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第一章
罪と罰則
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みんなが俺を称賛し、驚愕し、そして猜疑の目を向けている。
5階級特進など正に前代未聞、帝国初の偉業だ。
しかも、それをやったのが成人したばかりの二等兵ともなれば当然の反応だろう。
しかし、たった1人だけ猛反発している奴がいた。
ダウスター男爵の御子息、俺の中では馬鹿貴族息子の准尉だ。
人目も憚らず男爵に詰め寄って抗議してるよ。
「父上っ! 私は反対です! 5階級特進などあり得ません!」
「……アルフレッド。これは軍令部の決定だぞ?」
「しかし、父上っ! 軍に入ったばかりの二等兵がいきなり下士官である軍曹になるなど、私には容認できません!」
「働き次第で出世するのが軍隊だ。リクト二等兵、いや、リクト軍曹は素晴らしい働きをした。それが軍令部でも評価されたに過ぎん」
「それは父上が推薦したからではありませんかっ! ダウスター男爵家の当主であり、帝国軍中佐でもある父上が言えば、軍令部とて下士官程度の人事どうとでもするでしょう!」
「アルフレッド……」
准尉の熱くなり過ぎた理論に男爵が疲れた表情を見せてるな。
俺も異例だとは思うけど、准尉にそこまで言われる筋合いも無いと思う。
男爵も同じようなこと思ってるんじゃないかな?
困ったというより、呆れ返った顔をしてるよ。
「父上っ! 私が軍令部に直接掛け合って真意を問うてみます! それまで、奴は二等兵のままです!」
「一体何の権限があって、そんな事を言っているのだ?」
おや? さっきの准尉の言葉で男爵の雰囲気が少し変わったぞ?
ちょっと怒ってる?
「これはマズいな……」
いつの間にか隣にいた曹長がボソッと呟いた。
今、マズいって言ったよな?
「……曹長。マズいって、何がマズいんですか?」
俺は小声で曹長に聞いてみた。
「今の准尉の発言だ。あれはマズいぞ。あの発言は父親であり、上官でもある男爵の意向に逆らい、更に軍令部の決定にも逆らうという意味だ。これは抗命罪に当たる」
こうめいざい?
なんだそれ?
俺が知らない言葉に首を捻っている間にも、准尉はさらに抗議の口を開いていた。
「そもそも5階級特進がおかしいのです! 前例にない事を行うなど軍令部は何を考えているのかっ!」
おいおい、公然と軍令部批判はダメだろ?
頭に血が昇り過ぎだ。
うわぁ……男爵の顔が鬼人みたいになってるよ……。
誰か止めてやれよ。
「だいたい最下階位の平民の分際で特進など何様のつもりだっ! 偉業や特進は我ら伝統ある帝国貴族にこそ相応しい……」
「この……馬鹿者がぁあああああ!」
丸太のような男爵の腕から放たれる正拳が准尉の顔面に直撃した。
グシャっと嫌な音が練兵場内に響き渡る。
い、生きてるか? 准尉は?
「衛兵隊っ! この愚か者を捕らえて牢にぶち込んでおけ! 私が良いと言うまで絶対に出すなっ! いいなっ!」
「は、はいっ!」
肩で息をしながら男爵が眼を剥いて衛兵隊に命令し、准尉は引きづられるように連れて行かれた。
チラッと見た准尉の顔は白眼を向いていて鼻は潰れ、前歯がほとんど無くなっていた。
はっきり言って原型を留めてない……。
やり過ぎじゃないか?
「そ、曹長。い、いくら何でもあれは……」
「あれぐらいならまだマシな方だ」
曹長の言葉に俺は耳を疑った。
あれがマシって本当か?
「抗命罪は上官の命令に背くという罪だ。これは貴族や平民など階位を問わず適用される。これが無いと、軍において上官である平民階位の者が貴族階位の部下に命令する事が出来なくなってしまうからな」
なるほど、普通なら平民が貴族に命令したり、逆らったりすると不敬罪が適用されるから、軍内部ではそれを防ぐために抗命罪があるわけか。
確かに不敬罪って厄介なんだよなぁ。
なんせ平民にとっては一番怖い罪だ。
帝国の身分制度は第一位から第十位までの十階位が存在する。
第一位 皇帝陛下
第二位 皇族及び公爵
第三位 侯爵及び辺境伯
第四位 伯爵
第五位 子爵
第六位 男爵
第七位 准男爵
第八位 騎士爵
第九位 名士
第十位 平民
この順で身分が決まっている。
更に第六位以上が貴族であり、第七位と第八位が準貴族となる。
第九位と第十位が平民扱いなんだけど、第九位以下が第六位以上に逆らう事が不敬罪となる。
そして、よほど理不尽な事でも無い限り、不敬罪は死罪が原則だ。
だから第九位の名士や第十位の平民の俺達は貴族には気を遣わないといけないのだ。
しかし、貴族もピンキリで無茶な要求をしては断ると不敬罪をチラつかせる者もいる。
このタチが悪い奴らが結構多いんだよなぁ。
特に貴族の子弟はその傾向が強い。
貴族の子弟は爵士呼ばれ、階位的には準貴族扱いだ。
こういう輩はさっきの准尉みたいに選民意識が強く、平民を見下す事が多い。
それ故に嫌われているんだけど、本人達はその事に全く気づかないから困ったもんだよ。
「軍曹。貴官も下士官になったのだから覚えておくといい。抗命罪は最低でも厳罰、終身刑か死刑だ。忘れるなよ」
「……了解」
それで男爵は思いっきり殴ったのか。
あのまま放置していれば准尉は牢の中で一生を終えないといけなかったかもしれないからな。
男爵もこれ以外方法がなかったんだろう。
親の苦労子知らずか……俺も気をつけよっと。
この後、男爵の御子息であるアルフレッド・フォン・ダウスターの1ヶ月間の禁固刑と曹長への降格が発表された。
5階級特進など正に前代未聞、帝国初の偉業だ。
しかも、それをやったのが成人したばかりの二等兵ともなれば当然の反応だろう。
しかし、たった1人だけ猛反発している奴がいた。
ダウスター男爵の御子息、俺の中では馬鹿貴族息子の准尉だ。
人目も憚らず男爵に詰め寄って抗議してるよ。
「父上っ! 私は反対です! 5階級特進などあり得ません!」
「……アルフレッド。これは軍令部の決定だぞ?」
「しかし、父上っ! 軍に入ったばかりの二等兵がいきなり下士官である軍曹になるなど、私には容認できません!」
「働き次第で出世するのが軍隊だ。リクト二等兵、いや、リクト軍曹は素晴らしい働きをした。それが軍令部でも評価されたに過ぎん」
「それは父上が推薦したからではありませんかっ! ダウスター男爵家の当主であり、帝国軍中佐でもある父上が言えば、軍令部とて下士官程度の人事どうとでもするでしょう!」
「アルフレッド……」
准尉の熱くなり過ぎた理論に男爵が疲れた表情を見せてるな。
俺も異例だとは思うけど、准尉にそこまで言われる筋合いも無いと思う。
男爵も同じようなこと思ってるんじゃないかな?
困ったというより、呆れ返った顔をしてるよ。
「父上っ! 私が軍令部に直接掛け合って真意を問うてみます! それまで、奴は二等兵のままです!」
「一体何の権限があって、そんな事を言っているのだ?」
おや? さっきの准尉の言葉で男爵の雰囲気が少し変わったぞ?
ちょっと怒ってる?
「これはマズいな……」
いつの間にか隣にいた曹長がボソッと呟いた。
今、マズいって言ったよな?
「……曹長。マズいって、何がマズいんですか?」
俺は小声で曹長に聞いてみた。
「今の准尉の発言だ。あれはマズいぞ。あの発言は父親であり、上官でもある男爵の意向に逆らい、更に軍令部の決定にも逆らうという意味だ。これは抗命罪に当たる」
こうめいざい?
なんだそれ?
俺が知らない言葉に首を捻っている間にも、准尉はさらに抗議の口を開いていた。
「そもそも5階級特進がおかしいのです! 前例にない事を行うなど軍令部は何を考えているのかっ!」
おいおい、公然と軍令部批判はダメだろ?
頭に血が昇り過ぎだ。
うわぁ……男爵の顔が鬼人みたいになってるよ……。
誰か止めてやれよ。
「だいたい最下階位の平民の分際で特進など何様のつもりだっ! 偉業や特進は我ら伝統ある帝国貴族にこそ相応しい……」
「この……馬鹿者がぁあああああ!」
丸太のような男爵の腕から放たれる正拳が准尉の顔面に直撃した。
グシャっと嫌な音が練兵場内に響き渡る。
い、生きてるか? 准尉は?
「衛兵隊っ! この愚か者を捕らえて牢にぶち込んでおけ! 私が良いと言うまで絶対に出すなっ! いいなっ!」
「は、はいっ!」
肩で息をしながら男爵が眼を剥いて衛兵隊に命令し、准尉は引きづられるように連れて行かれた。
チラッと見た准尉の顔は白眼を向いていて鼻は潰れ、前歯がほとんど無くなっていた。
はっきり言って原型を留めてない……。
やり過ぎじゃないか?
「そ、曹長。い、いくら何でもあれは……」
「あれぐらいならまだマシな方だ」
曹長の言葉に俺は耳を疑った。
あれがマシって本当か?
「抗命罪は上官の命令に背くという罪だ。これは貴族や平民など階位を問わず適用される。これが無いと、軍において上官である平民階位の者が貴族階位の部下に命令する事が出来なくなってしまうからな」
なるほど、普通なら平民が貴族に命令したり、逆らったりすると不敬罪が適用されるから、軍内部ではそれを防ぐために抗命罪があるわけか。
確かに不敬罪って厄介なんだよなぁ。
なんせ平民にとっては一番怖い罪だ。
帝国の身分制度は第一位から第十位までの十階位が存在する。
第一位 皇帝陛下
第二位 皇族及び公爵
第三位 侯爵及び辺境伯
第四位 伯爵
第五位 子爵
第六位 男爵
第七位 准男爵
第八位 騎士爵
第九位 名士
第十位 平民
この順で身分が決まっている。
更に第六位以上が貴族であり、第七位と第八位が準貴族となる。
第九位と第十位が平民扱いなんだけど、第九位以下が第六位以上に逆らう事が不敬罪となる。
そして、よほど理不尽な事でも無い限り、不敬罪は死罪が原則だ。
だから第九位の名士や第十位の平民の俺達は貴族には気を遣わないといけないのだ。
しかし、貴族もピンキリで無茶な要求をしては断ると不敬罪をチラつかせる者もいる。
このタチが悪い奴らが結構多いんだよなぁ。
特に貴族の子弟はその傾向が強い。
貴族の子弟は爵士呼ばれ、階位的には準貴族扱いだ。
こういう輩はさっきの准尉みたいに選民意識が強く、平民を見下す事が多い。
それ故に嫌われているんだけど、本人達はその事に全く気づかないから困ったもんだよ。
「軍曹。貴官も下士官になったのだから覚えておくといい。抗命罪は最低でも厳罰、終身刑か死刑だ。忘れるなよ」
「……了解」
それで男爵は思いっきり殴ったのか。
あのまま放置していれば准尉は牢の中で一生を終えないといけなかったかもしれないからな。
男爵もこれ以外方法がなかったんだろう。
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