食うために軍人になりました【一人称版】

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第二章

マルタン商店

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「……どうしても着なければならないのですか?」

 中将に連れられて入った服屋の最初の感想がそれだった。
 買わないといけないのはわかってる。
 でも、目の前にある服を見ると聞かずにはいられなくなった。
 色はキツくて目に痛いし、キラキラと光る装飾が派手で鬱陶しい。
 おまけに必要のない裾がヒラヒラとしている。
 着心地抜群と言われる素材は手で裂けそうなくらい頼りない。
 そしてなにより高い! 
 何でこんな服が白金貨2枚もするんだよっ!

「軍曹、これは戦闘用ではないぞ? 目的を間違うなよ」

 俺の不満げな顔で何かを察したように中将がそう言った。

「しかし、小官は軍人ですよ……いっそ軍服では駄目でしょうか?」

「軍人が軍服で式典に出ることは本来であれば問題ない。だが、此度は陞爵の謁見だ。下士官の軍服では失礼になる。最低でも佐官以上でないとな。他に勲章などがあれば別だが、今はないのだから諦めろ」

 中将がこれほどキッパリ言うのだから、どうやら諦めるしかないようだな。
 はぁ、着たくないなぁ。

「ジェニングス様。此方の方の衣装ですが、当方にお任せいただけませんでしょうか?」

 初老の品の良い紳士的な男が中将に声をかけてきた。
 どうやら顔見知りのようで、中将も気さくに話しかけている。

「支配人か。どういう事だ?」

「此方の方は素晴らしい肉体をお持ちの様子。我がマルタン商会のデザイナーの良い刺激になるやもしれません。採算をさせていただけるなら今すぐにオーダーメイドの服を用立てさせていただきます」

「素晴らしい肉体? こいつがか?」

 支配人と呼ばれた男の言葉に中将は訝しむように俺を見る。
 まぁ、軍服って基本的にタイトだけど長袖で着丈が長いから普段は肉体なんか見えない。
 俺の身体が素晴らしいかは別にして、知らないのは当たり前だ。

「はい。如何でしょう?」

「……軍曹はどう思う?」

「色は大人しめで装飾が少なく、丈夫な生地で作ってくださるなら構いません」

「つまりデザインで勝負というわけですな。かしこまりました」

 いやいや、支配人さんは変な解釈しないでください。
 俺は派手さが無ければそれでいいんです。

「では、お二階へどうぞ」

 そう言われて俺は支配人と共に二階に上がる。
 ……何で、中将と大尉と少尉まで付いてくるんだ?

「気にするな」

 中将がそう言ったので、気にしない事にした。
 どうせ反論しても無駄だろうからね。
 俺達は二階の一室に案内され、支配人さんが扉を開けてくれた。
 中には亜麻色のボサボサ髪で肩を出した薄着の女性が此方を背にして机に向かっていた。
 俺達が来たことには気づいているようだが、振り向こうとする気配はないな。

「ミレーヌ。お客様だ」

 支配人の声に、女はわざと聞こえるようなため息をついた後、ゆっくり振り返った。

「支配人。ここは私の戦場だよ? 部外者の立ち入りは……」

 女性は振り返りざまに俺を見ると目を丸くして固まった。
 はて? 何かあったのか?
 俺が首を傾げていると、時が動き出したかのように女は俺に向かって走ってきた。
 そして、両肩を両の手で鷲掴みにされた。
 えっ? 何これ?

「脱げ! 今すぐ脱げ! 脱がないと言うなら無理やりにでも……」

 女は血走った目で俺を見ながら服を脱がそうとする。
 な、何だ? この女は? 
 変質者か?
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