食うために軍人になりました【一人称版】

KBT

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第一章

脱出

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 ライエル男爵は兜を脱いで、顔を見せた。
 金髪碧眼の整った顔は、どちらかと言えば荒事に向いていない優しそうな顔つきをしている。

「屋敷を占拠されたが、私はオーマン伯爵の配下になった訳ではない。奴らの動向を探り、来るべき時に内部から奴らを混乱させるつもりだったんだ」

「その割には俺に斬りかかってきましたけど?」

 熱弁しているところ悪いが、今の俺は疲れていて配慮する余裕がない。

「そ、それは……目の前でスミスが……執事が殺されて……それで……」

「怖くなった?」

 ライエル男爵は項垂れるように頷いた。
 まぁ、それも仕方ないだろう。
 誰だって目の前で人が殺されたら萎縮するもんだ。
 父親を亡くし、家督を継いだばかりの少年が肉親にも等しい執事を殺されたとなれば、責めるのは少し酷だろうな。
 別に責めるつもりもないけど。
 それより脱出だ。
 俺としてはさっさと脱出して、風呂に入ってサッパリしたいんだ。
 もう服に着いた血が固まって、動くたびにバリバリ音がするし、血の匂いで鼻がおかしくなりそうだ。

「脱出通路の場所さえ教えていただけたら後は好きにしていいですよ。なるべくなら俺が脱出するまでは大人しくしててもらいたいんですけど」

 しばらく考え込んでいたライエル男爵は急に俺に向かって頭を下げた。
 嫌な予感がする。

「お願いだ! 脱出通路には案内するから私も一緒に連れて行ってくれ! 頼む!」

 やっぱりそうなるか。
 足手纏いなりそうで嫌なんだけど、此処に見捨てるわけにもいかないか。

「わかりました。では、案内してください。貴方の事は捕虜ではなく、協力者として扱わせていただきます」

「す、すまない! 助かる!」

 ライエル男爵は満面の笑みで俺に答える。
 さぁ、気を取り直していこうか。

「そういえば、貴官の名前を聞いてなかったな。教えてくれないか?」

 ……それを今、聞きますか?
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