食うために軍人になりました【一人称版】

KBT

文字の大きさ
21 / 480
第一章

勝負の始まり

しおりを挟む
 フードを脱いだ2人の女性が中将の横に並んだ。

「帝国軍大尉、アリシア・フォン・ヴォルガング。帝国建国時より続く名家ヴォルガング子爵家が当主、ラングリッド・フォン・ヴォルガングの娘だ」

「帝国軍少尉っ! ファンティーヌ・フォン・リンテール! リンテール子爵家の出ですぅ。よろしくねぇ」

 ヴォルガング大尉とリンテール少尉。
 こ、これは度肝を抜かれた。
 2人ともジェニングス中将に勝るとも劣らない美女と美少女だ。
 大尉は長身スレンダー体型に長髪ストレートの黒髪、切れ長目のキリッとした端麗な顔立ち。
 冷たい雰囲気はするが、その鋭い美しさが更に見る者の心を魅了しそうだ。
 対して少尉は一見して子供のように見える。
 大きな瞳にあどけなさが残る顔、金髪のツインテールが更に幼さを感じさせる。
 しかし、背は俺より低いはずなのに育つところは育っている!
 顔と身体のアンバランスさは否めないが、それが不思議な魅力を醸し出している。
 顔と身体をコートで隠していたのはこのせいか。
 中将に加えてこの2人が揃っていたら、間違いなく男達が群がってくるからな。

「どうだ? リクト軍曹。この2人と立ち合って見せよ。安心しろ、ここにいるアンダーソン大佐は元衛生兵であり、回復魔法を嗜んでいる。死にはせん」

 中将がそう言って、隣にいた大佐を紹介してくれる。
 回復魔法の使い手とは珍しい。
 いや、いる事はいるんだけど、最近は魔法薬ポーションが安価で出回っているから、回復魔法のなり手は少ないと聞いたんだけどな。

「待て! 中将! まさか、リクト軍曹1人でヴォルガング大尉とリンテール少尉の2人と戦わせる気かっ!」

「そうだ。何か問題があるのか?」

 ダウスター男爵が語気を強めて抗議するのを、中将は涼しげに流している。
 男爵の様子から見て、もしかしてこの2人って結構やばいんじゃない?

「ヴォルガング大尉はあのヴォルガング大佐の御息女であろう! ヴォルガング流剣術を若干16歳で修め、帝都の剣術大会で優勝した事もある天才剣士ではないかっ! それにリンテール少尉もあの魔法教官であるリンテール准将の御息女で、幼き頃から魔法を操り、古代魔法の解明にも成功した才女ではないかっ!」

 うわぁい!
 想像を遥かに超えた人達だった!
 こっちは田舎の平民出身で、平凡な両親からボロボロの古文書と胡散臭い魔法書で剣と魔法を覚えただけなんだぞ。
 やり過ぎでしょ!

「落ち着け、ダウスター卿。何も2人を相手に勝てとは言わないさ。力量を図るだけだよ」

「そういう事です。ダウスター卿。我々も領軍の軍曹相手に本気など出しませんよ。リクト軍曹、貴官も帝国軍人ならば嫌だとは言わないだろうしな」

「そうだよねぇ! そうだぁ! ねぇねぇ、軍曹が勝ったら私もお願い聞いてあげちゃうよぉ! なんだったらお嫁さんになってあげてもいいよぉ~」

「それは面白いな。ファンティーヌ。いいだろう。このアリシア・フォン・ヴォルガングに勝てたら貴官の望みを叶えてやるぞ。どうだ?」

 『どうだ?』と言われてもねぇ。
 絶対無理だと思ってニヤついてるじゃないか。
 ちょっとイラっとするなぁ。
 それに、ここまで言われたら俺にも自尊心プライドがある。
 嫁はまだ要らんけど、やってやるぞ!

「了解しました」

「よし! それでいい。ならばダウスター卿、練兵場を借りるぞ。それと人払いを頼みたい」

「ぬぅ……いいだろう。だが、その前に一つ確認したい。ジェニングス中将。これはあくまで力量を測るための立ち合いだな?」

 ダウスター男爵が中将に詰め寄って低い声で問う。
 ちょっと怒ってる感じはするけど、殺気は感じられないな。

「当然だ。私も有能な者を失いたい訳ではない。

 それって無能と判断したら失ってもいいって意味かな?
 中将って意外と性格は悪そうだな。
 男爵も苦虫を噛み潰したような顔をしているが、その後はなにも言わなかった。

「では、武器を持ってすぐに練兵場に来い。面倒だから防具は無しだ! 武器のみとする! 解散!」

 中将の号令でみんなが部屋から出て行く。
 俺は元から刀を腰に下げてるので、そのまま練兵場に向かうとするか。
 やれやれ、痛いのは嫌なんだけどなぁ。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「では、両者準備はいいな?」

 大尉と少尉が並んで俺と対峙している練兵場に中将の声が響き渡った。
 でも、おかしいぞ?
 あ男爵と上級曹長の姿が見えない。
 それに大佐もいないみたいだけど、どうしたんだろ?

「では! 始め!」

「えっ? ちょ、ちょっと……」

 俺の準備を待たずに開始を宣言する中将。
 少尉は後方で構えており、大尉はすでにこちらに向かってきている。
 大尉の獲物は長剣ロングソードだが、刀身に刻まれた魔法文字が、普通の長剣ロングソードではない事を物語っている。
 所謂魔法武器マジックウエポンってやつか。
 初めて見たよ。
 更に後方に待機している少尉は魔法の詠唱を始めている。
 そういや、少尉は魔法の才女だっけ?
 獲物は両手杖ロングスタッフだが、これもでっかい魔法石が組み込まれているから、これも魔法武器マジックウエポンなんだろうな。

「ごめんねぇ。閣下の命令なんだぁ! なるべく死なないようにするからねぇ! 火炎短槍フレイムジャベリン!」

 げっ! 無数の炎の槍が前方を走る大尉を避けながら放射線を描いて俺に襲いかかってきた!
 謝りながら撃つにしては随分と容赦がない攻撃だな!
 ちっ、炎の槍が横からも放射状に迫ってきやがる!
 後ろに下がるしかない!
 すると、先程より速度を上げて大尉が剣を振りかぶって突進してくる。

「武器も抜けないとは情けない! だが、容赦はせん! 一刀の元に斬り捨てる!」

 切り捨てって、殺す気か!
 大尉にしても少尉にしても加減する気も毛頭ないし、中将も最初からそのつもりだったのか!
 あっ! だから男爵と上級曹長がいないんだっ!
 この野郎! やることがせこいぞ!

「はぁあああああああっ!」

 大尉が気合と共に振り下ろしてくる剣をギリギリで躱して横に転がって距離をとったが、少尉の放った火炎短槍フレイムジャベリンは執拗に俺だけを狙って迫ってくる。
 くそっ、このままじゃ躱しきれない!
 仕方ない、あれを使うか!
 俺は腰に下げた刀の柄を握りながら、魔力を刀に込める。

「あれは……まさかっ!」

 俺の構えを見た大尉が驚いた声を上げたが、気にしてる場合じゃない!

「いくぞっ!」

 鞘から刀を勢いよく抜き放つ。
 抜き放たれた刀身からは突如として風が巻き起こり、荒ぶる風は竜巻となって全てをなぎ倒さんと暴れ狂った。
 練兵場の砂は巻き上がり、木々が激しくしなっては、ミシミシと悲鳴を上げる。
 荒ぶる風は少尉の火炎短槍フレイムジャベリンを全て吹き飛ばして、近くにいた大尉の身体をも吹き飛ばした。
 そして何事もなかったように風は去っていった。
 吹き飛ばされながらも、空中で体勢を整えた大尉が地面に膝をつく。
 少尉は油断していたのか風に煽られて仰向けに地面に転がされていた。
 そして、その後ろで突然の事に目を見開いたまま固まる中将。
 これが親父から教わった剣術だ!

暴剣ぼうけん狂飆きょうひょう。さぁ、仕切り直しですよ」

 俺は刀を鞘に戻して、構え直してからそう宣言した。
しおりを挟む
感想 307

あなたにおすすめの小説

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

処理中です...