食うために軍人になりました【一人称版】

第二章

ドレスアップ

　やれやれ、やっと解放された。
　美人のジェニングス中将に詰め寄られるのも悪い気はしないんだけど、要は酒の強奪だから色気もクソもない。
　ダウスター男爵が通りかかって、なんとか場を収めてくださってよかったよ。

「それで？　結局は軍曹の持ってきた新酒を独り占めしようと騒いでいたわけか？　中将」

　男爵に問い詰められて、さすがの中将も罰の悪そうな顔しているね。
　まぁ、取り乱し方も尋常じゃなかったからなぁ。

「し、仕方ないだろう！　あんなに美味いとは思わなかったんだ。　むしろ反則ではないか？」

「言っている意味がわからん。卿は帝国軍中将であり、映えある帝国貴族でもあるのだ。醜態を晒すことは許されんぞ」

「わ、わかっている！」

「それに軍曹もだ。こういう場ではそれは出さぬ方がいいな。今は夜会が始まったばかりで人も少なく、今の騒ぎも大事になっていないが、万が一、酒造の事がバレれば貴官は寝食を賭して酒造りをさせられかねないのだ。気をつけるに越した事はない」

　それはいくら何でも大袈裟過ぎじゃないか？
　単なるお酒だよ？

「そこまで大事になるのですか？」

「貴族のみならず富豪や大商人の中には酒を趣味にする者も多いからな。帝国には他にも銘酒はたくさんあるが《林檎の妖精アップルフィー》は帝都中で人気となっている。陛下も愛飲していると聞いたぞ？」

　げっ！　陛下にまで回ってるのか！　
　何か不思議な気分だな。
　我が家で作っている物を陛下が飲まれてるなんて。

「陛下が愛飲している酒を持っている。それだけでも貴族の対面が立つのだ。そのため出世の道具にもなりかねない。だから、私は領内で流通を制限し、私が買い取ることで販元を特定されないようにしているのだ」

「ダウスター卿。それは言い訳か？　言っておくが、約束は守ってもらうからな」

　男爵の言に冷たく中将が釘を刺す。
　約束って、林檎のブランデーを何本か回すって話の事だろうな。

「わ、わかっている！　オホンッ！　それとこの酒は私が預かる。一本は陛下に献上するとして残りは……中将、後で話があるがどうだ？　くくくっ」

「のったぞ。語り明かそうではないか。ふふふっ」

　なんて悪い笑顔だっ！
　悪代官と悪徳商人のような笑みを浮かべる2人に少しゾッとする。
　まぁ、俺としては出来の良さがわかればそれでいいんだけどね。

「おおおおおおおおおっ！」

　今度は会場入り口から複数の響きが聞こえてきた。
　どうやら誰かが来たらしいのだが、人混みで見えないなぁ。
　どっかの偉いさんでも来たのかな？
　まぁ、俺には関係ない事だろうし、俺は夜会で出される帝都のお酒がどんな味か気になるのから、飲んで回るとしよう。

「お、おいっ！」

「こんな所にいたぁ。何でこんな隅っこにいるのぉ？」

　後ろから声をかけられて振り向くとドレス姿の大尉と少尉が立っていた。
　大尉は落ち着きのある蒼いドレスで飾り気は少ないものの、小さな宝石が散りばめてあり、キラキラと輝いて上品さと優雅さを感じさせる。
　対して、少尉は桃色のドレスでフリルが付いており、幼さを感じるが、胸元は結構開いているためその豊かな双丘が強調され、妙な魅力を感じさせる。
　敢えて言おう、素晴らしい！