食うために軍人になりました【一人称版】

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第二章

初めての権力

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 警備隊がヴィードとその場にいる冒険者達、それに達人のおっさんを拘束しようとしてる。
 対して冒険者側も拘束されまいと徹底抗戦の構えだ。
 多分達人のおっさんが途中で仲裁に入っていなかったら、とっくに乱闘騒ぎになってただろう。
 何でこんなにピリピリしてるのかわからないけど、引越し初日に近所で騒ぎは御免だ。

「ちょいちょい、それはやり過ぎじゃないか?」

「なんだ、お前は!? お前も拘束されたいのかっ!」

 いきなり喧嘩腰かよ。
 ちょっと頭冷やさせる必要があるな。

「上官に向かってお前とは、随分といい度胸しているな。少尉」

「うっ……か、官姓名は?」

「ウォーレイク元帥閣下直属のリクト・フォン・シュナイデン大尉だ」

「なっ!? し、失礼しました!」

 うわぁ……一瞬で全員が直立不動で敬礼したよ。
 まぁ、軍では階級差は絶対だからな。
 下手に逆らったら上官反抗罪で厳罰となる。
 左遷降格なんか当たり前で、上官によっては処刑まであるってんだから恐ろしい話だよ。

「少尉。この場は俺が預かっていいか?」

「はっ! し、しかし……最近の冒険者達の横暴ぶりには目に余るものがありまして……」

「先のやり取りを見る限りではお互い様だ。ろくに状況把握もせずに軍が力を行使すれば、冤罪を起こしかねない。現に俺にも気づかず、拘束するとまで言ったんだぞ? もし、お前達が俺に刃を向けていたなら俺は容赦なく斬り捨てていたところだ」
 
「ひっ……」

 ありゃ、ちょっと語気を強めたら怖がらせちゃったみたいだな。
 顔色が悪くなってる。
 流石にこのまま警備隊だけを責めるのは体面上マズいな。

「それとヴィードだったか?」

「な、なんだっ?」

「お前達はお前達でやり過ぎてる。通りすがりの俺にいきなり絡んできたんだからな。冒険者組合がこんな調子では組合はともかく、真面目にやってる冒険者達まで白い目で見られる事になる。組合員の評判を落とすような真似はよせ」

「へぇ、いい事言うじゃないの。この若い大尉さんは」
 
 達人のおっさんに感心されてしまった。
 でも、ヴィードは不満気な顔だな。

「も、元々は軍の奴等が権力を振りかざしているのが悪いんだっ! だから……」

「だから俺達も権力を振りかざした……か? 他人にされて嫌な事は他人にするなって知らないのか? とにかく、今回の件については俺が預かる。警備隊には事の顛末をまとめた報告書をあげる。冒険者組合には軍から正式に是正勧告書を送る。それでいいな?」

「はっ! 警備隊としてそれで異論ありません!」

 警備隊の小隊長は納得してくれたけど、ヴィードの方は納得できないのか顔を歪めている。
 やれやれ、折角丸く収めようとしてるのに困ったもんだよ。

「安心してくれ。大尉さん。俺からギルドマスターに報告しておくからよ。ヴィードの頑固は、このオフィリアンの顔に免じて許してやってくださいな」

 達人のおっさんが俺の前に立って、そう言いながら頭を下げた。
 相変わらず一部の隙もないな。

「わかった。では、くれぐれもギルドマスターによろしく言っておいてくれ。『貸し一つ』ってね」

「若いのに抜け目がないねぇ。でも、気に入ったよ、大尉さん。どうだい? 今夜にでも一杯行きませんか?」

 おっと、近所の人からの飲み会のお誘いがきたぞ。
 これは断れないね。
 
 
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