食うために軍人になりました【一人称版】

KBT

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第四章

夜の報告

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 小型魔導通信を起動させると、独特の音が部屋に小さく響く。
 普段なら気にならないのだが、周囲が静寂であればあるほど目立ってしまう。
 これさえなければ潜入時の情報伝達にも使えるのだが、何とかならないものか。
 
「……聴こえるか?」

 通信が繋がり、相手の声が聞こえてくる。
 どうやら問題なく繋がったようだ。

「はい。問題なく聴こえております。陛下」

「よし。では、報告を聞こう」

 せっかちな事だ。
 とは言え、私とてグダグダと世間話をされても困る。
 明日からの仕事は大掛かりなものになるだろうから。

「シュナイデン卿の領主としての才は今のところ凡庸なものです。取り立てて優れているわけでもなく、劣っているわけでもありません」

「そうか……彼奴の事だ。何かしでかすかと期待したのだがな」

 それは欲張りというものだ。
 あの若さであの武勇があれば十分に才があると言っていいだろう。
 その上で、領主の仕事を過不足なく行えるのであれば寧ろ優秀な方だ。
 陛下は自身を基本として能力を計るのが悪い癖だな。
 他の者が非才なのではない。
 陛下が天才なのだ。

「ロンドベルゲンの領軍は問題ないか? 軍部には忖度なく配属させよとは命じておいたが」

「問題ございません。当初の予定より少し多いくらいです」

「ならば良い。しかし、今は街一つ故に問題はないが、今後は領地の拡大して行くのだ。常に兵は揃えておけ」

 領地の拡大。
 となると、やはり陛下は旦那様を南方の守りに当てるつもりか。
 南方方面軍のミュラー辺境伯は文官としては優れているが、軍の統率という点では不安が大きい。
 現在はローゼンハイム上級大将が代理で方面軍を指揮しているが、そうなると今後も彼を南方から動かせなくなってしまう。
 陛下はいずれは旦那様を辺境伯にまで押し上げるつもりか?
 平民から辺境伯となれば帝国始まって以来の快挙となる。
 あのウォーレイクですら伯爵止まりなのだから。

「そういえば支度金はどうなった? まさか、全て他の貴族への貢物になどなっておるまいな?」

「それはありません。全て街のために使うようにとの御命令でした」

「なに? 全てだと? それは本当か?」

 陛下が初めて軽く動揺を見せた。
 余程予想外だったのだろう。
 私とて最初に聞いた時は耳を疑ったのだからな。

「本当でございます。シュナイデン卿は白金貨500枚の支度金は全て街のために使うようにせよと命じられました」

「……俄かに信じられん事だな。多少は自分のために使うかと思ったが、そこまで領民を思いやるとは。よかろう、その心意気は気に入った。私から特別に何かくれてやろう」

 やれやれ、何かくれてやろうとは少々過分ではないか。
 陛下の指示でこの屋敷を整える際に調度品も一掃し、全ての物が一級品となっているのだ。
 その上でまだ下賜されるとはな。

「ありがとうございます。主も喜ばれる事でしょう」

「うむ。期待しておれ。ではな」

 魔導通信が切られ、残ったのは独特の音だけとなった。
 
「期待しておれ……か。期待しているのは貴女でしょう、陛下」

 そう思いながら魔導通信を停止させると、辺りは再び静寂に包まれた。
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