食うために軍人になりました【一人称版】

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第一章

リクト二等兵

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 目の前に3体の遺体が転がっている。
 周りの草木には鮮血が飛び散って滴る血が地面に血溜まりを作っていた。
 俺の身体にも返り血が付いている。
 ねっとりとした感触が気持ち悪い。
 あの日、ダウスター領軍の兵士となった時から、いつかは軍人として他人を殺める日が来ると思っていた。
 その覚悟はしていたつもりだったけど、まさか入隊2日目でその覚悟が必要になるとは思わなかった。
 何でも早めに準備しておくものだと痛感させられるな。
 おっと、そんな事より目の前の事を片づけないとな。
 
「申し訳ありませんが、姓名と階級を名乗っていただけますか?」

 遺体の前で座り込んでいる明らかに俺より年上の人に刀を突きつけながら尋ねた。
 これが正しい尋問の仕方かはわからないけど、これ以外の方法が思いつかないんだからしょうがない。
 元は言えば新兵の俺1人にこんな任務を任せた上官が悪い。

「……ヴァランタイン帝国軍ライエル男爵領領軍のホウキン・ロースター軍曹だ。捕虜の扱いは帝国軍規に則って欲しい」

 帝国軍規? 
 昨日の入隊式の時に曹長がそんな話をしていたな。
 
『仁礼を尽くし、義勇を絶やさずに誠を持って名誉と忠義に生きよ』

 とか言ってたっけ?
 でも、細かい内容まではよく知らないんだよなぁ。
 だいたいあんなのって士官学校でしか習わないだろうだろうから、俺みたいな最下級の新兵に言われても困る。
 とりあえず無闇に傷つける事さえしなければいいだろう。

「わかりました。ロースター軍曹。貴方を捕虜とします。申し訳ないが、俺は帝国軍規における捕虜の扱いに少々疎いので、多少の無礼があるかもしれません。お許しください」

「なに? ……失礼だが、貴官の階級を聞いてもいいか?」

「ヴァランタイン帝国軍ダウスター男爵領領軍のリクト二等兵であります」

 刀を突きつけたままだけど、一応敬礼はしておこう。
 何が無礼かはわからないけど、敬礼をしておけば誠意は伝わるはずだ。

「に、二等兵だとっ!? 馬鹿なっ! この私が! この私の小隊が! たかが二等兵1人に敗れたと言うのかっ!」

 軍曹殿が驚愕の表情で叫ぶ。
 そんなに驚く事なのかわからないけど、大声出すのは勘弁してほしい。
 首筋に刀を突きつけて警告だけしておこう。
 これぐらいは許されるよな?

「軍曹殿、声が高いです。お静かに願います」

「……す、すまん。しかし、まさか二等兵とは信じられなくて……ちなみに入隊してどのくらいなのだ?」

「2日です。昨日が入隊式でしたから」

「2日っ? たったの2日だとっ! たった2日の二等兵にこの私がぁあああ! ……すまん。もう声は荒げないから刃を納めてくれ」

 本当に落ち着きのない人だなぁ。
 でも、驚くのも無理はない。
 俺だって未だに信じられないんだからな。
 全てはあの馬鹿息子准尉のせいだ!
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