食うために軍人になりました【一人称版】

KBT

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第三章

殺気立つ

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 青白かった身体に血の気が戻ったのか、少し紅みがさしてきたように見える。
 全快ではないけど、少しは傷が治ったようだ。
 軍の支給品だったけど、この回復薬って意外と効くんだな。
 
「情け……かしら?」

 ルーストレームはゆっくり身体を起こしながらそう言った。
 殺せって言ってたし、プライド傷つけちゃったかな?
 
「怒った?」

「まさか。勝者のやる事に敗者は何も言えないわよ。それに生かされた私はどうなるか聞いてないし……帝国で生き恥を晒すか、それとも貴方の奴隷かしら?」

 そんな挑発するような視線を向けてきても乗らないよ。

「サラッと物騒な事言わないでよ。別にどうもしないよ。このまま大人しく帰ってくれればいいさ」

「っ!? ……どういうつもり?」

 めっちゃビックリした顔してんじゃん。
 そんなに驚かなくてもいいでしょ?

「私を見逃すってこと? それって重大な軍規違反じゃない?」

「俺は小隊壊滅の調査に来ただけだし、強敵と遭遇して交戦した結果、相手に深傷を負わせて撤退させた。戦果としては十分じゃない?」

「私を討ち取ればもっと凄い戦果になるのよ?」

「無理だね。この通り利き腕も武器もズタボロだ。これ以上の戦闘は無理だよ」

「その割には余裕ありそうだけど?」

「やせ我慢さ」

 顔には出さないけど、本当にめちゃくちゃ痛いんだよ。
 魔力過剰オーバーマジックのせいで全身傷だらけだし、右腕は絞った後の雑巾みたいになってるんだよ?
 骨も血管も神経も皮膚もぐちゃぐちゃだ。
 痛くないわけないじゃん。
 それに体力も魔力も空っぽでフラフラだよ。
 もう戦いたくないって。

「でも、それじゃ私の気が済まないわ」

「いやいや、勝者に従うんでしょ? 自分の出世のために人を殺すほどに落ちぶれてはないよ」

「私を生かした事で、貴方の大切な人がいずれ死ぬ事になるかもしれないわよ?」

「そんな可能性の話をしたらどっちかを皆殺しにするまで終わらないよ。それに……」

「それに?」

「貴女は戦場以外で人を殺めるような人には見えないよ」

 実際そう思う。
 戦いが好きな戦闘狂人バトルジャンキーではあるけど、人の道を外れた外道には見えない。
 少なくとも正々堂々が信条で、弱者いじめをするような屑にも見えないからね。

「ふふふっ……そこまで言われたらもう何も言えないわね。わかったわ、貸し1つ……いえ、貸し2つにしてあげるわ。それとコレもあげるわ」

 なんだ? 
 これってこの人の武器じゃん。
 かなりの業物だと思うけど、俺には使えないな。
 
「俺には使えないよ」

「戦利品よ。そのシミターは《永遠の揺り籠エターナルクレイドル》。私の愛用の武器の一つよ。それを見せれば戦功になるわ」

 おおおっ、これは有難い。
 なんか禍々しい形してるからどうしようかと思ってたけど、そういう事なら貰っておこう。

「じゃあ、こいつは……ん? お迎えみたいだね」

「そのようね」

 お互いの背後から複数の物音がしてくる。
 これは……1人や2人じゃないな。

「小隊長! ご無事ですかっ!? あ、あいつはっ!?」

「ルーストレーム様っ! 貴様ら! ルーストレーム様に何をしたっ!」

 ちょうど向かい合う形でほぼ同時に来たのはウチの小隊連中と……

「キリクか……特戦隊まで連れて何の用だ?」

 向こうもお仲間みたいだな。
 なんか急に殺気立ってきたなぁ。
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