食うために軍人になりました【一人称版】

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第四章

ウィルバルト・フォン・ローゼンハイム

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 南方方面軍に配属になった私とイリア、それにファンティーヌとその姉のクリスティーヌは、司令官代理であるローゼンハイム閣下に着任の挨拶に伺う事にした。
 本来であれば南部を治めるミュラー辺境伯に先に挨拶すべきだが、視察に出ておられて不在だったので致し方ない。
 しかし、南部はさすがに帝都とは違うな。
 南方方面軍司令部でもあるリングダル大要塞。
 堅牢な造りと要塞自体に魔法による強化まで施されている事が、この地での戦いの厳しさを物語っている。
 リクトと離れるのは辛かったが、帝都では生ぬるい任務ばかりさせられるのにも飽き飽きしていた所だ。
 ちょうどいい。
 ここで私自身を鍛え直し、リクトに惚れ直させてやる。
 ふふふっ。

「お姉様。何をニヤニヤしておられるのですか?」

「なっ!? ニ、ニヤニヤなどしていない! ただ、勇猛果敢で知られるあのローゼンハイム閣下に御指導いただけるのに心躍らせていただけだ!」

「ならいいんですけど……またあの御方の事でも考えて、あらぬ妄想でも抱いていたのかと」

 うっ……我が妹ながらなんと鋭い……
 だが! 決してやましい妄想などしておらん!
 私は健全な妄想しかしない!

「まあまあぁ。アリシア少佐の言うとおりぃ、ローゼンハイム閣下に御指導いただけるなんて滅多にない機会なのは間違いないよねぇ」

「そうねぇ。あの御仁は武力だけでなく魔法にも精通されていると聞きますからぁ。私達にとっても成長のチャンスですわぁ」

 そうだ。
 ローゼンハイム閣下は魔武両道。
 剣も魔法も超一流と言われた戦闘の天才。
 父上以外で師にするならこの方しかいないと思っていたほどの方だ。

「でもぉ、前回の四勲章競合戦の決勝で負けちゃった時はショックだったなぁ」

「それは……組み合わせが最悪でしたからね」

 確かに閣下の前回大会の組み合わせは悪かった。
 一回戦がバランディン様、準決勝はテーニセン様、決勝でオリオール様とあたった。
 優勝候補3人と当たるなんて組み合わせが悪かったとしか言いようがないが、それは言い訳にしかならないのも事実だ。

「組み合わせは陛下が公平にくじでお決めになった事だ。運も実力のうちと言うし、致し方ないだろう。それにオリオール様も準決勝でコクトー様と戦ったんだ。十分に優勝に足ると言える。さぁ、無駄話はここまでだ。着いたぞ」

 大要塞の最奥、警備兵が守る重厚な造りの一室が南部方面軍司令長官室だ。
 ここにローゼンハイム閣下がおられる。
 鼓動が自然と早まるのを感じるな。
 だが、気圧されて醜態を晒すわけにはいかない。
 気合を入れないとな。

「よし、行くぞ」

 3人が無言で頷くのを見てから、私は警備兵に声をかけた。

「本日よりこちらに配属になったアリシア・フォン・ヴォルガング少佐以下3名だ。着任の挨拶のため閣下に御目通り願いたい」

「ご苦労様です。どうぞ、お通りください」

 警備兵がノックしてから扉を開けた。
 返事を待たなくて良いのかと思ったが、ここの決まりかもしれんし、私が言うことではないな。
 
「失礼します。我々は……」
 
「儂が帝国軍上級大将!ウィルバルト・フォン・ローゼンハイムである!」

 想像以上に気迫のこもった声が室内どころか、要塞中に響き渡った。
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