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SS置き場(一巻分)
『苦手なもの』
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「よし、見つけた! 依頼書通りの薬草だ」
一時間ほど森の中を探索して、目的の薬草を見つける。
辺り一面に自生しているうちの、一掴みだけを手にして立ち上がる。
「欠伸が出るほどつまらない仕事ね。それだけでいいの?」
「うん。あんまり採りすぎると本職の人が困るからね」
薬草採りは本来、冒険者の仕事じゃない。
近隣の村が生業にしている事が多いので、あっても護衛依頼くらいだろうか。
今回の場合は下級冒険者の為にギルド側が用意してくれたもので、土地勘を養うための訓練に近い。
報酬もないに等しい。ただこういう仕事をこなす事が、また別の仕事に繋がっていく。
冒険者は信頼が第一だから、熱意をギルド側に見せつけて損はないはず。
「フィアーもわざわざ付き添いありがとう」
「屋敷で待っていても、あの人族と二人っきりになるだけだし、相手にするのも面倒臭いから」
「あーフィリスに色々と着替えさせられてたもんね」
「あんなの私の趣味じゃないわ」
バッサリ切り捨てて、いつもの格好でフィアーは歩いていた。
精霊様には自浄作用が備わっているのか、着替えなくても汚れないらしい。
とはいっても毎日同じ格好だと、事情を知らない人から見たら不衛生に思われる。
ただでさえ美人で目立つから。……フィリスの心遣いが伝わる日は訪れるのだろうか。
「ところで、その薬草に変な生き物はついていないでしょうね…?」
「……フィアーって苦手な生き物とかいるの?」
「一番苦手なのは人族――と言いたいところだけど、虫の方が苦手よ」
「へぇ、以外だ」
闇精霊としての強さばかり際立っているけど。
やっぱりこうして話していると一人の女の子なのだと思わされる。
「寝ている隙に耳に入ってきた事があって……うぅ、思い出すだけで寒気が」
「それは災難だったね……」
巨大な魔物ですらひれ伏す精霊様が、虫に屈する姿を想像する。
それがあまりにも可愛らしかったので、自然と頬が緩んでしまった。
「今……少し笑ったでしょ?」
「ご、誤解だよ」
「ふーんだ。私もいつまでも子供じゃないし、虫なんかに怯えたりしないから!」
「あ、髪にゲジゲジがついてる」
「ひゃあああああああああああ!?」
フィアーはその場で跳ねると勢いよく転がった。
そしてふと冷静に虫がいないのを確認して、涙目でこちらを睨んできた。
「意地悪!! 意地悪!! ニノの鬼畜っ!!」
「ごめんごめん、そこまで苦手とは思わなかったんだ」
お腹に飛び付かれ、抗議を受けて反省する。
苦手なものを程度によっては生死に関わるものもあるから。
精霊様がショック死するとは思わないけど、悪ふざけが過ぎた。
「……ニノの苦手なものはなに」
「僕の?」
「……それを教えてくれたら特別に許してあげる」
胸の中でフィアーが不機嫌そうに呟く。
「うーん。苦手なものと言われても……あ、そうだ。例えばフィアーの涙かな?」
言ってから少し恥ずかしくなった。
ちょっとクサイ台詞だったか、でも嘘じゃない。
そもそも嘘をついて誤魔化せるような相手じゃないから。
「それは卑怯よ、しかも本心で言ってるし……」
「だ、駄目かな? やり直した方がいい?」
「はぁ……それで喜んでしまう私も私ね」
フィアーは一度、溜め息をついてから僕の腕を取った。
「薬草を届けたら、しばらく付き合ってもらうから」
「え? すぐに屋敷に帰らないの? フィリスが待って――」
「嫌だって言ったら……泣くわよ?」
「ぐっ、これは、余計なことを言ってしまったかも……!」
「男なら、一度言った言葉に責任を持ちなさい!」
「……はい。今度から気を付けます」
ただでさえ美人なのに、武器まで手にされたら敵いっこない。
こうして弱みを知られた僕は、一日中彼女の我儘に付き合う羽目になったのだった。
一時間ほど森の中を探索して、目的の薬草を見つける。
辺り一面に自生しているうちの、一掴みだけを手にして立ち上がる。
「欠伸が出るほどつまらない仕事ね。それだけでいいの?」
「うん。あんまり採りすぎると本職の人が困るからね」
薬草採りは本来、冒険者の仕事じゃない。
近隣の村が生業にしている事が多いので、あっても護衛依頼くらいだろうか。
今回の場合は下級冒険者の為にギルド側が用意してくれたもので、土地勘を養うための訓練に近い。
報酬もないに等しい。ただこういう仕事をこなす事が、また別の仕事に繋がっていく。
冒険者は信頼が第一だから、熱意をギルド側に見せつけて損はないはず。
「フィアーもわざわざ付き添いありがとう」
「屋敷で待っていても、あの人族と二人っきりになるだけだし、相手にするのも面倒臭いから」
「あーフィリスに色々と着替えさせられてたもんね」
「あんなの私の趣味じゃないわ」
バッサリ切り捨てて、いつもの格好でフィアーは歩いていた。
精霊様には自浄作用が備わっているのか、着替えなくても汚れないらしい。
とはいっても毎日同じ格好だと、事情を知らない人から見たら不衛生に思われる。
ただでさえ美人で目立つから。……フィリスの心遣いが伝わる日は訪れるのだろうか。
「ところで、その薬草に変な生き物はついていないでしょうね…?」
「……フィアーって苦手な生き物とかいるの?」
「一番苦手なのは人族――と言いたいところだけど、虫の方が苦手よ」
「へぇ、以外だ」
闇精霊としての強さばかり際立っているけど。
やっぱりこうして話していると一人の女の子なのだと思わされる。
「寝ている隙に耳に入ってきた事があって……うぅ、思い出すだけで寒気が」
「それは災難だったね……」
巨大な魔物ですらひれ伏す精霊様が、虫に屈する姿を想像する。
それがあまりにも可愛らしかったので、自然と頬が緩んでしまった。
「今……少し笑ったでしょ?」
「ご、誤解だよ」
「ふーんだ。私もいつまでも子供じゃないし、虫なんかに怯えたりしないから!」
「あ、髪にゲジゲジがついてる」
「ひゃあああああああああああ!?」
フィアーはその場で跳ねると勢いよく転がった。
そしてふと冷静に虫がいないのを確認して、涙目でこちらを睨んできた。
「意地悪!! 意地悪!! ニノの鬼畜っ!!」
「ごめんごめん、そこまで苦手とは思わなかったんだ」
お腹に飛び付かれ、抗議を受けて反省する。
苦手なものを程度によっては生死に関わるものもあるから。
精霊様がショック死するとは思わないけど、悪ふざけが過ぎた。
「……ニノの苦手なものはなに」
「僕の?」
「……それを教えてくれたら特別に許してあげる」
胸の中でフィアーが不機嫌そうに呟く。
「うーん。苦手なものと言われても……あ、そうだ。例えばフィアーの涙かな?」
言ってから少し恥ずかしくなった。
ちょっとクサイ台詞だったか、でも嘘じゃない。
そもそも嘘をついて誤魔化せるような相手じゃないから。
「それは卑怯よ、しかも本心で言ってるし……」
「だ、駄目かな? やり直した方がいい?」
「はぁ……それで喜んでしまう私も私ね」
フィアーは一度、溜め息をついてから僕の腕を取った。
「薬草を届けたら、しばらく付き合ってもらうから」
「え? すぐに屋敷に帰らないの? フィリスが待って――」
「嫌だって言ったら……泣くわよ?」
「ぐっ、これは、余計なことを言ってしまったかも……!」
「男なら、一度言った言葉に責任を持ちなさい!」
「……はい。今度から気を付けます」
ただでさえ美人なのに、武器まで手にされたら敵いっこない。
こうして弱みを知られた僕は、一日中彼女の我儘に付き合う羽目になったのだった。
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