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第1章 ゼノビア王国編
第26話 首謀者の男
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5大国間協議はすでに始まっている。アストラ共和国西部の中堅都市ラム。その中枢にある協議用のとある施設の一室で、まずは、シルメリア皇国第2皇子であるドゥグラス・シルメリアから現状の説明を受ける。
「すでに制圧された辺境都市ミルトンと呼応するように、小規模の謀反がシルメリア各地の至る所で起こっている。長期間に渡り仕込まれていないとこんなことは不可能だ。魔物も狂暴化している。各都市に多数の被害を出している」
アリアが何度もゼノビアを訪れていたのは、この件だったのね。兆候はあって、おそらく様々な諜報活動を内々で進めていたはずだ。
だが、結局尻尾を見せず、クーデターで一気に都市を一つ占領してしまった。おそろしく緻密に、そして周到に準備された計画だったのだろう。
「だが、我々もただ黙って見ていたわけではない。3日前、首謀者と思わしき人物の魔法映像をシルメリアの第二都市クレムリンで入手することに成功した。おい」
「はっ!」
ドゥグラスの護衛兵士と思われる男が、映像を保存し、投影できる魔術具を操作し、5大国の代表が座る位置から全員が見える空間に、その映像を映し出した。
場に戦慄が走り、全員が固唾を飲む。
……私はただ、その映像の中で堂々と活動する1人の男にくぎ付けになる以外の選択肢がなかった。
「テオドール・スターボルト。かつて誰も生きて戻ってはこれないとされたラストダンジョン、深淵の牢獄地下63階以降まで潜り、生還した唯一の生存者。伝説の冒険者でトリプルの称号を持つ、極めて危険な男だ」
現実を受け入れなくてはいけなかったが、この映像の破壊力が強すぎて私の脳の処理が追い付かない。
落ち着いて、私。考えろ。
「この協議における最重要決定事項は次の2点。①シルメリア各地で起こっている反乱を止める鎮圧部隊の編成 ②テオドール・スターボルトの捕獲チームの編成だ」
「皇帝を守る部隊編成はいらんのか?それに辺境都市ミルトンの奪還はどうするのじゃ」
ドゥグラスの協議事項に対し、提案を入れるアストラ共和国の共同代表でナンバー2のブラハム・マカラハム。確かに、その点は重要な気がする。
「皇帝には我がシルメリアが誇る最強の騎士団『スターナイツ』がすでに集結している。いくらあの最強の冒険者といえど、突破は不可能。また、ミルトンの奪還についてはこの協議レベルで決められる事案ではない。あそこはすでに大規模な結界魔法が張られ、容易に近づくことすらできなくなっている。まずは各地の鎮圧を行い、戦力を結集して、奪還に臨むべきだと考えられている」
ドゥグラスが言っていることは正しい。テオドール1人なら、皇帝へ刃は届かないだろう。適当に集めた冒険者を引き連れたとしても、とても突破はできないと思う。
ミルトン奪還の考え方も同感だ。急造の部隊では結界を張り、防御を固めた都市の攻略は難しい。
「それに、テオドールはすでにシルメリアの特殊部隊がその行方を追っている。あぶりだされるのも時間の問題だ」
私は少し考え込んでいた。どうにもこのドゥグラスの計算は甘すぎる気がする。テオドールは普段は大したことなかったが、目的を決めたときの達成率はラストダンジョンの攻略以外で計算すれば100%だ。
準備と計画、それに目的達成に対する執念は尋常ではない。ただその目的が分かっていない。彼の目的はなんだ。
……思い当たるのは、アレしかない。
「ティア」
ティベリウスが小声で話しかけてくる。今考えてるんだから。後にしてよ。
「思っていることがあるなら、言ってみるといい。私は君を戦力と思ってここに連れてきているのだから」
私に思っていることを話すよう促すティベリウス。テオドールは強敵だ。出し惜しみをして勝てる相手ではない。シルメリアを救うには1人では無理だ。協力者がいる。
「発言、よろしいでしょうか」
手をあげ、場に発言権を求める私。正直、テオドールの狙いを絞り切れているわけではない。仮説が多く含まれる。
ただ、ここで協議を長引かせてもなにもならない。予測だろうが早く動かなければ手遅れになる可能性が高いと、私の中の直観が警告している。
「おお、これはこれは。かの有名なティア王女ではありませんか。アリアから色々話は聞いていますよ」
まだ余裕を見せているドゥグラス。やはりこの男にテオドールは止められない。
まずはその不遜な笑みをやめてもらおう。
「シルメリアの第二都市クレムリン。その北西部、ライの森奥地にある歴史宝物庫。その地下に眠るシルメリアの秘宝『アラケスの禊《みそぎ》』が彼の本命なのではないでしょうか?」
「……貴様、どこでそれを」
ドゥグラスの余裕が消えた。歴史宝物庫がクレムリンにあるという情報は表向きではない。だが、これまで読んできたシルメリアの歴史と現在の状況を考えると、仮説としては有力だと思っていた。
あえてこの5大国の代表が集まる場で発言することで、あぶり出せればと思っていたが……正解だったようね。
無言で鋭い視線を私に向ける第2皇子ドゥグラスとどよめく場内。
シルメリアの秘宝は国家機密なのだ。それを知る者は非常に限られている。
「急報です!」
秘宝の話で場が静まり返る中、会議室の扉が急に開き、シルメリアの兵士が小走りで中に入ってくる。ドゥグラスに近寄り、耳打ちでなにかを伝えられている。
「我々の特殊部隊が、クレムリンで何者かに討たれたらしい」
さらに続けるドゥグラス。
「宝物庫からは何も奪われていなかったそうだ」
この状況で否定はなにも生まないことを悟ったのか、あっさり宝物庫がそこにあることを遠回しに認めた。いや、今は機密とか言っている場合ではない。正しい判断だ。
私の推論が間違っていた?それともあえて嘘をついている?保管場所が違うのか?考えはまとまらなかったが、あえて確率の高そうな質問を投げてみることにした。
「秘宝を持ち出したのは……ドゥグラス皇子、あなたですか?」
無言のドゥグラス。宝物庫に目的物がないのは、だれかが事前に持ち出していたから。
私はその予想がおそらく正しいと確信していた。さらに追い打ちをかけてみる。
「テオドールは必ず気づきます!間に合わなくなる前に、シルメリアの秘宝がどこにあるのか教えてください!」
「すでに制圧された辺境都市ミルトンと呼応するように、小規模の謀反がシルメリア各地の至る所で起こっている。長期間に渡り仕込まれていないとこんなことは不可能だ。魔物も狂暴化している。各都市に多数の被害を出している」
アリアが何度もゼノビアを訪れていたのは、この件だったのね。兆候はあって、おそらく様々な諜報活動を内々で進めていたはずだ。
だが、結局尻尾を見せず、クーデターで一気に都市を一つ占領してしまった。おそろしく緻密に、そして周到に準備された計画だったのだろう。
「だが、我々もただ黙って見ていたわけではない。3日前、首謀者と思わしき人物の魔法映像をシルメリアの第二都市クレムリンで入手することに成功した。おい」
「はっ!」
ドゥグラスの護衛兵士と思われる男が、映像を保存し、投影できる魔術具を操作し、5大国の代表が座る位置から全員が見える空間に、その映像を映し出した。
場に戦慄が走り、全員が固唾を飲む。
……私はただ、その映像の中で堂々と活動する1人の男にくぎ付けになる以外の選択肢がなかった。
「テオドール・スターボルト。かつて誰も生きて戻ってはこれないとされたラストダンジョン、深淵の牢獄地下63階以降まで潜り、生還した唯一の生存者。伝説の冒険者でトリプルの称号を持つ、極めて危険な男だ」
現実を受け入れなくてはいけなかったが、この映像の破壊力が強すぎて私の脳の処理が追い付かない。
落ち着いて、私。考えろ。
「この協議における最重要決定事項は次の2点。①シルメリア各地で起こっている反乱を止める鎮圧部隊の編成 ②テオドール・スターボルトの捕獲チームの編成だ」
「皇帝を守る部隊編成はいらんのか?それに辺境都市ミルトンの奪還はどうするのじゃ」
ドゥグラスの協議事項に対し、提案を入れるアストラ共和国の共同代表でナンバー2のブラハム・マカラハム。確かに、その点は重要な気がする。
「皇帝には我がシルメリアが誇る最強の騎士団『スターナイツ』がすでに集結している。いくらあの最強の冒険者といえど、突破は不可能。また、ミルトンの奪還についてはこの協議レベルで決められる事案ではない。あそこはすでに大規模な結界魔法が張られ、容易に近づくことすらできなくなっている。まずは各地の鎮圧を行い、戦力を結集して、奪還に臨むべきだと考えられている」
ドゥグラスが言っていることは正しい。テオドール1人なら、皇帝へ刃は届かないだろう。適当に集めた冒険者を引き連れたとしても、とても突破はできないと思う。
ミルトン奪還の考え方も同感だ。急造の部隊では結界を張り、防御を固めた都市の攻略は難しい。
「それに、テオドールはすでにシルメリアの特殊部隊がその行方を追っている。あぶりだされるのも時間の問題だ」
私は少し考え込んでいた。どうにもこのドゥグラスの計算は甘すぎる気がする。テオドールは普段は大したことなかったが、目的を決めたときの達成率はラストダンジョンの攻略以外で計算すれば100%だ。
準備と計画、それに目的達成に対する執念は尋常ではない。ただその目的が分かっていない。彼の目的はなんだ。
……思い当たるのは、アレしかない。
「ティア」
ティベリウスが小声で話しかけてくる。今考えてるんだから。後にしてよ。
「思っていることがあるなら、言ってみるといい。私は君を戦力と思ってここに連れてきているのだから」
私に思っていることを話すよう促すティベリウス。テオドールは強敵だ。出し惜しみをして勝てる相手ではない。シルメリアを救うには1人では無理だ。協力者がいる。
「発言、よろしいでしょうか」
手をあげ、場に発言権を求める私。正直、テオドールの狙いを絞り切れているわけではない。仮説が多く含まれる。
ただ、ここで協議を長引かせてもなにもならない。予測だろうが早く動かなければ手遅れになる可能性が高いと、私の中の直観が警告している。
「おお、これはこれは。かの有名なティア王女ではありませんか。アリアから色々話は聞いていますよ」
まだ余裕を見せているドゥグラス。やはりこの男にテオドールは止められない。
まずはその不遜な笑みをやめてもらおう。
「シルメリアの第二都市クレムリン。その北西部、ライの森奥地にある歴史宝物庫。その地下に眠るシルメリアの秘宝『アラケスの禊《みそぎ》』が彼の本命なのではないでしょうか?」
「……貴様、どこでそれを」
ドゥグラスの余裕が消えた。歴史宝物庫がクレムリンにあるという情報は表向きではない。だが、これまで読んできたシルメリアの歴史と現在の状況を考えると、仮説としては有力だと思っていた。
あえてこの5大国の代表が集まる場で発言することで、あぶり出せればと思っていたが……正解だったようね。
無言で鋭い視線を私に向ける第2皇子ドゥグラスとどよめく場内。
シルメリアの秘宝は国家機密なのだ。それを知る者は非常に限られている。
「急報です!」
秘宝の話で場が静まり返る中、会議室の扉が急に開き、シルメリアの兵士が小走りで中に入ってくる。ドゥグラスに近寄り、耳打ちでなにかを伝えられている。
「我々の特殊部隊が、クレムリンで何者かに討たれたらしい」
さらに続けるドゥグラス。
「宝物庫からは何も奪われていなかったそうだ」
この状況で否定はなにも生まないことを悟ったのか、あっさり宝物庫がそこにあることを遠回しに認めた。いや、今は機密とか言っている場合ではない。正しい判断だ。
私の推論が間違っていた?それともあえて嘘をついている?保管場所が違うのか?考えはまとまらなかったが、あえて確率の高そうな質問を投げてみることにした。
「秘宝を持ち出したのは……ドゥグラス皇子、あなたですか?」
無言のドゥグラス。宝物庫に目的物がないのは、だれかが事前に持ち出していたから。
私はその予想がおそらく正しいと確信していた。さらに追い打ちをかけてみる。
「テオドールは必ず気づきます!間に合わなくなる前に、シルメリアの秘宝がどこにあるのか教えてください!」
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