食うために軍人になりました【一人称版】

第五章

2年後

　あー、今日も朝が来てしまった。
　正直ダルい。
　昨日も寝たのは明け方近くになってからだってのに、もう起きないといけないのか。
　貴族ってもっとのんびり生活してるもんだと思ってたけど、そうでもなようだ。
　個人差はあるんだろうけどね。
　あっ……はぁ、今日も時間通りだな。

「おはようございます、旦那様」

　音もなく部屋に入ってきた白髪の執事が朝の挨拶をした。
　以前までは気配に気づけなかったけど、最近では大体はわかるようになってきた。
　2年もあれば慣れるもんだね。

「おはよう、テラーズ」

「今日も良い天気でございますよ、旦那様。お着替えをなさった後、テラスにお越しください。本日の朝食はそちらで」

「いい趣向だ。たまには良い。直ぐに行く」

「お待ちしております。テレシア、旦那様のお着替えを」

「はい」

　テラーズの傍からメイドがスッと現れて、俺に会釈した。
　そうか。
　もう交代の時期だったか。

「今月はテレシアが担当か。ロンドベルゲンからわざわざすまないが、よろしくな」

「いえ、こちらこそよろしくお願い致します。旦那様」

　俺は高等士官学校在校中は帝都の仮屋敷で過ごしているんだが、俺を世話する人が必要なので、3ヶ月交代で領地であるロンドベルゲンの屋敷からメイドを呼んでいる。
　昨日まではクラリスってテレシアの妹がいたんだけど、双子だからそんなに変わった感じもしない。
　しかし、テレシアに変わったという事には大きな意味がある。

「今日で高等士官学校も終わりか」

「左様でございます。ご卒業おめでとうございます」

　テレシアが着替えを手伝いながら、お祝いしてくれる。
　美少女の笑顔をなによりのご褒美だな。

「まだ卒業出来ると決まったわけじゃないけどな。全ては今日決まるんだ」

「申し訳ありません。旦那様がご卒業できない理由が私にはわかりません」

「そうか。言われればそうかもしれないな。ありがとう、テレシア」

「い、いえ……あ、ありがとうございます」

　テレシアは顔を真っ赤にして俯いてしまった。
　何故かはわからないけど先月のクラリスも、その前に来てたソフィアも時々こうやって顔を真っ赤にして俯いていた。
　なんか決まりでもあるんだろうか？

「顔が赤いけど大丈夫なのか？　ロンドベルゲンから長旅で疲れてるんじゃないか？」

　着替えが終わってから、ソッとテレシアの額に手を当ててみる。
　ん……ちょっと熱いか？

「だ、だ、だ、旦那様……あ、あの……」

「ちょっと熱いぞ。テレシア、無理は良くないから少し休みなさい。なんなら俺のベットで寝ていってもいいぞ」

　冗談で自分のベットを薦めてみた。
　まぁ、実際に寝ていっても構わないけどね。
　俺は夜までは戻ってこないし、メイドのベットよりは質が良いはずだからね。

「だ、だ、だ、旦那様のべ、ベット……あ、あ、あの……」

　テレシアはさらに顔を真っ赤にして、
もう頭から湯気が出そうな勢いだ。
　他人のベットに寝るなんて嫌だろうけど、主人の命令だから断れなくて困ってるようだ。
　ちょっとからかいが過ぎた。

「はははっ、冗談だよ。でも、無理しないようにな」

「お、お戯れを……」

　テレシアがモジモジしながら抗議の声を上げる。
　うーん、からかい過ぎるのはよくないようだ。
　以後、気をつけよう。