食うために軍人になりました【一人称版】

第二章

鬼才・ウォーレイク

　おいおい、軍隊司令長官ヴォルドンのアホが去ったと思ったら、今度は軍令部総長ヘルフォードか？
　どいつもこいつも俺が討伐した虎龍を自身の手柄として持ち帰ろうなんて、この国の軍上層部はどうなってんだよ。
　ウォーレイク閣下もさすがに怒って……。

「どうぞ。遠慮なく持ち帰ってください。ヘルフォード総長」

　おいっ！　
　そんな爽やかな笑顔であっさり譲らないでよ！
　
「案ずるな、少尉。ちゃんと査定した後に素材の金は払ってやる」

　へ？　総長が俺の方を見て言ったってことは、そんなに顔に感情が出てたのか？

「シュナイデン少尉。説明が後になって申し訳ありませんが、この場は私を信じてもらえませんか？」

「はぁ……閣下がそう仰るなら、依存はありません」

「ありがとうございます。それと先ほどヘルフォード総長が言われたように、素材の代金は私が責任を持ってお渡ししますからね」

　いや、金はいいんだけど。
　どうも権力で何とかしようって奴らが気に入らないだけなんだよなぁ。

「卿がシュナイデン少尉か。ウォーレイクの部下を辞める事があったら軍令部に来い。私の直属の部下にしてやる」

「ヘルフォード総長。それは酷いですよ。私としては彼を手放すつもりはありませんよ？　彼が自分の意思で離れるのなら仕方ありませんけどね」

　閣下……そんな寂しそうな顔しなくても、俺はウォーレイク閣下の部下を辞める気はありませんよ。

「相変わらずだな。少尉、気をつけた方がいい。こいつの術中に嵌るぞ？」

「はぁ、それはどういう意味ですか？」

「こいつは昔から戦術や戦略を練るのが得意だった。それこそ軍令部作戦参謀長にしたかったくらいにな」

　軍令部作戦参謀長っ！？
　それって軍令部総長の次に偉い人の事だろ？　
　さすがにすごいな、閣下は。

「現に私を今日、この時間に呼びつけたのもこいつの作戦だろうな。『虎龍の素材を優先的に渡す』と言って、呼びつけておいてヴォルドンの厄介払いを俺に押し付けたわけだ。つまり、こいつはヴォルドンが来ることも、いつ来るかもわかっていたというわけだ」

　マ、マジか？
　いや、さすがにそれは言い過ぎな気も……。

「ヴォルドン長官の蛮行を、偶然通りかかった公明正大なヘルフォード総長がお諌めされた。それだけの事ではありませんか？」

「いや、それに虎龍の引き取りもそうだ。軍令部に優先的に渡されても、解体しなくてはならないし、素材の代金は払わないといけない。体よくこのデカブツの処理を押しつけたと言えなくもないのではないか？」

「そこまで辛辣に言われるとショックですよ、総長。仮にこの虎龍が大商会に渡れば解体費用に付加価値まで付けられて値段は跳ね上がるでしょう。素材の買取金だけで素材を優先的に得られるのは良い事ではありませんか？」

「……その通りだ。だから腹が立つのだよ！　卿の手のひらで転がされているようでな！」
　
「買い被りし過ぎですよ、ヘルフォード軍令部総長殿」

　ウォーレイク閣下……貴方はその灰色の脳細胞とその笑顔で一体何人の犠牲を……いや、考えるのはよそう。
　なんか怖くなってきた。