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第一章
馬鹿貴族
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「ほ、本当に行くつもりか?」
ロースター軍曹が不安げな表情で俺を見ながら言った。
無理もない。
なんせライエル男爵領軍の本陣に向かって進んでいるんだからな。
最初は軍曹を人質にとも考えたが、捕虜を人質にするような卑劣な行為は軍規違反かもしれないので止めた。
だから軍曹には敵陣までの先導をお願いしただけで、その証拠に後手に縛っていたロープも外し、装備も全部渡してある。
彼が斥候に出た時と違うのは一緒にいた3人の仲間がいない事だけだ。
「ええ。このまま敵陣まで案内してくだされば結構です。敵を招き入れる行為ですので、軍曹には反逆のようなことをさせてしまい、申し訳ありませんが」
「いや……俺はいいが、お前の身の安全は保証できんのだぞ? 俺の小隊を壊滅させ、小隊長である俺を捕虜にしただけでも、初陣の功績としては十分だ。悪い事は言わぬ、俺を連れて自分の陣地に戻った方がいい」
この軍曹は随分とお人好しのようだ。
同じ帝国軍とはいえ、今は敵同士なのに俺の身を案じてくれている。
だが、俺からすれば帰陣しても侵攻しても変わりはない。
どうせ帰陣しても、あの馬鹿貴族准尉に詰られた挙句にもう一回行かされるだけだろう。
俺の中のアイツはそういう奴だ。
だったら協力者がいる今行く方が気楽でいい。
「お心遣い感謝しますが、心配は無用です。それより軍曹にお聞きしたいのですが、ライエル領軍の指揮官と主だった階級の人は誰がいますか?」
領軍の機密情報かもしれないが、一応聞いてみる。
斥候として敵将の事を知らないのはどうかと思うが、馬鹿貴族准尉からは何も聞かされてないから仕方ない。
わからなければ手当たり次第にやるしかないから、面倒なんだけどなぁ。
「……指揮官はライエル男爵本人で軍の階級は少佐だ。他には男爵の嫡男で少尉がいる。佐官と尉官の軍服を着ているのはこの2人だけだから直ぐにわかるだろう」
意外と素直に教えてくれるんだな。
偽情報?
いや、この軍曹はそんな嘘をつく人じゃないな。
「いいんですか? これって機密なんじゃ……」
「これは公の事実だ。領軍の構成や編成は同じ帝国軍であれば本部に問い合わせたらわかる事だ」
あっ、なるほど。
それもそうだ。
よくよく考えれば、元々は身内な訳だから当たり前か。
しかし、男爵本人が出張ってきてるのは困ったな。
帝国貴族家の当主を討つなんて許されるのだろうか?
同じ貴族ならいいかも知れないけど、俺は最下階位の平民だからなぁ。
捕まえるだけの方がいいんだろうか?
でも俺が捕まえたとして、その後はどうなるんだろ?
「この戦に負けた場合、ライエル男爵はどうなるんでしょう?」
「生還された場合か? その場合は賠償金などを要求されて、払えなければ領地の没収もあり得るだろう」
えっ? 生還された場合?
それって生還しない場合もあるって事か?
「戦死もありえるという事ですか?」
「当然だ。戦争とはそういうものだ。この戦は帝都の軍令部も双方の貴族の寄親も公認しているからな。戦となれば戦死もあり得る」
これはいい事を聞いた。
つまり、俺がライエル男爵を討ってもいいって事だよな?
これなら話が簡単でいい。
それにしても色々教えてくれるけどいいのかな?
「色々教えてくださって、ありがとうございます。聞いておいて何ですが、こんなに色々教えていただいてもよいのでしょうか?」
「別に問題ない。話している内容は公然の事ばかりだ。それより問題なのはお前が単身で敵陣に乗り込もうとしている事だ。どうだ? 考えは変わらないか? 正直、お前の腕は惜しい。俺の小隊を単身で潰した剣の腕もだが、俺達に気づかれずに潜伏していた技術も見事だ。腕のいい斥候はどの軍でも重宝されるぞ」
潜伏っていうほどのもんじゃないと思うけどね。
あれぐらい出来ないと山で獲物を獲るのに無理だ。
野生の獣や魔物って思ってる以上に敏感だからね。
それにしても本当にお人好しな軍曹だな。
失態を隠すためなのかもしれないけど、あの眼は本気で俺を心配している眼だ。
「お心遣いには感謝しますが……」
「決心は変わらないか……なら、こっちへ来い。せめてもの餞別だ」
そう言うと軍曹は敵陣へ向かうルートから少しズレたルートを歩き始めた。
どこに行くんだろ?
「お館様……男爵様は本陣にはいない事が多い。おそらくはこの先にある湖畔で女達と戯れているだろう」
「は? 女達と戯れるって……いやいや、いくら何でも指揮官が戦の指揮もせずに戦場で快楽に溺れるなどあり得ないでしょう?」
冗談だと思って軽く笑った俺を軍曹は鋭い目つきで制した。
「事実だ! お館様はそういう方なのだ! そもそも、さっき言った領地の不作もそうだ! 元々は税収を一気に引き上げた事による土壌の酷使が原因だ! そのせいで土地は痩せてしまい、満足に農作物が育たなくなったのだ! 普通にしていればダウスター同様豊かな土地だったものを! そのせいでどれだけの民が飢えているか……家督を継いで体面を整えようとするのはわかるが度が過ぎている! あれでは領地の未来などないではないかっ!」
肩で息をしながら声を荒げる軍曹。
我慢していた心の声が一気に吹き出したようだ。
やっぱり貴族って馬鹿貴族准尉みたいな奴らがいっぱいなんだろうか?
偉くもないくせに偉そうにして、平気で他人を踏みにじる。
ダウスターの領主様はそういうことはしないけど、他の貴族はやっぱりそういう噂が流れてくるし、俺は貴族に対して良い印象はないんだよなぁ。
俺はせめてそんな奴らに従わなくて済むようにしたいもんだ。
ロースター軍曹が不安げな表情で俺を見ながら言った。
無理もない。
なんせライエル男爵領軍の本陣に向かって進んでいるんだからな。
最初は軍曹を人質にとも考えたが、捕虜を人質にするような卑劣な行為は軍規違反かもしれないので止めた。
だから軍曹には敵陣までの先導をお願いしただけで、その証拠に後手に縛っていたロープも外し、装備も全部渡してある。
彼が斥候に出た時と違うのは一緒にいた3人の仲間がいない事だけだ。
「ええ。このまま敵陣まで案内してくだされば結構です。敵を招き入れる行為ですので、軍曹には反逆のようなことをさせてしまい、申し訳ありませんが」
「いや……俺はいいが、お前の身の安全は保証できんのだぞ? 俺の小隊を壊滅させ、小隊長である俺を捕虜にしただけでも、初陣の功績としては十分だ。悪い事は言わぬ、俺を連れて自分の陣地に戻った方がいい」
この軍曹は随分とお人好しのようだ。
同じ帝国軍とはいえ、今は敵同士なのに俺の身を案じてくれている。
だが、俺からすれば帰陣しても侵攻しても変わりはない。
どうせ帰陣しても、あの馬鹿貴族准尉に詰られた挙句にもう一回行かされるだけだろう。
俺の中のアイツはそういう奴だ。
だったら協力者がいる今行く方が気楽でいい。
「お心遣い感謝しますが、心配は無用です。それより軍曹にお聞きしたいのですが、ライエル領軍の指揮官と主だった階級の人は誰がいますか?」
領軍の機密情報かもしれないが、一応聞いてみる。
斥候として敵将の事を知らないのはどうかと思うが、馬鹿貴族准尉からは何も聞かされてないから仕方ない。
わからなければ手当たり次第にやるしかないから、面倒なんだけどなぁ。
「……指揮官はライエル男爵本人で軍の階級は少佐だ。他には男爵の嫡男で少尉がいる。佐官と尉官の軍服を着ているのはこの2人だけだから直ぐにわかるだろう」
意外と素直に教えてくれるんだな。
偽情報?
いや、この軍曹はそんな嘘をつく人じゃないな。
「いいんですか? これって機密なんじゃ……」
「これは公の事実だ。領軍の構成や編成は同じ帝国軍であれば本部に問い合わせたらわかる事だ」
あっ、なるほど。
それもそうだ。
よくよく考えれば、元々は身内な訳だから当たり前か。
しかし、男爵本人が出張ってきてるのは困ったな。
帝国貴族家の当主を討つなんて許されるのだろうか?
同じ貴族ならいいかも知れないけど、俺は最下階位の平民だからなぁ。
捕まえるだけの方がいいんだろうか?
でも俺が捕まえたとして、その後はどうなるんだろ?
「この戦に負けた場合、ライエル男爵はどうなるんでしょう?」
「生還された場合か? その場合は賠償金などを要求されて、払えなければ領地の没収もあり得るだろう」
えっ? 生還された場合?
それって生還しない場合もあるって事か?
「戦死もありえるという事ですか?」
「当然だ。戦争とはそういうものだ。この戦は帝都の軍令部も双方の貴族の寄親も公認しているからな。戦となれば戦死もあり得る」
これはいい事を聞いた。
つまり、俺がライエル男爵を討ってもいいって事だよな?
これなら話が簡単でいい。
それにしても色々教えてくれるけどいいのかな?
「色々教えてくださって、ありがとうございます。聞いておいて何ですが、こんなに色々教えていただいてもよいのでしょうか?」
「別に問題ない。話している内容は公然の事ばかりだ。それより問題なのはお前が単身で敵陣に乗り込もうとしている事だ。どうだ? 考えは変わらないか? 正直、お前の腕は惜しい。俺の小隊を単身で潰した剣の腕もだが、俺達に気づかれずに潜伏していた技術も見事だ。腕のいい斥候はどの軍でも重宝されるぞ」
潜伏っていうほどのもんじゃないと思うけどね。
あれぐらい出来ないと山で獲物を獲るのに無理だ。
野生の獣や魔物って思ってる以上に敏感だからね。
それにしても本当にお人好しな軍曹だな。
失態を隠すためなのかもしれないけど、あの眼は本気で俺を心配している眼だ。
「お心遣いには感謝しますが……」
「決心は変わらないか……なら、こっちへ来い。せめてもの餞別だ」
そう言うと軍曹は敵陣へ向かうルートから少しズレたルートを歩き始めた。
どこに行くんだろ?
「お館様……男爵様は本陣にはいない事が多い。おそらくはこの先にある湖畔で女達と戯れているだろう」
「は? 女達と戯れるって……いやいや、いくら何でも指揮官が戦の指揮もせずに戦場で快楽に溺れるなどあり得ないでしょう?」
冗談だと思って軽く笑った俺を軍曹は鋭い目つきで制した。
「事実だ! お館様はそういう方なのだ! そもそも、さっき言った領地の不作もそうだ! 元々は税収を一気に引き上げた事による土壌の酷使が原因だ! そのせいで土地は痩せてしまい、満足に農作物が育たなくなったのだ! 普通にしていればダウスター同様豊かな土地だったものを! そのせいでどれだけの民が飢えているか……家督を継いで体面を整えようとするのはわかるが度が過ぎている! あれでは領地の未来などないではないかっ!」
肩で息をしながら声を荒げる軍曹。
我慢していた心の声が一気に吹き出したようだ。
やっぱり貴族って馬鹿貴族准尉みたいな奴らがいっぱいなんだろうか?
偉くもないくせに偉そうにして、平気で他人を踏みにじる。
ダウスターの領主様はそういうことはしないけど、他の貴族はやっぱりそういう噂が流れてくるし、俺は貴族に対して良い印象はないんだよなぁ。
俺はせめてそんな奴らに従わなくて済むようにしたいもんだ。
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