食うために軍人になりました【一人称版】

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第三章

領軍

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「街道整備と治水工事で費用がこんだけかかって……こっちは外壁の補修費用がこんだけかかるから……」

 書類とにらめっこを始めてから何時間が経っただろう。
 領地経営ってこんなに大変なのか?
 領主ってのんびり暮らしてるっね思ったら大間違い!
 やる事あり過ぎだろ!
 だいたい領民の結婚の承認って言われても、断る理由が思いつかねぇよ!
 せいぜい幸せになってください!
 ……って、ぁああああああ! 
 この書類、計算間違えてるじゃねえか!
 誰だ、この予算案作った奴は!?

「旦那様。領民達からの陳情書をお持ちしましたので、御目通しを」

「陳情書? 今、計算の途中で……」

「旦那様。領民は領地の礎です。蔑ろにすればロンドベルゲンの、引いてはヴァランタイン帝国の崩壊に……」

 それはわかってるけど、タイミングって物が……
 ああ! もう!

「わかったよ! 貸して! なになに……小型の魔物が現れて農地を荒らしてるだと? おいおい、これは由々しき事態じゃないか。領軍に警備を徹底させないといけないぞ」

「領軍の編成がまだ終わっておりませんよ」

「領軍の編成? どういう事だ?」

「ここロンドベルゲンは今まで帝国直轄地で帝都から派遣された部隊が交代で警備を行っていました。ですが、旦那様の領地となった以上は旦那様が兵を集める必要があるのです」

「……マジ?」

「マジです。本来であれば領地を下賜されたら領民から集めねばならないのですから、どちらかと言えばマシな方ですよ」

 うーん、参ったなぁ。
 まさか領軍を自分で作らないといけないとは思わなかった。
 帝都の部隊もすぐに撤退するとは思えないけど、俺は3日後には帝都に帰らないといけない。
 でも、どうやって兵を集めれば……

「大丈夫です。領兵の募集も行っておりますから」

「えっ!? い、いつの間に……」

「当然、帝都を出る前にです。流石に全てお任せしたのでは可哀想ですから。私は優しいですからね」

「あっ……そう……」

 優しいんなら他の業務も手伝って欲しいんだけどね。

「おや? そろそろ昼食の時間ですね。ふむ、今日中にやらないといけない書類は終わったようですし、午前の業務はこれぐらいにしておきましょう」

「はっ? お、終わった? でもまだ書類残ってるぞ?」

「この書類全部を今日中にするつもりだったんですか? そんなテキトーな仕事は困ります。これは3日間分の仕事ですから、1日で終わらせようと処理することだけに囚われず、ちゃんと吟味して仕事をしてくださいませ」

「ちゃ、ちゃんとやってるよ!」

「はい。それは確認しております。ですのでこれからもその調子でお願い致します。では、私は昼食の準備がありますので」

 テラーズは優雅な礼をしてから執務室を出て行った。
 
「はぁ……なんか何もかもがテラーズの思惑通りのような気がするなぁ。一度くらい出し抜いてやりたいんだけど……やめとこ。こういう場合、大抵はこっちが痛い目を見る羽目になるからな。まぁ、昼飯までもう少し仕事進めるか。明日からの仕事が減るからな」

 俺は再び机の書類との戦いを始めた。
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