食うために軍人になりました【一人称版】

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第四章

覚悟

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 無様に腰を抜かした私達にローゼンハイム閣下は哀れみの目を向けていた。

「お前達が女子供だから相応しくないと言っている訳ではない。この程度の気合で腰を抜かすような正に『腰抜け』は南方方面軍にはいらんと言っておるのだ」

「くっ! で、ですが、これは……」

「『不意を突かれた』か?」

「うっ……」

 イリアは口を閉ざした。
 恥を雪ぎたかったのはわかるが、それは言い訳にはならない。

「ふん! たわけが! 此処は戦場である! 気を抜く暇など一切ないわ! 儂が育てた者の中には平素でも常に武具を纏い、《常在戦場》を旨とした者もおったぞ!」

 そんな者はいないと思うが、そういう心構えを常に持っていろという意味だろうか。
 しかし、閣下のおっしゃられる通りだ。

「そもそもお前達は浮ついておる! 此処では命を賭けた戦いが日夜繰り広げられているのだぞ! そのような浮ついた心では協調を欠くだけで、お前達自身にも周りにとっても良い結果にはならん!」

 浮ついた心……
 そうかもしれないな。
 最近の私は何処にいても何をしていてもリクトの事ばかり考えている。
 リクトの言葉に一喜一憂して、希望が広がったり絶望に沈んだりの繰り返し。
 こんな気持ちで戦場に立てば、私自身はともかく仲間の命まで危険に晒してしまう。
 私はそんな愚かな事にも気づいていなかったのか……浮かれていたな。
 情けないことだ。
 しばらくリクトの事は忘れよう。
 その方がいい。
 チラッと見たが3人もさっきまでとは、まったく違う目つきになっている。
 同じ気持ちか。
 ならば、私も覚悟を決めよう。
 
「閣下、申し訳ありませんでした。このアリシア・フォン・ヴォルガング、目が覚めた思いです。これからは……」

「どうした?」

「い、いえ! これからは、こ、心を……心を入れ……替えて……」

 なんだ? 
 急に言葉が出てこなくなってきた。
 それに頬を伝うのは、雨か? 
 いや、ここは室内だ。
 雨など降るはずが……

「何故、泣いておるのか?」

「えっ?」

 閣下に言われて初めて自分が泣いている事に気づいた。
 私が涙……?

「うっ……うぅ……」

「くっ、くっ……ひっく……」

 涙を啜る音が聞こえる。
 見れば他のイリアとクリスティーヌも泣いている。
 ファンティーヌも必死に耐えてはいるが、堪えきれない涙は止め処なく流れている。
 いったいコレは何なのだ?
 せっかく覚悟を決めてリクトの事を忘れようと……

「この愚か者どもがぁあああああ!」

「っ!?」

 閣下の怒声が要塞を揺らした。
 身体の芯まで揺さぶられるほどの……なんというか、声で全身を殴られたような気分だ。

「なんという惰弱かっ! お前達の浮ついた心は恋慕であろう! なんと情けない事か!」

「も、申し訳ありません! 軍人ともあろう者が恋慕で涙するなど……すぐに心を入れ替えて……」

「バカタレがぁあああああ!」

 また声で殴られた。
 でも、何故だろう? 
 恐怖は感じない、むしろ温かいような……

「恋慕無くして愛などあるか! 人を愛し、愛され、慈しみ、守りたいと思う気持ち! それが最後まで己を支える力となるのだ! その愛を捨てるなどと言語道断! 誇り高き帝国軍人ならば軍務と恋慕くらい両立してみせい! それができん奴は帰れ!」

「か、閣下っ!?」

「ローゼンハイム様……」

 なんと……なんという御方だ!
 そうだ、誇り高き帝国軍人である私に両立できない事などない!
 栄達も恋慕も全て手に入れてみせるわ!

「閣下! 不肖アリシア・フォン・ヴォルガング、欲しいものは全て手に入れて、手に入れたもの全て守り通してみせます!」

「わ、私もっ!」

「私もですぅ!」

「絶対に譲りませぇん!」

 他の3人も同じ気持ちのようだ。
 おまけに何か吹っ切れたようで、さっきまでモヤモヤしていた雰囲気がなくなって活気に満ち溢れている!
 閣下はコレを見抜いておられたのか!?

「その意気や、よし! 儂が全員まとめて鍛え抜いてくれるわぁああ!」

「おぉおおおおおおおおおおおお!」

 閣下の覇気に引っ張られて自然と雄叫びを上げてしまったが、悪くない気分だ。
 待ってろ、リクト!
 私はお前より強くなって、守ってやるからな! 一生なっ!
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