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第一章
家名決定
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値踏みをするように俺を見つめる中将の眼には確固たる意志が感じられた。
これは隠し通すのは無理かな?
別に隠しているわけじゃないけど。
「確かに小官の実家で造っております。傷のついた果物が売れないので、加工したのが始まりでした」
「そうか。卿よ、これも内密だな?」
「はぁ……まぁ、そうだな。仕方ない。月に2本は回してやる」
大きくため息をついた男爵が提案し、中将も納得したように頷いた。
男爵のところには月に10本卸してるんだけど、これは黙っといた方がいいよね?
「良い交渉であった。今後ともよろしく頼む」
「あぁ。これで卿とジェニングス辺境伯家とも繋がりができたと考えれば、此方としても有難いからな」
うーん、ウチのお酒が貴族同士の政略にまで影響してるとは思わなかったな。
まぁ、いいんだけどね。
おっと、丁度いい機会だから閣下にあの件をお願いしよう。
「あの、閣下……お伺いしたい事があるのですが」
「なんだ?」
「以前の願い事の件って、まだ有効なんでしょうか?」
「願い? あぁ、大尉と少尉に勝ったらというやつか? 勿論だ。私は約束を違えん女だからな。何かあるのか?」
良かった。
なら、遠慮なくお願いしてみよう。
「小官、以前の戦功で階位が上がりまして、家名御免となったのですが、良い名を思いつきませんで、何かお知恵をお借りできればと……」
「ん? そんな事でいいのか? まとまった金が欲しいとか高価な品物が欲しいとかはないのか?」
お金は欲しい!
でも、今はこっちの方が優先なだけです。
「まぁ、欲がないと言えば嘘になりますが、軍令部からも催促がきているみたいでして」
「そういえばあれから2ヶ月か。早いものだな。私も失念していたわ」
司令官である男爵が失念するのはどうよ。
まぁ、俺の個人的な問題だから仕方ないと思うけどさ。
「いいだろう。私が良い家名をくれてやる。しかし、貴官の家名となるとやはり勇ましい名が良いな。特に貴官の場合は一代限りとは限らんから、恥ずかしくない名をやらねばならん。むぅ、確かに難題だな」
中将は独り言を発しながら、深く考え込んでいる。
適当に言うかと思ったら意外と生真面目な人だったんだな。
しばらく考え込んだ後に中将は俺の腰を見ていた。
「……貴官の武器は片刃だったな?」
「ええ。家にあった物です」
「うむ、良い家名があるぞ。《シュナイデン》というのはどうだ?」
「お、おいっ! そ、その家名はっ!」
中将の提案に男爵が慌てている。
そんなにおかしい家名でもない。
むしろ聞いた事がある家名だ。
なんか子どもの頃に聞いたような……。
「問題なかろう? 名士が家名に使えぬのは貴族名だからな。この名は貴族の名ではない」
「確かにそうだが……リクト軍曹はどう思う?」
「小官は特に異存ありません」
どこで聞いたか由来は何か気になるけど、名前なんていっぱいあるからな。
気にしても仕方ない。
「よし。ならば貴官は今から『リクト・シュナイデン』を名乗るがいい。その名に恥じぬ働きを期待するぞ」
「はっ! ありがとうございます!」
「よろしい。では、酒場にあったこの秘蔵の一本で祝杯をあげるとしよう。大佐と大尉と少尉も呼んでやるか。あやつらは口にした事もないだろうからな」
中将が笑顔で呟いた。
これは異な事を仰る。
「あの、大尉と少尉は昨日、酒場で飲んでおりましたが……」
俺の言葉に中将の顔が固まった。
あっ、なんかヤバいこと言ったかも。
「…………なに? これは酒場秘蔵の1本ではないのか?」
「いや、あの……その……酒場には5本ありまして……4本は大尉と少尉が……」
見る見るうちに中将の顔が紅潮し、笑顔が般若の顔へと変わった。
こ、こわぁ……。
「あの2人を呼べぇぇええええええええ!」
中将の大声で呼ばれた2人は、夜までコンコンと説教されたそうだ。
連れて行かれる時の2人の恨めしそうな眼を俺は忘れる事が出来なかった……。
これは隠し通すのは無理かな?
別に隠しているわけじゃないけど。
「確かに小官の実家で造っております。傷のついた果物が売れないので、加工したのが始まりでした」
「そうか。卿よ、これも内密だな?」
「はぁ……まぁ、そうだな。仕方ない。月に2本は回してやる」
大きくため息をついた男爵が提案し、中将も納得したように頷いた。
男爵のところには月に10本卸してるんだけど、これは黙っといた方がいいよね?
「良い交渉であった。今後ともよろしく頼む」
「あぁ。これで卿とジェニングス辺境伯家とも繋がりができたと考えれば、此方としても有難いからな」
うーん、ウチのお酒が貴族同士の政略にまで影響してるとは思わなかったな。
まぁ、いいんだけどね。
おっと、丁度いい機会だから閣下にあの件をお願いしよう。
「あの、閣下……お伺いしたい事があるのですが」
「なんだ?」
「以前の願い事の件って、まだ有効なんでしょうか?」
「願い? あぁ、大尉と少尉に勝ったらというやつか? 勿論だ。私は約束を違えん女だからな。何かあるのか?」
良かった。
なら、遠慮なくお願いしてみよう。
「小官、以前の戦功で階位が上がりまして、家名御免となったのですが、良い名を思いつきませんで、何かお知恵をお借りできればと……」
「ん? そんな事でいいのか? まとまった金が欲しいとか高価な品物が欲しいとかはないのか?」
お金は欲しい!
でも、今はこっちの方が優先なだけです。
「まぁ、欲がないと言えば嘘になりますが、軍令部からも催促がきているみたいでして」
「そういえばあれから2ヶ月か。早いものだな。私も失念していたわ」
司令官である男爵が失念するのはどうよ。
まぁ、俺の個人的な問題だから仕方ないと思うけどさ。
「いいだろう。私が良い家名をくれてやる。しかし、貴官の家名となるとやはり勇ましい名が良いな。特に貴官の場合は一代限りとは限らんから、恥ずかしくない名をやらねばならん。むぅ、確かに難題だな」
中将は独り言を発しながら、深く考え込んでいる。
適当に言うかと思ったら意外と生真面目な人だったんだな。
しばらく考え込んだ後に中将は俺の腰を見ていた。
「……貴官の武器は片刃だったな?」
「ええ。家にあった物です」
「うむ、良い家名があるぞ。《シュナイデン》というのはどうだ?」
「お、おいっ! そ、その家名はっ!」
中将の提案に男爵が慌てている。
そんなにおかしい家名でもない。
むしろ聞いた事がある家名だ。
なんか子どもの頃に聞いたような……。
「問題なかろう? 名士が家名に使えぬのは貴族名だからな。この名は貴族の名ではない」
「確かにそうだが……リクト軍曹はどう思う?」
「小官は特に異存ありません」
どこで聞いたか由来は何か気になるけど、名前なんていっぱいあるからな。
気にしても仕方ない。
「よし。ならば貴官は今から『リクト・シュナイデン』を名乗るがいい。その名に恥じぬ働きを期待するぞ」
「はっ! ありがとうございます!」
「よろしい。では、酒場にあったこの秘蔵の一本で祝杯をあげるとしよう。大佐と大尉と少尉も呼んでやるか。あやつらは口にした事もないだろうからな」
中将が笑顔で呟いた。
これは異な事を仰る。
「あの、大尉と少尉は昨日、酒場で飲んでおりましたが……」
俺の言葉に中将の顔が固まった。
あっ、なんかヤバいこと言ったかも。
「…………なに? これは酒場秘蔵の1本ではないのか?」
「いや、あの……その……酒場には5本ありまして……4本は大尉と少尉が……」
見る見るうちに中将の顔が紅潮し、笑顔が般若の顔へと変わった。
こ、こわぁ……。
「あの2人を呼べぇぇええええええええ!」
中将の大声で呼ばれた2人は、夜までコンコンと説教されたそうだ。
連れて行かれる時の2人の恨めしそうな眼を俺は忘れる事が出来なかった……。
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