食うために軍人になりました【一人称版】

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第二章

乱心

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「これは……果物なのか? いや、違う……そんな甘ったるさはない。爽やかな口当たりに、しっかりと味わいがある! しかし、このフルーティーな香りは果物としか思えない。これは一体……」

 新酒を一口飲んだ中将がグラスを見つめながらブツブツ言っている。
 お酒が好きな人ならガバガバ飲むんだけど、お酒にこだわりのある人って美味さの理由を知ろうとするんだよなぁ。
 何もそこまでしなくてもいいとおまうんだけど。
 美味いだけじゃ駄目なのか?
 やれやれ、このままじゃ埒があかないな。

「どうですか? これは今までの果物を原料としたお酒とは違って、米を原料とした新しいタイプのお酒なんですよ。色は透明で地味ですけど、香りも味わいも深みがあつて……」

「……越せ」

「はい?」

 中将が急に小声になって何か呟いたけど、小さすぎて聞こえなかった。
 『こせ』?って聞こえたけど。
 えっ? な、なんだっ!? 
 何でそんなに目を血走らせて詰め寄って来るんだっ!?

「寄越せっ! この酒の残りを全部寄越せっ! 今すぐに出せっ!」

 ちょ、ちょっと! 
 俺の肩を掴んで激しく揺さぶらないでください!
 き、気持ち悪い……。
 そういえば、さっきのマルタン商店でも似たような目にあったぞ!
 なんだっ? 
 今日は肩の厄日なのか!?

「お、おち、落ち着い……」

「いいかっ! これは他の者には内密にしておけ! 私が責任を持って全て買い取ってやる! 幾らでもくれてやるわっ!」

「こ、これは造るのに時間がかかるので……い、今のところ販売の目処はたってなくて……」

「だったら今ある分だけでも全て寄越せっ! 年に一本でも二本でも構わん! とにかく出来た分は全部私のところに持ってこい! 金に糸目はつけん!」

 そ、そんな無茶な。
 美味しい物はみんなで味わうのがいいって、死んだじいちゃんが言ってたぞ。
 だいたい、この酒だってじいちゃんが作ってたのを再現しただけだし、さすがに内密にって訳には……。

「誰が騒いでいるのかと思えば、卿達か。何をやっているのだ?」

 おおぅ! た、助かった!
 我が主人、ダウスター男爵様っ!
 ムキムキの巨体に似合わない貴族服が悲鳴をあげているけど、その姿は救世主に見えますよ!

「何を騒いでいたのだ? 軍曹」

「実はこの……」

「駄目だっ! 軍曹! 内密と言ったろうが!」

「しかし、そういう訳には……」

「何を隠しているのだ? 中将」

 この後、駄々をこねる中将を宥めるのに苦労した。
 やっとの事で男爵に新酒を渡せたのだが、この一本が後の騒動の種になるとは、この時は思いもしなかった。
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