食うために軍人になりました【一人称版】

KBT

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第一章

手柄

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「それで今に至る訳です」

 俺のこれまでの成り行きを聞いた軍曹殿はなんとも複雑な表情をしていた。
 事情を話しておいた方が納得するのかと思ったんだけどなぁ。

「あ、あまりにも荒唐無稽というか、何というか……俄には信じられない話だが、それなら今の状況にも合点がいくな」

「御理解いただけました?」

「したくはないけどな。新兵に斥候を任せた挙句に、単独とはあり得ない事だ。余程貴官が疎ましいと見える」

 疎ましい? どういう事だ?

「わからないか? 今の話が全て真実だとすれば貴官の採用試験を准尉は見ていたのだろう。だからだよ」

「すいません。よくわからないのですが」

「准尉ってあのアルフレッドだろ? 奴は権威主義なところがあってな。下の者が有能ってだけで臍を曲げる器の小さい男なのだ」

「まさか、そんな……」

「本当だ。例えばダウスターにはサイモン曹長がいるだろ? 人望のあるよい男なんだが、アルフレッドは『自分より階級が下の者が自分より人望があるのはおかしい』とか言って無理難題を押し付けているそうだぞ? 要するに有能な部下が気に入らないんだよ」

 ちっさ! なんて器の小さい男だ!
 そんな器じゃ子どものミルクも満足に入れられないぞ!
 つまり、俺は嫌がらせで一人で斥候に出されたわけだ!
 それで何の成果も無しに帰ったら、詰ってくるんだろう。
 流石に腹が立つな!
 こうなったら何が何でも手柄を立ててやる!

「軍曹殿、ライエル領軍についてお教え願えないでしょうか?」

「それは出来ない。戦において情報は命だからな! あっ! い、言っておくが、拷問は軍規によって禁止されているからな! すれば貴官は軍規に則って懲罰対象となるぞ! わかったかっ!」

 そんなに焦らなくても俺はそこまで卑劣にはなれません。
 あの馬鹿息子准尉ならやりかねないけどね。

「そんな事をする気はありませんよ。しかし、そうなるとこれからどうしようか迷いますね」

 手柄を立てるなら敵陣に向かわないといけないけど、捕虜の軍曹を連れて行くのも大変そうだ。
 かと言って解放したら俺がいる事がバレてしまうだろうし、だったら縛りあげてこの辺に放置してしまおうか。

「縛って放置していいですか?」

「いいわけないだろ! だいたい、この辺りにも魔物は出るんだろうがっ!」

「はい。この辺りは毒土竜ポイズンモール酸性蚯蚓アシッドワームがよく出るんで気をつけてくださいね」

「アホかっ! そんなところに縛ったまま置いて行くな! ちょっとくらいなら情報やるから連れて行ってくれ!」

 急に心変わりするのは不安だが、情報くれるのはありがたい。
 でも、進軍ルートは教えてくれないみたいだし、戦争の動機でも聞いてみるか。

「ありがとうございます。では、今回の戦について、何故ライエル男爵は我が領に責任を押し付けたのですか?」

「……金が無いからだろう。ここ数年、我が領土では不作が続いているからな。税収もかなり減っていると聞く。今回の山火事で一部の民に被害が出た事で更に税収が減るのは目に見えている。しかし、男爵様の保有する備蓄は少なく、救済もままならない。だから、隣領のせいにして代わりに補償させようと考えたのだろう」

 軍曹は少し考えた後に自領の事について語ってくれた。
 適当にシラをきるかと思ったが、意外と真面目に答えてくれたので内心驚いたよ。
 でも妙な話だ。
 男爵と言えば貴族の中では一番下だけど、大抵の人は上級貴族との繋がりを持っているはずだ。
 その人に助けてもらえばいいんじゃないのか?

「そういう場合は上級貴族の方に援助してもらえるのではないですか?」

「寄親か……それがなぁ、ライエル男爵も気位が高くて素直に助けて欲しいとは自尊心プライドが邪魔して言えないのだろう。言えば寄親であるレヴァンス侯爵は援助はしてくれるだろうに」

 軍曹が溜息混じりにそう呟いた。

「つまり、自領の民のために頭は下げれないというわけですか?」

「まぁ、そんなところだ」

 本当にこれだから貴族って奴は……自尊心プライドだの体面だのと飯の種にもならない事を大事にして、そのツケを平民に払わせるんだから困ったもんだよ。
 うちの領主様に限ってはそんなに苦労したって話は聞かないけど、やっぱり貴族ってこんなもんなんだろうなぁ。

「先代の領主様であればすぐにでも寄親を頼っただろうが、現領主であるダニート様は歳がいってから家督を継いだ事もあって、尊大というか何というか……少しな」

 どうやら軍曹も苦労しているようだ。
 しかし、これで決まったな。
 領主は救いようのない馬鹿貴族で、戦の原因も向こうにある。
 このまま帰ってもそれなりに成果はあるんだろうけど、その馬鹿男爵の顔を見てみたくなった。
 ついでに言うならぶん殴りたい。
 似たような馬鹿貴族の代わりにね。
 
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