食うために軍人になりました【一人称版】

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第一章

緊迫?の会議室

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 ボトルを片手に中将はこっちに歩み寄ってくる。
 美人の不敵な笑みって怖いんだな。
 なんか色々搾り取られそうだ。

「さて、ダウスター卿。色々聞かせていただきたいな」

「な、何のことか私にはさっぱり……」

 いつもどっしり構えてる男爵にしては弱腰だな。
 あの林檎のブランデーがそんなに困ったことになってるんだろうか?

「事ここに至って、そのような事を言われるとは。勇猛果敢なダウスター卿とも思えぬ。潔く話された方が良いのではないかな? ん? なんなら相談に乗らぬ事もないぞ?」

 男爵の対面の椅子に座って妖艶な雰囲気を醸し出す閣下。
 テーブルの上にボトルを置いて、時折指で撫でながら男爵の方を見ている。
 ちょっと色っぽい……いや、かなり色っぽい!

「……わかった。しかし、これだけは言っておくぞ。この林檎のブランデーは私利私欲のために流通を制限していた訳ではない。ダウスター男爵家の名誉に誓ってそれは断言しよう」

「安心しろ。卿がそのような事をする男ではないのは知っている。だからこそ、理由を聞きたいのだ」

 男爵は一息ついた後にゆっくり話し始めた。

「卿の推察通り、その林檎のブランデーは確かにダウスター領内で酒造されたものだ。だが、生産量が安定しておらず、安定した量の確保もできないのが現状なのだ。しかし、卿も知っての通り、その酒の味は極上の物。知られれば多くの者が買い求めに来るだろう。だが、自領で作った物を自領の者が楽しめないのは不憫ではないか。だから、私は領内に流通を絞り、余剰分だけを私が生産地を隠して、帝都に持ち込んでいるのだ」

「生産地が明らかになれば貴族や商人達がこぞってこの地に押しかける。そして、権力や財力を背景に領民達の分まで搾取しかねないから隠していた……なるほど、筋は通っているな」

「そうだ! 私は何もやましい事などしていない! 私は領民の……」

「では、屋敷の裏にあったこの酒の空ボトルの山は何だ?」

 中将の言葉に固まった男爵は、まるで石の彫刻のようだ。

「あ、あれは……」

「卿は確かに名君だが、酒には目がないと聞く。先に言っていた自領の者のためとは卿自身の事ではないか? そして余剰分は交渉を優位に運ぶために帝都に持ち込んでいた……どうだ?」

 中将の追求に男爵はゆっくり両手を上げた。

「…………お手上げだ。その通り、この酒を帝都から来た知人に飲ませたら、気に入ってな。ダウスター領への補給物資と交換で1本やったのだ。それが帝都で出所不明ながら有名になって《林檎の妖精アップルフィー》などと名前までついてしまったのだ」

「しかし、卿はそれを逆手に取った。ダウスター領にとって都合の悪い時はこの酒を交渉材料にして難を逃れていたわけか。道理でダウスター領は穏やかなわけだ。他領では徴兵やら増税やらで大変だというのに」

「帝都には不定期で持ち込んでおるせいか、値段が高騰しているからな。希少価値もあって交渉材料としては十分だ。ところで、今はどのくらいの値段になっているのだ?」

「普通の店には最早ない。帝都の最高級ホテルでしか出していない物だ。今は大金貨1枚。それも一杯でな」

 一杯で大金貨1枚!?
 って事は……あれはだいたい5杯分の瓶だから……。
 一本で大金貨5枚!
 今回の俺の報奨金と変わらないじゃないか!
 帝都って物価が高いとは聞いていたけど、本当に高いなぁ。

「しかし、領地をあげて生産し、ダウスター領の特産品にでもすればいいのではないか?」

「それが出来ん。その酒は特殊な製法で作られているし、原料も限られている。造っているのも酒蔵ではないただの平民の家族なのだよ」

「なんだとっ! そんな馬鹿な……」

「事実だ。だからこそ、内密なのだ。平民が貴族や大商人に対抗できはわけがない。その家族を守るには内密にするしかないのだ」

 まぁ、そういう条件で造ってるからね。
 反故にするなら造るのを止めるよ。

「むぅ……やむを得ないか。仕方ない、この酒をじっくり飲ませてもらうだけで良しとしよう。卿も安心しろ。この件は内密にする。する代わりに卿の分から私にも融通してくれ」

「はっきり言いよって……だが、その方が信用もできるというもの。タダ程怖いものはないからな」

「そういう事だ」

 2人揃って悪い顔してるなぁ。
 俺はこの場にいていいんだろうか。

「リクト軍曹も内密にな。うっかり漏らすなよ」

「はっ! 小官も命は惜しいので」

 俺の言葉に男爵と中将が目を丸くする。
 なんかおかしな事を言ったかな?

「……リクト軍曹。貴官の家は確か果樹園だったな?」

「ええ、そうですが……」

「果樹園であれば色んな果物を育てているんだろうな。例えば林檎とか」

 あらら、さっきのでバレちゃったみたいだな。
 
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