食うために軍人になりました。

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第一章

中将との出会い

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 俺の家名は未だに決まっていない。
 訓練が長引いた。
 書類が多かった。
 やる事が多かった。
 考えるのが面倒になった。
 理由はいくらでも付けられるが、敢えて言おう。
 全部俺のせいだ。
 と、言うわけで家名も決まらないまま俺はあの日から3日目の朝を迎えた。
 今日は帝都から将軍とやらが来るらしい。
 はっきり言って面倒だ。
 帝都から来るって事は帝国中央軍所属だろ?
 国境付近に展開している各方面軍ならともかく、俺達みたいな地方領軍なんて中央軍の将軍からすれば取るに足らない存在だろうに。
 一体何が面白くて来るんだか……。
 とりあえず出迎えはしないといけないから、領軍司令部の入口で待機しとくか。
 ああ、やだやだ!
 
 
 ーーなんて思っていた自分を殴りたい!
 帝都の将軍を乗せた馬車が到着し、従卒が扉を開けて降りてきたのは、女神か天使かと思わせる程の美人だった。
 本当に軍人かと思わせるほどに光沢のある銀髪に傷一つない艶のある肌、やや吊り目がちの切れ長の眼、彫刻のようなすらっとした鼻、ぷっくりとした唇!
 間違いなく俺の生きてきた中で一番美人だ!
 周りにいる全員が同じ感想を抱いたのだろう。
 ロースター軍曹も、サイモン曹長でさえ、ポーッとしている。
 男爵の子息のアルフレッド曹長に至っては口をポカンと開けたまま、涎を垂らしている。
 こいつは駄目だ。
 品性が足りない。
 しかし、気持ちはわからないでもない。
 本当に帝国の将軍かと思ってしまうが、軍服を見る限りは間違いないようだ。
 帝国の軍服は上下ともに黒だが、階級によって微妙に差がある。
 兵卒はただの襟付きの黒服で肩章は黒色だが、下士官は白色になる。
 尉官は肩章が銅色あかがねいろになり、佐官は銀色、そして将官は金色となる。
 当然、目の前の美人の肩章は金色だ。
 更に軍服の胸に付けている階級章で階級がわかる。
 階級章の地の色は肩章と同じでそこに帝国星章と呼ばれる細工を施された星型のピンが階級順に付けられる。
 例えば下士官の階級は上から上級曹長、曹長、軍曹、伍長となっていて、これに対して帝国星章の数は上級曹長が3つ、曹長が2つ、軍曹は1つ、伍長は無しだ。
 尉官だと大尉、中尉、少尉、准尉だから大尉が3つ、中尉が2つ、少尉が1つ、准尉が無しとなる。
 つまり、肩章の色と帝国星章の数でその人の階級がわかるのだ。
 そして、目の前の美人の肩章は金色で帝国星章は2つ。
 つまり、彼女は間違いなく帝国軍の中将という事だ。

「ここは本当に田舎だな。まさか、来るのにこんなに日数がかかるとは思わなかったぞ? お陰で大事な会議をいくつか任せてきたくらいだ」

 中将は近くにいた俺を軽く見てから文句を言った。
 帝都からダウスター領の距離が遠いのは俺達にはどうしようもない事だけど、とりあえず謝っておくしかない。
 不機嫌になったら大変だからな。

「御足労をおかけして、申し訳ありません!」

「ぷっ……あはははははっ! 冗談だ! 純朴なのは素晴らしい事だが、軍人としては問題があるぞ!」

「えっ? あっ、す、すいません……」

 なんだ、冗談だったのか。
 真面目に答えて損したよ。

「ウチの若いものをからかうのはそれぐらいにしてもらおう」

 そう言いながら出てきたのはダウスター男爵だった。
 さすがに貴族家の当主ともなると、帝国軍の中将相手にも物怖じしないもんなんだな。
 
「久しいな。ダウスター卿。壮健そうでなによりだ」

「卿もな。さぁ、早く中に入るがいい。卿の好きな連邦産の茶葉を用意してあるぞ」

「ほぅ、それは有難いな。では、さっさと入るとしよう。さっきは悪かったな、少年。出迎えご苦労だった」

「えっ……あっ、はいっ!」

 中将は俺に顔を寄せると、にっこり微笑みながらそう言った。
 やべぇ、近くで見ると更に美人だ。
 おまけになんて良い香りがするんだろう……ちょっと変態っぽいが、事実だから仕方ない!

「ジェニングス中将。からかうなと言ったはずだぞ?」

「くくくっ……いや、すまんすまん! こうも顔を真っ赤にされてはな! ウブな少年兵もいたもんだ! こいつは大事にしてやれよ」

 どうやら、またからかわれたらしい。
 おまけに顔が真っ赤になってたのか、恥ずかしい……。

「大事にしているぞ。なんせ、卿の言う少年兵こそが卿の目当て、リクト軍曹だからな」

 男爵の言葉にジェニングスと呼ばれた中将が改めて俺を見る。
 でもさっきまでの優しい眼とは違うな。
 値踏みするような疑うような、そんな卑しい眼だった。
 中将に対する熱が少し冷めたな。
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