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第四章
子爵邸にて
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「予想通り……とはいかなったな」
「…………」
私の言葉が耳に入っていないのか、子爵は一点を見つめたまま俯いている。
私とて大事な娘の将来がかかっているのだから気持ちはわかる。
だが、何も語らないではそれこそ先などないではないか。
「リンテール子爵、いや、ウルリッヒ。もういい加減に顔をあげろ。このままでは時間の無駄だ」
「……ギルベルト。2人がかりなら勝てると思うか?」
絞り出すような声だ。
僅かな希望に縋るような本当にか細い声、普段のこいつからは考えられない声だ。
「弱々しい声で無理難題を振ってくるな。それにわかっているだろう。あの者の強さは我らより上だ。善戦は出来ようが、勝利はあるまい」
「そうだろうな」
また俯いて、ため息を吐くウルリッヒ。
だが、無理もないか。
子煩悩なこいつの事だ。
まさか娘を2人とも差し出さねばならないとは、思いもよらなかったのだろう。
それは私とて同じだ。
長男であるカインが我が家督を継いでくれるとはいえ、娘2人の将来がどうでもいいわけではない。
アリシアもイリアもヴォルガング流剣術を学び、日々の鍛錬を怠る事なく邁進し、今やどこに出しても恥ずかしくない剣の使い手になった。
家宝の剣をそれぞれに譲った事も後悔などない。
自慢の娘だったからだ。
イリアが決闘を申し出た時は諌めたが、僅かに勝てる見込みがあるとも思っていた。
ましてや、ウルリッヒのところのクリスティーヌと共闘なれば少なくとも五分の勝負ができると。
だが、結果はなんとも呆気ないものだった。
開始直後に男爵が一閃して、それで勝負は終わり。
剣を交える事も魔法を放つ事も出来ないまま、2人は地に伏した。
あの魔剣の力が解放されていれば、古代魔法が放たれていれば……我ながら未練がましい事だが、そればかり考えてしまう。
勝負の世界は一度きり、もしもなど通用しないのにな。
「ウルリッヒよ、あの者はウォーレイク元帥が認めた者だ。よもや無体な真似はすまい。ここは潔く結果を受け入れよう」
「しかし……」
「ここで我らが取り乱せば、それこそ娘の覚悟も名誉も汚すことになる」
「うっ……」
やれやれ、ウルリッヒは普段は気の良い男なんだが、娘の事となると狭量になるところがある。
だが正式な決闘であった以上、我々が口を挟むわけにもいかん。
だから、娘のことはもう……
「父上っ!」
「お父様っ!」
勢いよく開けられた扉から入ってきたのはイリアとクリスティーヌだった。
2人とも顔を紅潮させ、鼻息を荒くしている。
まさか、もう奴に何かされたのか?
いや、だからと言って奴を責めるわけにもいくまい。
そういう条件で決闘を挑んだのは此方なのだから。
「イリアよ。奴に何をされたか知らぬが、ここに戻ってきても私の助力は得られないぞ」
「そんな事はわかっています! 私も名誉ある帝国貴族! 勝負に負けた以上、どんな辱めにも耐える覚悟でした! ですが、あの男は……あの男はっ!」
怒りを露わにしてわなわなと震えている。
あの男は何をしたというのか?
「一体、何を……」
「あの男は私達2人に『必要ないから帰れ』と言ったんです!」
私は言葉を失った。
そして耐え忍んできた怒りが一気に頂点へと達した。
シュナイデン卿許すまじ!
「…………」
私の言葉が耳に入っていないのか、子爵は一点を見つめたまま俯いている。
私とて大事な娘の将来がかかっているのだから気持ちはわかる。
だが、何も語らないではそれこそ先などないではないか。
「リンテール子爵、いや、ウルリッヒ。もういい加減に顔をあげろ。このままでは時間の無駄だ」
「……ギルベルト。2人がかりなら勝てると思うか?」
絞り出すような声だ。
僅かな希望に縋るような本当にか細い声、普段のこいつからは考えられない声だ。
「弱々しい声で無理難題を振ってくるな。それにわかっているだろう。あの者の強さは我らより上だ。善戦は出来ようが、勝利はあるまい」
「そうだろうな」
また俯いて、ため息を吐くウルリッヒ。
だが、無理もないか。
子煩悩なこいつの事だ。
まさか娘を2人とも差し出さねばならないとは、思いもよらなかったのだろう。
それは私とて同じだ。
長男であるカインが我が家督を継いでくれるとはいえ、娘2人の将来がどうでもいいわけではない。
アリシアもイリアもヴォルガング流剣術を学び、日々の鍛錬を怠る事なく邁進し、今やどこに出しても恥ずかしくない剣の使い手になった。
家宝の剣をそれぞれに譲った事も後悔などない。
自慢の娘だったからだ。
イリアが決闘を申し出た時は諌めたが、僅かに勝てる見込みがあるとも思っていた。
ましてや、ウルリッヒのところのクリスティーヌと共闘なれば少なくとも五分の勝負ができると。
だが、結果はなんとも呆気ないものだった。
開始直後に男爵が一閃して、それで勝負は終わり。
剣を交える事も魔法を放つ事も出来ないまま、2人は地に伏した。
あの魔剣の力が解放されていれば、古代魔法が放たれていれば……我ながら未練がましい事だが、そればかり考えてしまう。
勝負の世界は一度きり、もしもなど通用しないのにな。
「ウルリッヒよ、あの者はウォーレイク元帥が認めた者だ。よもや無体な真似はすまい。ここは潔く結果を受け入れよう」
「しかし……」
「ここで我らが取り乱せば、それこそ娘の覚悟も名誉も汚すことになる」
「うっ……」
やれやれ、ウルリッヒは普段は気の良い男なんだが、娘の事となると狭量になるところがある。
だが正式な決闘であった以上、我々が口を挟むわけにもいかん。
だから、娘のことはもう……
「父上っ!」
「お父様っ!」
勢いよく開けられた扉から入ってきたのはイリアとクリスティーヌだった。
2人とも顔を紅潮させ、鼻息を荒くしている。
まさか、もう奴に何かされたのか?
いや、だからと言って奴を責めるわけにもいくまい。
そういう条件で決闘を挑んだのは此方なのだから。
「イリアよ。奴に何をされたか知らぬが、ここに戻ってきても私の助力は得られないぞ」
「そんな事はわかっています! 私も名誉ある帝国貴族! 勝負に負けた以上、どんな辱めにも耐える覚悟でした! ですが、あの男は……あの男はっ!」
怒りを露わにしてわなわなと震えている。
あの男は何をしたというのか?
「一体、何を……」
「あの男は私達2人に『必要ないから帰れ』と言ったんです!」
私は言葉を失った。
そして耐え忍んできた怒りが一気に頂点へと達した。
シュナイデン卿許すまじ!
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