食うために軍人になりました【一人称版】

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第二章

新酒

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 夜が更けるにつれて、メインホールには人の姿が増えていった。
 最初は何人くらい来るのかと数えていたんだが、100人を超えると数える気すら失せた。
 ここにいるのは全員が貴族、もしくは貴族の縁者らしい。
 しかし、さすがは帝国の中心である帝都だな。
 ダウスターには貴族は男爵しかいないってのに、帝都には全部で何人居るのか想像もつかないよ。

「どうした? 勇猛な貴官でもこの人数には圧倒されるか?」

 中将が悪戯っぽい笑顔を浮かべて俺に聞いてくる。
 ここに居る全員を斬れるかという質問なら『可』と答えるが、別にそういう意味ではないだろう。

「勇猛かどうかはわかりませんが、これだけ貴族様が揃えば壮観ではありますね」

「私の部下になるならこれくらいで驚かれては困るな。それにさっきも言ったが、サンイラズ侯爵は外交面のトップである外務大臣だ。その地位に媚び諂い、利権を得ようとする者は後を絶たない。言い寄る貴族は没落しかけてる奴らも多いし、役に立たないのも多い。まぁ、侯爵もそれを知ってて、良いように使っているんだろうがな」

「……貴族様って意外と苦労してるんですね」

「地盤に産業がない貴族はかなり困窮しているのは事実だな。中には領民に重税を強いる貧乏貴族や没落貴族なんかゴロゴロいるぞ。ダウスターにも主となる産業がないしな」

 そういえば特にないな。
 男爵が色々根回ししてくださってるから大丈夫みたいだけど、やっぱり主となる産業があった方がいいよなぁ。

「貴官がその気なら『アレ』を主産業にしてもいいんだぞ? それなら私も出資してやる」

『アレ』って……酒の事か?
 しかし、あれはウチの果樹園が副業でやってるもので、規模も小さくて主産業には無理じゃないかな?
 それより今ので思い出した。
 うっかり忘れるところだったよ。
 中将に渡す物があったんだ。

「産業の件は私には判断出来ませんので。それよりコレを忘れないうちにお渡ししておきます」

「なんだ? 酒瓶? もしかして《林檎の妖精アップルフィー》か!?」

 嬉しそうに酒瓶を見つめる中将には申し訳ないけど違います。

「それはウチの新作ですよ。この間実家から送られてきたんです。仕送りのお返しにって。それでお世話になった中将にと思いまして」

 あれ? 中将の顔が一気に強張った。
 しまった。
 流石にこんなパーティーの時に渡すのはマズかったか?

「……美味いのか?」

「へ? え、ええ。小官は良いと思いましたが、林檎のブランデーとは趣が違いますので、好みが分かれるかもしれません」

 中将は酒瓶を見つめながらジッと考え込んでいるようだけど、何をしてるんだろう?
 酒瓶の蓋を開けようとしたかと思えば、手を引っ込めて、また開けようとしては引っ込めてる。
 それを繰り返して、何の儀式だ?

「あの……どうしたんですか? 中将」

「わからんのか? 呑みたいのを我慢しておるのだ! まさか、他者に呑ませる前に開ける訳にもいかんだろう! しかし、これは……ぐぬぬ……」

 美女が顔を曇らせて何を悩んでいるかと思えば……。
 呑みたいのなら呑めばいいのに。
 あっ、味がわからないと他の人に勧められないか。

「とりあえず呑んでみます? 試飲用のボトルがあるので……」

「っ! そういう物があるなら先に出せっ!」

 めっちゃ怒るやん。
 周りの人達からも何事かと見られてしまった。
 せっかく目立たないように隅にいるのに。

「どうぞ」

「むぅ! こ、これはなんという芳醇な香りだ! 呑む前から美味さを感じさせるような甘い香り……しかし、クドさはない。寧ろ、爽やかさを感じる」

 随分と饒舌だな。
 中将って本当に酒好きなんだなぁ。
 香りを楽しむように酒をゆっくり口に含んでる様は酒好きならではだね。

「こ、これは……」

 中将は新酒を飲むや否や目を見開いて固まった。
 今度は何だ?
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