食うために軍人になりました【一人称版】

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第三章

ロンドベルゲン

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 空が黄色く濁り、怪しげに揺らめく大地が流れていく。
 俺は異界へと迷い込んでしまったのか。
 それともこの世が何か別のものへと……

「旦那様」

 無慈悲な白い悪魔が俺に囁きかける。
 耳を傾けてはいけない。
 これは俺を地獄へと誘う魔性の……

「間の抜けた顔してないでしゃんとなさい。もうすぐ到着しますよ」

 白い悪魔が俺の間抜けな顔を戒め……
 間抜けな顔……間抜け……?

「誰が間抜けだ!」

「ここには私と旦那様以外いません。ですから必然的に旦那様の事になります」

 ぐぬぬ……
 だいたい誰のせいで間抜けになったと思ってるんだ!?
 祝勝会の後、詐欺同然に俺を馬車に乗せやがって、そのまま2日間走りっぱなし!
 おまけにその間、貴族やら領主の仕事やらの勉強を本当に寝る間もないくらい叩き込んできやがって!
 鬼っ! 
 きっとアンタには青い血が流れてるよっ!

「そんな恨みがましい眼はやめてください。ロンドベルゲンの屋敷に着いた後はゆっくり休んでくださって結構ですから」

「……本当か? 使用人とか代官とか街の代表達との顔合わせとかあるんじゃないのか?」

「疑り深いですなぁ。確かにそれも予定にはありますが、明日からとなっております。本日の予定ではございません」

「……嘘だったら泣くぞ?」

「面倒ですから泣かないでください」

「むぅ……でも仮にも領主の到着なんだぞ? 領民の出迎えとかないのか?」

「おや? そこに気づかれるとは指導の甲斐がありましたな」

「ふん! そいつはどうも! それで? そこのところはどうなんだよ?」

「馬車の到着は伝えてありますからおそらくは沿道には領民が集まっているでしょう。しかし、実際に代表に会うのは明日ですから本日は馬車から手を振る程度で構いませんよ」

 そんなもんなんだね。
 まぁ疲れてるし、それぐらいでいいならありがたい。
 しかし、領民としては新しい領主ってどうなんだろう?

「テラーズ。街の人達は新しい領主をどう思っているんだろうな」

「ロンドベルゲンは今でこそ帝国直轄血ですが、以前は領主がおられましたからな。そこまで抵抗はないでしょう」

「前の領主って、どんな人?」

「ロンドベルゲン男爵です。温和で優しい御仁でしたが後継に恵まれず、当人がなくなってから家名は断絶しております」

 断絶したのか。
 貴族って家を守る事を大事にしてるから結構辛い事なんじゃないだろうか。
 
「なら、俺がロンドベルゲンの領主となるにあたって俺の家名もロンドベルゲンになるのか?」

「ロンドベルゲンの門地を旦那様が継ぐのでしたらそうでしょう。しかし、旦那様は新しくシュナイデン家を興した新興貴族ですので街の名の方が変わる事になります」

「街の名前ってそんなに簡単に変わるのか?」

「変わるのです」

 そんなもんかね。
 おっ、馬車の速度が落ちてきた。
 着いたのかな?

「むっ……旦那様、どうやら一悶着ありそうですぞ」

「なに? なんだ、あれは?」

 窓から覗くと街の入り口の門が閉ざされており、その前に大勢の領民が座っているのが見える。
 歓迎されてる感じはしないな。
 
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