食うために軍人になりました【一人称版】

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第一章

論功行賞

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「これより論功行賞を行う! 名を呼ばれた者は前に出よ! 先ず、後方支援において……」

 ライエル領軍との戦闘から2日が経った。
 司令官であるライエル男爵自身が戦死した事もあってか、戦後処理は呆気なく終わったらしい。
 今日はこの戦いにおける功労者に対しての論功行賞が行われている。
 と言っても、ほとんどの者が今回の戦いでは何もしていないから、戦いの前後の働きによる評価しかなく、褒賞金のみの者が大半だ。 
 金額も大したものではない。
 せいぜい金貨5枚、多くても10枚だ。
 これじゃ、俺の評価も大したものではなさそうだな。
 せめて一等兵、欲を言えば上等兵くらいになれたらいいなぁ。

「次っ! サイモン曹長!」

「はっ!」

 俺が妄想に耽っている間に論功行賞は進んで、次は曹長が呼ばれていた。

「サイモン曹長は勇猛果敢にも単身敵陣に突入し、敵軍の副官である少尉を捕虜とした。よって、1階級昇進し、上級曹長へと昇進させる。これからも責務に励むように!」

「はっ! ありがとうございます!」

 俺が天幕で休んでいる間に、後詰めとして出撃したダウスター領軍だったが、ライエル領軍は自分達の司令官が既に討たれたことを知って戦意喪失状態だったそうだ。
 ほとんど兵が武器を下ろし、降伏の意思を示した事もあって、先陣をきっていた曹長は一度も剣を交える事なく敵の本陣までついてしまった。
 本陣の兵士も同様に降伏の意思を示していて、剣を構えていたのはライエル男爵の御子息でもある少尉だけだったそうだ。
 曹長はその少尉と一騎討ちし、勝利して捕虜とした事が評価されたらしい。
 曹長が恭しく真新しい上級曹長の階級章を男爵より受け取った瞬間、他の兵士からは割れんばかりの拍手が沸き上がった。
 やはり人格者である曹長は人気者のようで、みんなが彼の昇進を心から祝っているようだ。
 1人を除いて……。
 男爵の後ろで立っている御子息の准尉だ。
 曹長に階級が迫られた事、曹長が自分より人望がある事が気に入らないようだ。
 面白くなさそうな顔をしているよ。
 ったく、相変わらず器が小さい奴だ。

「次っ! リクト二等兵! 前に出よ!」

「えっ? あっ、はいっ!」

 曹長への拍手喝采も止まぬ間に俺の名前が呼ばれる。
 随分と忙しない気がするけど何だろう? 時間が押しているのか?
 俺が前に出ると、男爵が表情を緩ませて、ニヤニヤしているように見えるんだが、なんか企んでるのか?
 
「待たせたな。リクト二等兵。これより貴官の論功行賞を始める。先ずは単身で斥候の任務につき、敵の斥候分隊と交戦、3名を討ち取り、分隊長である軍曹を捕虜とした。更に情報収集に成功の後、敵本陣への奇襲作戦を敢行、敵軍指揮官ダニート・フォン・ライエル男爵と護衛3名を討ち取り、護衛である上等兵2名を捕虜とした。これは我が軍の勝利を確約せしめた戦功と認める!」

 周りの兵達からは驚きの声が上がった。
 そういえば俺の功績って、あの場にいた男爵と曹長、それに信じてないけど准尉とその周りにいた数名の兵士しか知らなかったんだっけ。
 ここで初めて知った者も多くいたのか、中には詐称ではないかと疑う者までいるな。
 俺だって運が良かっただけで、普通なら無理だったから、みんなの反応も当然だろう。

「しかしあまりにも戦功が大き過ぎて我が領軍本部だけでは判断ができなかった」

 えっ? 
 じゃあ、昇進はお預けって事?
 それはないでしょ……せめて1階級くらいはさせて欲しかったな。

「そこで帝都軍令部に問い合わせ、今回の戦功に対してどう報いるべきか検討してもらった」

 帝都軍令部? 
 それって帝国軍の中枢機関じゃないか!
 田舎領軍の二等兵の事なんか聞いても怒られるだけだろうに。
 待てよ……それで俺の昇進が無くなったとかじゃないよね?
 それにしてもやけに勿体ぶるなぁ。
 サッと言ってくれたらいいのに。

「軍令部でも今回の戦功は高く評価された! それに伴い、軍令部から特進の打電があった!」

 特進……特進かっ! やったぁ!
 特進という事は二階級特進だ! 二等兵から一気に上等兵になれるぞ!
 これで過酷な行軍訓練でも多少は楽が……。

「リクト二等兵を五階級特進し、軍曹とする! これからも一層、責務に励むように!」

「えっ? ぐ、ぐ、軍曹ぉおおおお!」

「ん? 返事はどうしたっ!」

「し、失礼しました! これからもて、帝国のために粉骨砕身の気概にて責務を果たします!」

 つい、男爵様の迫力に押されて答えてしまった。
 周りからは曹長の時よりも大きな称賛、感嘆、驚愕の声が次々と上がっていた。
 俺が一番ビックリしてるんだけどなぁ……。
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