食うために軍人になりました【一人称版】

KBT

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第五章

襲撃

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 …………久しぶりの嫌な目覚めね。
 この頭の中から叩き起こされるような感覚には相変わらず不愉快な気分しか感じない。
 ここ2年は充実した毎日、清々しい目覚めばかりだったと言うのに忌々しいこと。

「夜更け……まぁ、順当なところね。面白味はないけど」

「失礼します。フルーネフェルト隊長」

 音もなく部屋に入ってきたクラリス。
 いつものメイド服を着ていないのは彼女の勘が鈍っていない証拠。
 でも別の問題があるわね。

「クラリス、私の事はメイド長と呼んでほしい。些細な事だけど私には大切な事なの」

「し、失礼しました! メイド長様」

 ちょっと萎縮させちゃったかしら。
 不愉快な目覚めで苛立ってたのかもしれない。
 ごめんなさいね、クラリス。
 でも、今は大事なことを優先しましょ。

「状況は?」

「はい。正体不明の一団がロンドベルゲン近くの森に潜伏しています。偵察に出たサヴィーノからの報告では数は48人。いずれも野盗に扮していますが、組織的な動きから軍人くずれの可能性が高いとの事です」

 軍人くずれ……ね。
 素行不良で軍を追われた者達か。
 しかし、そんな奴らがまともな装備を持っているとは思えない。
 彼らは軍の規律を軽んじ、己が欲望のままに生きているんだから。
 という事は、誰かに飼われてる可能性が高いわね。

「クラリス。フェルナン少尉とロースター曹長に連絡して。迎撃準備を整えても、敵対行動に出るまでは手を出さない方がいいと」

「その事ですが、ロースター曹長殿より伝言が。『敵はすぐに動くとは思えないため、こちらから手を出す事は得策でない。戦闘配置後に静観する』と」

 優秀ね。
 戦闘能力は並みだけど、斥候を務めていただけあって情報収集や戦況を読む事には長けている。
 さすがは旦那様の選んだ人、素晴らしいわ。

「曹長にしておくのは勿体ない器ね。クラリス、我々も遅れはとれないわよ。総員起こし、屋敷を守護します」

「全員、戦闘配備は整っています。御命令とあれば森へ奇襲をかける事も可能です」

「準備が早いのは良い事だけど、先手は駄目。今回の件はおそらく裏で上級貴族が噛んでる。下手にこちらから手を出して、旦那様の御迷惑になったら大変よ」

「申し訳ありません。自分の浅慮を恥じています」

「わかればいいのよ。貴女はまだ若いもの、血の気も滾るでしょうしね。でも、大丈夫。奴らは絶対に攻めてくる。その時は思う存分暴れていいから」

「メイド長が暴れたら私達の出番はありません」

 あら、生意気言うようになったわね。
 せっかく身につけた口調が飛びかけたじゃない。
 でも、いいわ。
 戦いになれば本来の私に戻ればいいんだしね。

「『常在戦場』我が家訓に従い、シュナイデン男爵の敵を全て潰すぞ」

「了解……やっぱりメイド長はそうでないと駄目ですね。さっきまで身体がムズムズしてましたよ」

 ……本当に生意気になったな、クラリス。
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