食うために軍人になりました【一人称版】

KBT

文字の大きさ
115 / 480
第二章

一触即発

しおりを挟む
 俺が持ち帰った虎龍が本物か見極めるだと?
 俺が偽物でも持ち帰ったとでも言いたいのか!
 ふざけやがってっ!
 
「ヴォルドン司令。それは部下に対してであっても失礼なのでは?」

 あの温厚なウォーレイク元帥が少し語気を強めている。
 どうやら怒っているのは俺だけじゃなさそうだ。
 よく見るとジェニングス中将は表情こそ変えていないが、両の拳がワナワナと震えている。
 ヴォルガング大尉は剣の柄に手がかかっているし、リンテール少尉は明らかに不機嫌そうな表情をしている。
 それとヴォルドン司令は気づかなかったようだけど、アンダーソン大佐も目が座っててヤバい。
 普段目立たない人が怒ると怖いんだよなぁ。
 何するかわからないから。

「何を言うかっ!? 昨今では士官や下士官の中で戦功の水増しや物資の横流しなど帝国軍人として看過できぬ問題が横行しておるのだぞ! それを調査するのはあたりまえのことではないかっ!」

「それについては問題ありません。報告書の内容は確認済みです。北方方面軍のリーカネン大佐のサインです」

「チッ! 寄越せ!」

 あっ! あの野郎! 
 ウォーレイク元帥が差し出そうとした報告書を、わざわざ奪いとるようにしやがって! 
 目下の俺達ならともかく、同格のウォーレイク元帥にあんな態度をとるなんて……本当に首を落としてやろうかな。

「……ふん! リーカネンか。レッドウッド辺境伯の腰巾着が随分と偉くなったものだな」

 あああっ! 
 今度は報告書を投げ捨てやがった!
 もう我慢できん!
 そのハゲ散らかした頭をツルピカにしてやる!

「ちょ……えっ?」

 文句を言おうと前に出ようとした俺の手を大尉と少尉が掴んで止めた。
 そして、俺の姿を隠すようにジェニングス中将が前に立つ。
 そうだった。
 この場で一番耐えているのは、ウォーレイク元帥閣下だ。
 なのに部下の俺が暴発したんじゃ、元帥の顔に泥を塗るも同然だ。
 ここは耐えるしか……。

「ん? なんだ? 小僧。女に守ってもらうとはママのおっぱいでも恋しくなったか? はっはっはっはー!」

 はい、切れましたよ。
 何かがプツンと切れました。
 もう無理です。
 この場で殺します。
 
「ヴォルドン司令。私の部下を侮辱なさるつもりですか?」

「黙れ! ウォーレイク! 平民の分際で偉そうに! 貴様のような下賤な輩が少しばかり手柄を立てたからと図に乗りおって! 分を弁えろ!」

 ぁあああああ!
 もう我慢できない! 
 中将、大尉、少尉も止めないでください……って、ヤバいやん。
 3人の方が先にキレてるよ。
 もう全身から殺気やらなんやらと負のオーラが漂ってる。
 これは止めた方がいいのか? って、なんで俺が止める側に回ってるんだよ!

「なんだ、小娘ども? 私に何かするつもりか? 構わんぞ。そうなれば小賢しい蠅を一網打尽に駆除できるからな」

「くっ……」

 中将が舌打ちしながら苦虫を噛み潰したような表情になってる。
 そうか、こいつはわざと俺達を怒らせて不祥事を起こさせようとしてるんだ。
 ……落ち着いてみれば元帥府の通り付近に軍人の気配がある。
 俺達が暴発したら速攻で現場を押さえる気なんだ!
 このハゲ野郎。
 どこまで陰険なんだよ!

「さぁ、どうした? 《帝国の女神》とやら。顔だけが自慢の看板軍人のくせに一丁前に中将とは、いい御身分だな?」

「ぬぅ……」

「おのれ!」

「中将を馬鹿にするなんてぇ!」

 ダメだ! 大尉、少尉!
 ここで奴に手を出したら元帥の立場が!

「その辺りで止めるんだな、ヴォルドン。これ以上は流石に聞くに耐えん」

 えっ? だ、誰だ?
しおりを挟む
感想 307

あなたにおすすめの小説

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

処理中です...