闇精霊に好かれた精霊術師(旧題:ダンジョン最下層でパーティに見捨てられた精霊術師の少年、闇精霊に気に入られ最強の精霊使いになる。)

お茶っ葉

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SS置き場(一巻分)

『雛鳥』

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 目を覚ますと見慣れた天井と、見慣れない少女の姿があった。
 額に冷たい布が乗っている。身体を動かそうとして、全身に痛みが走る。

「……っ!!」
「起きたら、だめ……!」

 優しく押されてベッドに横たわる。
 トル様がじっと僕の顔を覗き込んでいた。

「よかった……ニノ君、目が覚めたんだね」

 隣には水に浸した布を絞るフィリスの姿も、安堵の溜め息をついている。
 ……思い出した。ゴブリンたちの追っ手を撒いて、命からがら屋敷に辿り着いたんだ。
 そこからの記憶は曖昧で、多分、ずっとみんなが看病してくれたんだと思う。

「ニノ君、トルちゃんの言う通り、安静にしておかないと駄目だよ? 酷い怪我なんだから」
「……ありがとう。ごめん、心配かけたね」
「本当だよぉ、玄関で二人の姿を見た時、心臓が止まるかと思ったんだから! お礼はフィアーちゃんにも言ってあげてね。今は疲れて眠っちゃってるけど!」

 努めて明るく振る舞おうとするフィリスのおかげで、気持ちが楽になる。
 トル様は目を真っ赤にさせながら、僕の身体を拭いてくれていた。

「……ニノ、早く元気になって……!」
「トル様、ありがとうございます。その、無理はしなくても大丈夫ですよ……?」

 フィアーで慣れてきたとはいえ、やっぱり精霊様相手だと少し畏まってしまう。

「トルちゃんは雷の精霊様なんだよね? ニノ君の身体から雷属性が出ていたし。私、精霊様と出会うのは初めてで感激だよ! も、もしかして私もトル様ってお呼びした方がいいのかな?」

 フィリスもなんとなく対応に困っている感じだ。
 というか、彼女が精霊様だって自力で気付けたんだ。

「……トルは、トルでいい……ニノも、そう呼んで」

 トル様は――まるで親からはぐれた雛鳥のようだった。
 瞳は不安気に揺れていて、それはそうだろう、彼女は生まれたばかりなんだ。
 精霊様に親なんていない、最初から一人っきりだ。自力で学び、自分の力で飛ばないといけない。

「トルには、ニノしかいない……一緒がいい……」

 契約する前と同じ言葉を紡ぎ、トルは僕の腕にしがみつく。
 これは依存に近い感情なんだろう。あの場に居合わせた僕を親代わりに見立てて。
 改めて考えると、その役目を担うのが僕で本当に良かったんだろうかと不安になる。

「……そんなことないよ。ここには君を虐めるような悪い人はいないから」
「……フィア怖い」
「あはは、あの子は、素直じゃないんだ。慣れれば口が悪いところも可愛らしく見えてくるよ」
「……本当?」
「本当。フィアーは優しい子だから」

 性格は正反対だけど、同じ精霊様なんだし、通じ合える部分があると思う。
 ああ、そうだ。ここにはフィアーがいる、いずれは彼女にあとを任せられるじゃないか。

「うんうん、仲良しなのは良いことだ! そうだ、トルちゃんの着替えも用意しないとね。確か、部屋に私の古着があったはず。間違っていくつか荷物に混ざってたんだよね」

 フィリスは元気よく部屋を飛び出していく。
 二人でそれを見送りながら、僕はもう一度天井を仰ぎ見る。

「身体、痛いの……?」
「大丈夫。安心したら眠くなっただけだから」

 相当無理をしたからか、しばらくは動けないだろうけど。
 深く息を吸って気持ちを落ち着かせる。余計な考えは彼女を不安にさせるだけだ。
 契約で得られるのは力だけじゃない、心でも強い繋がりが生じるから。
 だから僕は、改めて少女の方を見る。手を差し伸べた責任は最後まで果たさないと。

「これからよろしくね――――トル」
「……! ……うん!」
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