食うために軍人になりました【一人称版】

第二章

帝国の腐敗

　ゾロゾロと取り巻きを連れたサンイラズ侯爵がこっちにやって来る。
　助かったよ。
　これで少佐も大尉も酔いが覚め……あれ？　全然気にしてない？

「これはこれはサンイラズ侯爵様、御機嫌麗しゅうございます」

「お騒がせして申し訳ありません、サンイラズ閣下」

　少佐も大尉も慌てた様子はないな。
　普通、侯爵様みたいな上級貴族に失礼な態度をとったら大変な事になるんじゃないのか？

「ノイマイスター大将のお気に入りとレヴァンス卿の懐刀か。私の夜会で随分と騒いでくれるものだな？」

　侯爵様も呆れたような顔をしているな。
　どうやら顔見知りのようだ。
　それにしてももっと怒っていいんじゃないか？
　なんて言うか、やんわりとした対応だな。

「申し訳ありません。しかし、国防のためとご理解ください」

「国防と仰るなら引いていただけませんか？　少佐。腰の重い帝都中央軍と身軽な地方領軍ではどちらに有能な人材が必要か、火を見るよりも明らかでしょう？」

「確かに。帝都中央軍と地方領軍では背負っている物が違うからな。芋ぐらいしか背負う物がなければ身軽であろう」

「レヴァンス領を侮辱される気かっ！」

　おいおい、いくらなんでも侯爵様の前でまた同じように言い争うなんてマズいんじゃないのか？
　でも、侯爵様も眉を顰めてはいるが怒鳴ったりはしてないな。
　なんかあるのか？

「少佐も大尉も、この場は私の顔を立ててもらおう。これ以上続けるなら、私は貴官達の主人に小言を言わねばならなくなるぞ？」

「……やむを得ませんな。申し訳ありません。少し酔いが回ったようです」

「……わかりました」

　そう言って礼をした後に少佐と大尉は別々の方向へと去っていった。
　やれやれ、大変な騒ぎだな。

「困ったもんだ。シュナイデン軍曹だったな？　驚いたであろう？」

「いえ、その……助けていただいてありがとうございます」

　俺が礼をしようとするのを侯爵様は手で制した。

「構わん。それに不甲斐ない姿だったろうしな。先も言ったが、奴らの主人は帝国軍大将ノイマイスター大将とレヴァンス侯爵だ。2人とも私と同格の存在ゆえ簡単には手を出せん。それでも、この場を引いてくれた分だけマシな方だ」

　いわゆる権力闘争か？
　なんか違う気もするけど、思った以上に貴族って大変らしい。

「最近の帝国軍は目覚ましい功績がなかったからな。それがノーマンの反逆にも繋がったのかもしれん。そのノーマンの反逆を単騎で破った貴官は今や帝国貴族中の的だ。奴らのように勧誘だけで済めばいいが、よからぬ陰謀を企てる者もおる。油断はせん事だ」

「小官が的ですか？」

「此度の功績で貴官は騎士爵に叙爵されるであろう？　それは陛下の覚えがめでたいという事だ。それを配下に持つことは一時でも陛下の心証を良くすることに繋がる。そして、使い終われば捨てればいい。それが今の帝国貴族の在り方だ。嘆かわしい事だがな」

　最悪だ。
　これは思ってた以上に帝国の腐敗は進んでいるようだな。
　中将が嘆くのもわかる気がするね。