食うために軍人になりました【一人称版】

KBT

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第一章

入隊

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 俺の名はリクト。 
 軍事国家ヴァランタイン帝国のダウスター男爵領にある小さな村で平民の次男として生まれた。
 裕福ではなかったけど、家族みんなで小さな果樹園をやってそれなりの生活は出来ていた。
 だけどそれも今年まで。
 兄貴が嫁さんをもらう事になった。
 そして嫁さんのお腹には子どもがいるらしい。
 これまで両親と兄貴と俺で食べていくのがやっとだったのに、家族が増える事を考えると俺は家を出るしかなかった。
 兄貴は大丈夫だと言うけど、そうもいかないだろう。
 甥か姪になる子どもにひもじい思いをさせる訳にはいかないから、俺は次の日、両親にだけ別れを告げて家を出たんだ。
 
「って、格好をつけたまでは良かったんだけどなぁ」

 領都まで出ればなんとかなると思ってたけど、世の中そんなに甘くなかった。
 領都とは言ってもこんな田舎じゃ職なんて限られてる。
 職人に弟子入りするか、商店の下働きになるか、それとも冒険者になって独立するか。
 残された未来はそれぐらいだろう。
 ただ、職人だろうと商店だろうと数に限りがあるから簡単になれるわけじゃない。
 俺と同じような身の上の奴はいくらでもいるからな。
 冒険者なら誰でもなれるが、こんな田舎に多くの依頼があるわけはないので冒険者同士で依頼の取り合いをして、半数以上は暇を持て余している。
 これじゃあ無職と変わらない。
 本当に途方に暮れたよ。
 家を出る時に親父が持たせてくれたお金で初日は何とかなったけど、このままだとマズい。
 そう思って次の日街を走り回っていると、立派な建物の周りに人が集まっているのが見えた。
 集まっているのは若くて体格のいい男達ばかりだ。

『領軍軍人募集』

 壁に架けられた板にはそう書かれていた。
 運がいい。
 こんな平和など田舎に大量の兵士は必要ないから、高齢で退役する人と入れ替わりの時にしか人員募集しかない。
 俺は千載一遇のこの機会に飛びついた。
 親父やお袋が俺の将来を考えて果樹園の仕事の合間に剣術や魔力の稽古をつけてくれたおかげで、多少なりとも戦えたから少しは自信もあった。
 お陰で試験の模擬戦では圧勝だった。
 まぁ、筆記試験はボロボロだったけどね。
 それでも俺はなんとか数少ない採用枠内に入って、見事軍人になる事ができた。
 最下級の二等兵からで給料も安いし、こき使われるし、休みなんかほとんど無いみたいだけど、職につけただけでも有り難いと思わないといけない。
 落ちた奴等が悲壮な顔して陰々滅々と去っていく姿を見ると、文句なんか言えないよ。
 俺は運が良かった。
 次の日の入隊式では、上官となる曹長殿からありがたい長い話を延々といただいた後に、軍の建物内を案内されて最後に自分の居室に案内された。
 簡素な造りの狭い4人部屋だったけど、今の俺には十分だ。
 同室者に怖い人がいるかと思ったけど、みんな気さくないい人達ばかりで良かった。
 俺は運がいい……そう思ってた。
 翌日に開戦の報告を聞くまでは。
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