食うために軍人になりました【一人称版】

KBT

文字の大きさ
49 / 480
第一章

ライエル男爵邸

しおりを挟む
 敵の斥候マルト少尉の装備に身を包んだ俺は、ライエル領の正門に向かって走った。
 こういう時は思い切っていく方がいい。
 下手に躊躇しているとそれだけで怪しくなるからね。

「止まれ! 何処の部隊の者だ?」

 正門を守っていた門兵が長柄槍ロングスピアを交差させて俺の行く手を阻む。

「斥候分隊のイーサン・マルト少尉だ! 至急、閣下に報告すべき事があり、帰還した!」

 俺は自身が着込んだマルト少尉の鎖鎧チェインメイルの胸元の刻印を見せ、荷物から指令書を出して見せる。

「はっ! これは失礼しました!」

 門兵は刻印と指令書を見ると、阻んでいた長柄槍を退けて敬礼した。
 マルト少尉のおかげだな。

「聞くが、閣下はどちらにおられる? 至急報告せなばならん事があるのだ」

「はっ! 閣下は男爵邸にて作戦の立案中と聞いております」

「そうか。男爵邸へ急ぎたいが、馬はないか?」

「伝令用の馬があります。おいっ、馬を出せ!」

 門兵が中にいた兵に声をかけて馬を用意してくれた。
 有難い、こいつは退却の際にも使えるぞ。
 俺は用意された馬に跨り、敬礼をしてから馬を走らせた。
 男爵邸の場所は以前にロースター軍曹から聞いているので知っている。
 門から伸びる大通りを真っ直ぐに進み、街の中央にある大広場を左に入る。
 あった! あの正面に見えるのが男爵邸だ!
 門は固く閉じられており、横には門兵が控えている。

「何処の部隊の者だ?」

 さっきと同じ事を聞く門兵に俺はさっきと同じ返答をした。

「ご苦労様です。少々、お待ち下さい。開門!」

 門兵は中にいた兵に命じて門を開けてくれた。
 ここまですんなり行くとは……ちょっと不安になってきたな。

「どうぞ。屋敷前に兵がおりますので、そこで再度報告をお願いします」

 また同じ事をするのか。
 面倒だなぁ。
 もっと簡潔に済ませてしまえばよいものを。
 俺は門兵に礼を言って屋敷前に向かった。
 屋敷前には門兵が4人控えている。
 俺はさっきまでと同じ答えを繰り返すと、4人が相談し合った後、1人が屋敷の中まで案内してくれる事になった。
 そして門兵の案内で屋敷の二階へ上がる階段の踊り場まで上がったところで、門兵は立ち止まった。

「後は上がった所を真っ直ぐに行けば近衛兵が立っている。その部屋に閣下はいらっしゃるから、あとは近衛兵に聞くといい」

 そう言うと門兵は一階へと戻って行った。
 1人階段の踊り場に残されてしまったか……参ったなぁ。
 多分、これは罠だな。
 こんな中途半端な場所で案内が終わるのは妙だからね。
 おそらく俺が屋敷内で姿を眩ませないように隠れる場所のない所まで案内したんだろう。
 門兵が離れたのは人質になるのを避けるためか。
 一体どこでバレたんだろ?
 いや、今はそんな事を考えている場合じゃないな。
 上の階からも下の階からも殺気を感じる。
 多分この感じだと、50人はいるかな?
 俺1人に50人とは随分と高く見られたもんだ。
 もう、こうなったら鎧も荷物も邪魔だな。
 少尉から奪った装備と荷物は全部ここに置いていくか。
 自分の装備じゃないとどうも動きにくいからね。
 さて、準備もできた事だし行きますか。
 階段を上がると、そこには思った通り武装を整えた兵士達がズラリと並んでいた。

「抵抗は無駄だ! 大人しく投降せよ! そうすれば命だけは助けてやる!」
しおりを挟む
感想 307

あなたにおすすめの小説

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

処理中です...