、どんな姿でも貴方は私のものなんだから。全て記憶しておくわ」
「……度量が大きいね」
長髪が耳をくすぐる。押さえつけられた胸が少し苦しい。
性別まで変わってしまう切り札は、使うのがこれで二度目だけどやっぱり慣れない。
この状態だと全てにおいて元の身体より優れているのが悲しいところ。
「早く男に戻りたいし、さっさと終わらせるよ!!」
地上の覇者である龍との格闘戦。
敵の動きを細部まで読み取れる、元々動体視力には自信があった。
そこに神器による魔力付与で更なる強化を受けている。気分はともかく脳の回転は最高潮だ。
「グルウウウウウウウウウウウ」
手当たり次第に岩が破壊され、雷龍が触れた箇所が黒ずんで消滅している。
当たれば痛いでは済まされない。常に回避を心掛けた方がいいか。
そうなると必然的に距離を取る必要があり、糸の維持が難しくなる。
「困ったな。あの威力じゃ盾で受け止めるのは危険そうだ」
「ニノ様。こちらをお受け取り下さいませ!」
「これは?」
パオラさんから投げ渡されたのは記章だった。
その数にして二十。最初に彼女が見せびらかしてきた物の殆どだ。
「そちらの記章には魔法防壁? とやらが内封されているとの事。上手く活用してください!」
「そうか、欠点ばかり気にしていたけど。本来の用途はそっちの方だったね。助かります!」
これだけの数が合わされば盾と組み合わせて並大抵の攻撃は防いでくれる。
一撃即死の危険はなくなり、だいぶ余裕が生まれた。
「うちが盾になるよ。将来の旦那様に生傷なんて負わせられないからね……いひひ。見せ場到来!」
クムさんが無い胸を張って前に躍り出る。
自分より小さな子に盾となってもらうのは抵抗あるけど。
龍人だから身体はとてつもなく頑丈で、歳も僕より遥かに上なんだろう。
「……旦那様はお断りしますけどね。龍人族のおもちゃになるつもりはありませんから」
「がーん。フラれた。落ち込むよ~はぐぅ」
「クムさん、今は真面目にやるところですよ! ニノ様、この子を適当に使ってやってください!」
「どの口が言ってるのよ! 不真面目さの権化の癖に! 後で覚えていなさいよ!」
フィアーは悪態つきながらも転移魔法を発動する。
戦場の至る場所に黒い靄が、簡易的な転移ゲートが複数。
雷龍が接近。咄嗟に後ろの靄を潜り抜ける。
転移、すぐ上空の靄から降り立ち雷龍の背中を取った。
光剣を伸ばして叩きつける。龍燐によって弾かれ霧散した光属性を吸収して糸が強固になる。
「グウゥゥゥゥゥゥ」
「よし、効いている!」
本能によって操られた身体は常に非効率な運動を繰り返している。
普段よりも消耗が激しいはず。少しずつ体力の方を削っていけば中和も早まる。
「いい加減に目を覚ます! 旦那様に無理させるなっ!!」
「世話のかかる子ですね。まぁそういうところが可愛いのですが。少々おいたが過ぎますよ!」
反転して牙を向けてきた雷龍を、クムさんが宣言通り盾となって受け止める。
力尽くで押し倒し、立ち上がったところまた押し倒す。豪快な戦い方だった。
同時にパオラさんが水属性で妨害。足元を執拗に狙って援護する。
「ガアアアアアアア! 邪魔ダアアアアアアアアアアアアア!!」
全身から放たれる無数の雷光を大地の盾と防壁で受け止める。
衝撃で記章が五つほど吹き飛んだ。距離が近いとはいえふざけた威力だ。
「消耗が激しいのはこちらも同じか……!」
日頃意識の外で操っていた光属性を一人の力で呼び寄せる。
想像以上に疲労が溜まる。普段どれだけレムちゃんに助けられていたのかがわかる。
義手が悲鳴を上げていた。僕の身体に流れる魔力の異変に勘付いたらしい。
「焦らないで、着実に効いているわ。奴の動きが鈍くなっている。形振り構わない攻撃がその証拠よ」
倒れないようにフィアーが僕の腰に手を回して支えてくれている。
そうだ。焦る必要はない。結果をすぐに求め過ぎてはいけない。己惚れるな。
「――――おい、今ならやれるんじゃないか?」
「龍人と《精霊会》で争っているぞ。好機だ!!」
「お前たち一斉にかかれ!!」
森の中が騒がしくなっていた。人の気配が増える。
地面に無数の炎の矢が突き刺さった。点滅して魔力が膨張する。
「なっ、今はそれどころじゃないっていうのに!? くそっ避けられない!!」
爆風を浴びて吹き飛ばされそうになる
記章の一つにヒビが入った。数には余裕があるとはいえ、気が散って集中できない。
「アイツら安全圏からよくも……! 待ってなさい! 今から私が――」
「――――雑魚の相手はこの私めにお任せください」
パオラさんが単身で敵陣に突っ込んでいた。
「で、で、出やがった!! 従者の格好をした龍人だ!!」
「相手は一人だ。龍人といえど三十人以上で囲めば勝機はある! 後ろを狙え!!」
「前衛が時間を稼いでいる間に、魔法使いは奴の足を止めろ!」
こんな場所に三十人も集まって来たのか。
あらかじめユニオン同士で手を組んで邪魔な相手を蹴散らしてきたんだろう。
規約には反していないとはいえ、彼らもそれで勝って納得できるのか疑問だけど。
「汚らしい口を開くなゴミ風情が。同じ空気を吸う事すら烏滸がましい。……失せなさい」
パオラさんが冷たい瞳で言い放つと、どこからか取り出した武器を肩に担ぐ。
鱗に覆われた大剣には光沢のついた牙が二本。どれも彼女たちと同じ種族の素材が使われている。
「ひぃ、ひぃぃぃ。あ、足が……動かない。こ、こんなのに勝てるのか……!?」
「怯むな! 遠距離だ!! 遠距離から狙うんだ!! 近付けさせるな!!」
「は、早い。早すぎるぅぅぅぅ捉えられないぃぃぃぃ!!」
ただそこに立っているだけで敵が戦意を失っている。
「龍人を相手にするのがどれだけ愚かしい行為か。その身に刻んで差し上げましょう」
一振りで五人が吹き飛んだ。
激しい血飛沫が舞い負傷した冒険者たちが膝を付く。
そこに容赦のない蹴りが。腕と足を折り、周到に戦闘力を奪っていく。
「龍人が龍殺しの大剣……? 貴方たちに常識って言葉は存在しないの?」
「昔に鬼人族から押収した魔剣です。これぞ亡き同胞に対する最高の供養」
「最高に狂っているわね……」
一人で三十以上の冒険者たちを相手に暴虐の限りを尽くしている。
素人同然の剣捌きから繰り出される叩きつけは、途方もない破壊を生み火属性並みの爆発を起こす。
その卓出した足捌きは、ただでさえ目立つ従者の格好をした女性の姿を誰も捉えられていない。
まさしく暗殺者。
魔族専門の殺し屋は人族が相手であっても何の障害もない。
「アハハハハハ、かつての戦場を思い出します。泣きなさい。許しを請うのです。私はお世辞にも剣の扱いは上手いとは言えません。手が滑って頭を吹き飛ばされても知りませんよ!?」
「ゴフッ……や……め……」
「た、助け……ギャアアアアアアアアアアアアア」
また一人声が聞こえなくなる。
殺してはいない。大会中の故意の殺人は罰則の対象になるから。
「ニノ、よく覚えておきなさい。あれが戦争を生き抜いた狂人の戦よ」
今を生きている僕たちと明らかに練度も意識も違う。
どれだけ優れた熟練者であろうと、数十倍もの軍勢に囲まれては瞬く間に押し込まれてしまう。
集団の強さなんて誰に教えられずとも子供でも理解できるし、それを覆すのが難しい事も。
彼女にはそんな常識すら通用しない。
長く生き、戦争を経験している人物だからこそ得られる強さ。
龍人としての能力だけじゃない。その精神面においても強靭で他者を圧倒している。
今更ながら身震いしてきた。可能性として今後こういった超越者とも争う事になるんだ。
「駄目だ……目の前に集中しないと!」
超越者とまではいかなくても、目の前の雷龍も強敵だ。
いきなり天上を見上げるのではなく。一歩ずつだ。光の糸に力を籠める。
「……グググ……ア、あれ……? ニノの…………旦那? オレ……何してんだ……?」
「ライカ! さっさと目を醒ませいっ!! 年寄りに無理させるなっ!」
「頭が……いてぇ……。幻聴が……!」
「魔ノ月が闇を増幅させている……? まだ油断はできないぞ!」
空に浮かぶ赤い月が強い影響を及ぼしている。
隙を見せればたちまち光が押し負けてしまう。完全に消し去らないと。
「ッ! 旦那様、危ない!!」
「あれはマズいわ。ニノ、避けなさい!!」
雷龍の伸ばした手の影が膨らむ。
人の腕が変貌して、龍の巨大な爪となって広がった。
そのまま垂直に降り注ぐ。あまりにも範囲が大きすぎて逃げ切れない。
「盾を――――いや、それだと押し潰される……! ここは転移だ!」
フィアーの腕を引いて靄を潜る。
轟音が波となって押し寄せた。森の一部が消滅。
「二撃目くるよ!」
次は伸びた尻尾が極太の鞭となって僕たちを狙う。もう一度転移。
すると雷龍が一回転。転移先にまで攻撃を届かせていた、爪が頭上から落ちてくる。
駄目だ。このままじゃ転移が間に合わない。
「させ……ないっ!!」
真横から雷の弾丸が雷龍の腕にめり込んだ。落下位置を大きくずらす。
雷属性同士が激しく火花を散らし、連続した爆発を生んでいく。僕たちのすぐ傍まで衝撃が走った。
「ニノ君! 助けに来たよ。この人を止めればいいんだよね!」
フィリスが雷龍の身体を後ろから羽交い締めにする。クムさんと二人掛かりで力任せに動きを封じる。
「フィリスさん! あまり無茶をしないでください。ニノ、ごめんなさい。遅くなりました!」
ノート様が僕の隣に立ち土属性を解き放った。
暴れる龍の四肢を石化させ僅かな抵抗も許さない。
「げっ、鬼人族!? こんな所に生き残りがいた!?」
「ひぃぃ龍人族!! 怖いからこっち見ないで!!」
「けんかしたら、めーっ!」
「「ごめんなさい」」
フィリスとクムさんが顔を見合わせて驚いていた。
すかさずウィズちゃんが間に入って仲裁する。これで《精霊会》全員が揃った。
「動きは完全に封じた。あとは中和を終わらせるだけ――――なっ!?」
雷龍の瞳が赤く光っていた。
唯一自由が利く口を大きく開けて喉の奥から炎を発現する。
まさか龍の息吹!?
こんな至近距離で撃たれたら本人もろとも消し炭にされる。
全員を守る盾なんて、今から詠唱しても間に合いそうにない。
「早く、早く!! 正気に戻れえええええ!!」
あと少し。あと少しが遠く。
体内の光属性が足りない。あと一手何かあれば……!
――――シュッ
耳元で風を切る音が鳴った。龍の右腕に矢が突き刺さる。
「ふぅ……。先ほどの借りは、これで返したぞ」
背後でセレーネが木の上から弓を構えていた。
彼女の小型の弓には僕の光属性を宿した魔光石が埋め込まれている。
森妖精は光属性と樹属性を主に扱い。魔の血が混ざり闇妖精になってもその性質を失う訳じゃない。
切り札として渡していた光の力。それが最後の決め手となった。
「いっ――――――痛ってええええええええええええええ! 刺さった! 手に刺さってる!!」
「あっ、ライカが正気に戻った。……それは当然の報い。反省する!」
綺麗に垂直に飛び出す血を押さえながらライカさんは転がっていた。
生成に失敗した炎を零しながら。あまり怪我をする事に慣れていないのか大袈裟だった。
◇
「手間かけさせてからに。あとでうちの買い物に付き合ってもらうから。もちろん全部ライカ持ち!」
「え、いや。オレの小遣いにも限度が……ぐっ、気分が悪い……闇が纏わりつく……!」
「誤魔化すな馬鹿! 闇は完全に中和されたでしょっ!」
「痛いっ!? ご、ごめんって!!」
奥の方でライカさんがクムさんに叱られていた。
戦いが終わってみんなが集まって来る。全員怪我は少ないけど泥だらけだ。
「よくわかんないけど。ニノ君たちは暴走した龍人を止める為に龍人と協力していたんだね。……やっぱり状況がよくわかんないや!」
「わかんない! わかんない!」
「……同じ雷使いとして……恥ずかしい。あとで、説教!」
「セレーネ。怪我をよく見せてください。綺麗な肌に跡が残っては大変ですから」
「……ええい、触らなくていい。私は平気だ」
「ほら、無理しないの。本当は辛かったのでしょう?」
「ふ、フィアー様!? ですから平気で――――あうあう」
セレーネはノート様に捕まって治療を受けていた。
そろそろ予選初日の終わりを告げる鐘がなる頃だ。殆ど雷龍と戦っただけで終わってしまったけど。
無事全員が二日目に挑戦できる数の記章は手に入った。かなりの余裕がある。
「ニノ様。先程の有象無象から剥ぎ取った戦果です。どうか受け取ってくださいませ」
「えっと……?」
手渡されたのはまたしても記章だった。
あの短時間で全滅させたのか。合わせれば一人では持ちきれない数だ。
確か集団の中には上級冒険者もいたはずなのに。彼女は怪我どころか服に汚れすらついていない。
「僕たちが倒した訳でもないのに貰っても大丈夫なんですかね?」
「相手が結託してニノ様を狙っているのですから。この程度は規則に抵触していないかと」
それはそうなんだろうけど。
パオラさんの場合裏がありそうで疑ってしまう。
彼女は落ち込んだ様子を見せながら両膝を綺麗に地面につけていた。
「誠に申し訳ございませんでした。今回は悪ふざけが過ぎました。どうかご慈悲を、貴方様に嫌われては今後お嬢様に口を聞いてもらえなくなってしまいます……! パオラ。寂しくて死んじゃう……!」
「悪戯がばれた子供みたいね。それをいい歳した龍がやっているんだから世話がないわね」
「……嫌です。僕は絶対に許しませんから」
「しゅん……。お願いします……何でもしますから……!」
正座して涙目になりながら許しを請うパオラさん。
今までの傍若無人な態度が嘘のようだ。それができるなら最初からやって欲しかった。
「――――なんて冗談ですよ。ライカさんの暴走も不測の事態で悪気はなかったみたいですし。そもそも今は敵同士で戦って怪我をするのは当然で……。どうしても気にするなら今日の予選が終わったら、改めてセレーネに謝ってください。それで今回の件は終わりにしましょう」
「ああっ。その慈悲深い寛大なお言葉。心から感謝します!」
フィアーの言う通り彼女たちは子供なんだ。
精霊様と同じで人の考えに縛られず、自然のままにやりたい事をやる。
文句をつけたところでどうにかなるものじゃない。そういうものなんだ。
「……この後、時間が空いたら一度ゆっくり話しませんか? 戦いとか目的とか抜きにして」
「ちょっとニノ!? 危険よ、連れ攫われるわよ!?」
「ううん。最初から一方的に拒絶した僕も悪かったんだよ。そりゃ納得なんてできないよね」
一族の命運が掛かっているんだ。彼女たちの意志は固く。
追い返してもまた今回のようにこっそりくっついてくるだろう。
なら一度はしっかり話し合うべきだ。妥協点が見つかるかもしれないし。
パオラさんの事は苦手だけど。
子供だと思えばまだ可愛げがある気がする。うん……多分。
「ニノ様……」
じっと熱い視線が注がれる。何故か耳の方に。
耳を噛むのが龍人の愛情表現なんだろうか。……そういうところから一つずつ学んでいこう。
未知の恐怖が消えれば。もしかしたら仲良くなれるかもしれない。
「駄目です。ハムハムは我慢してください。反省しているんですよね?」
「くぅん」
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