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第一章
誓約
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「それはどういう事ですか?」
俺は中将の言葉の意味が理解できなかった。
人事的な理由で昇進ができない俺を昇進させるって事はわかるが、どうするつもりなんだ?
その疑問はどうやら男爵も同じのようで、中将を訝しげな眼で見ている。
「ジェニングス卿。確かに卿は帝国軍中将であり、帝国貴族の女男爵でもある。しかし、このダウスター領軍の人事に介入する事は難しいのではないか? 下士官とはいえ人事配置は簡単には変えられないぞ」
男爵が中将の意見に疑問に呈す。
俺としても昇進はしたいし、中将の申し出はありがたいが、だからと言って無茶な横やりでダウスター領軍の人事をめちゃくちゃにしたいわけじゃない。
それだけに中将の次の言葉が気になる。
「私に考えがある。ここは私に任せてもらいたい。それに、それをするかどうかは軍曹の返答次第だ」
そういえば、聞きたいことがあるとか言ってたな。
変なこと聞かれないといいけど。
「その前に、先ずはこの宣誓書にサインしてもらわねばならない」
中将が促すと、大佐は俺に一枚の書類を差し出した。
宣誓書? 聞いたことがないけど、何の書類だ?
「あの、これは……」
「今から話す話を口外しないと誓う宣誓書だ。万が一にも貴官が他言した場合、誓約を破ったとして名誉は地に落ち、階位も剥奪される。最悪の場合は奴隷落ちとなる」
「ど、奴隷落ちっ!」
思わず大きな声を出してしまった。
帝国の階位には奴隷は存在しない。
よって、人としての扱いは受けられず、人権も何もない『物扱い』になる事を意味する。
俺は見た事はないけど、ほとんど動物と同じ扱いを受けるって聞いた。
現皇帝陛下から奴隷制度を廃止すると通達があったけど、地方では未だに奴隷制度が土着的に続いているって話だ。
そして、これに対する罰則は今のところはない。
胸糞悪い話だ。
「貴官は奴隷になどならない。貴官の場合は軍事機密情報漏洩で軍法会議にかけられる。良くて終身刑、悪ければ死刑といったところだ」
ちゅ、中将閣下?
そんなニッコリ笑いながら言われても怖いですよ。
軍人だから命の危険は覚悟してるけど、罰せられて死ぬのは嫌だな。
うーん、どうしたもんか。
ん? 俺が悩んでいると、大尉が横からチョイチョイと指で突いてきた。
「おい、貴官は何を悩んでいるのだ? 誓約書は極秘任務ではよくある事だぞ?」
「えっ? そうなんですか?」
大尉が意外に可愛い仕草で教えてくれた。
「そうだよぉ。私達だって何回も誓約書にサインした事あるしぃ、そもそも軍事機密を漏らすことの方が問題なんだからねぇ」
少尉も続けて説明してくれた。
言われてみればその通りだ。
ロースター軍曹からも『軍の情報は門外不出が原則だ』だと言われていたっけ。
なら、悩む必要はないか。
「わかりました」
俺は宣誓書にサインした。
少なくともこの場にはダウスター男爵もいるし、悪いようにはされないだろう。
「よかろう。確認した。それで? ダウスター卿はどうする? これは本当に重要な軍事機密だ。聞かぬと言うなら退室を願いたい」
「リクト軍曹1人を残して行く事など出来ん。ダウスター男爵家の名誉と家名に誓って他言せんと誓約しよう」
あれ? 男爵は誓約書にサインしなくていいのか?
「貴族家当主の宣誓は家名に誓う事で成立する。貴族は名誉を重んじる。約束を違えるなど貴族あるまじき行為だ」
「もしぃ、誓約を破ったなんてバレたらぁ、他の貴族達の嘲笑の的にされてぇ、とても公の場には出れなくなっちゃうよねぇ」
なるほど、それなら軽々に破ったりはしないか。
しかし、名誉を重んじるって本当か?
あのライエル男爵が名誉を重んじてたようには見えないんだけど。
「軍曹。貴官は今の社会についてどう思う?」
中将がゆっくりと話し始めた。
その口調はいつもより低く重たく感じる。
どうやらここからが本題のようだな。
俺は中将の言葉の意味が理解できなかった。
人事的な理由で昇進ができない俺を昇進させるって事はわかるが、どうするつもりなんだ?
その疑問はどうやら男爵も同じのようで、中将を訝しげな眼で見ている。
「ジェニングス卿。確かに卿は帝国軍中将であり、帝国貴族の女男爵でもある。しかし、このダウスター領軍の人事に介入する事は難しいのではないか? 下士官とはいえ人事配置は簡単には変えられないぞ」
男爵が中将の意見に疑問に呈す。
俺としても昇進はしたいし、中将の申し出はありがたいが、だからと言って無茶な横やりでダウスター領軍の人事をめちゃくちゃにしたいわけじゃない。
それだけに中将の次の言葉が気になる。
「私に考えがある。ここは私に任せてもらいたい。それに、それをするかどうかは軍曹の返答次第だ」
そういえば、聞きたいことがあるとか言ってたな。
変なこと聞かれないといいけど。
「その前に、先ずはこの宣誓書にサインしてもらわねばならない」
中将が促すと、大佐は俺に一枚の書類を差し出した。
宣誓書? 聞いたことがないけど、何の書類だ?
「あの、これは……」
「今から話す話を口外しないと誓う宣誓書だ。万が一にも貴官が他言した場合、誓約を破ったとして名誉は地に落ち、階位も剥奪される。最悪の場合は奴隷落ちとなる」
「ど、奴隷落ちっ!」
思わず大きな声を出してしまった。
帝国の階位には奴隷は存在しない。
よって、人としての扱いは受けられず、人権も何もない『物扱い』になる事を意味する。
俺は見た事はないけど、ほとんど動物と同じ扱いを受けるって聞いた。
現皇帝陛下から奴隷制度を廃止すると通達があったけど、地方では未だに奴隷制度が土着的に続いているって話だ。
そして、これに対する罰則は今のところはない。
胸糞悪い話だ。
「貴官は奴隷になどならない。貴官の場合は軍事機密情報漏洩で軍法会議にかけられる。良くて終身刑、悪ければ死刑といったところだ」
ちゅ、中将閣下?
そんなニッコリ笑いながら言われても怖いですよ。
軍人だから命の危険は覚悟してるけど、罰せられて死ぬのは嫌だな。
うーん、どうしたもんか。
ん? 俺が悩んでいると、大尉が横からチョイチョイと指で突いてきた。
「おい、貴官は何を悩んでいるのだ? 誓約書は極秘任務ではよくある事だぞ?」
「えっ? そうなんですか?」
大尉が意外に可愛い仕草で教えてくれた。
「そうだよぉ。私達だって何回も誓約書にサインした事あるしぃ、そもそも軍事機密を漏らすことの方が問題なんだからねぇ」
少尉も続けて説明してくれた。
言われてみればその通りだ。
ロースター軍曹からも『軍の情報は門外不出が原則だ』だと言われていたっけ。
なら、悩む必要はないか。
「わかりました」
俺は宣誓書にサインした。
少なくともこの場にはダウスター男爵もいるし、悪いようにはされないだろう。
「よかろう。確認した。それで? ダウスター卿はどうする? これは本当に重要な軍事機密だ。聞かぬと言うなら退室を願いたい」
「リクト軍曹1人を残して行く事など出来ん。ダウスター男爵家の名誉と家名に誓って他言せんと誓約しよう」
あれ? 男爵は誓約書にサインしなくていいのか?
「貴族家当主の宣誓は家名に誓う事で成立する。貴族は名誉を重んじる。約束を違えるなど貴族あるまじき行為だ」
「もしぃ、誓約を破ったなんてバレたらぁ、他の貴族達の嘲笑の的にされてぇ、とても公の場には出れなくなっちゃうよねぇ」
なるほど、それなら軽々に破ったりはしないか。
しかし、名誉を重んじるって本当か?
あのライエル男爵が名誉を重んじてたようには見えないんだけど。
「軍曹。貴官は今の社会についてどう思う?」
中将がゆっくりと話し始めた。
その口調はいつもより低く重たく感じる。
どうやらここからが本題のようだな。
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