食うために軍人になりました【一人称版】

第五章

本番の試験

　左側頭部にソフィアさんの右曲拳フックが炸裂し、ヘリッコの身体が大きく右に傾いた。
　空いた顎にダメ押しの左昇拳アッパーが入ってヘリッコは身体を仰け反らせ、宙を舞ってから倒れた。
　あのぐらんとなった頭から見て、どうやら首の骨は完全に折れているようだ。
　
「ほら、次ぃいい！」

　ソフィアさんが次の標的のしたは……イポリトか。
　この中ではまだマシな方だけど、レベルが違い過ぎる。
　ほら、右回し蹴りから左後回し蹴りで首が180度以上回っちゃった。
　蹴り2発で終わりじゃあ試験にならないよ。
　
「おらおらおら！　かかってこいよ！」

　あーあ、ソフィアさんもハイになっちゃってるよ。
　アブデュルガゼム流は一応暗殺拳なのに、あんな堂々と戦っちゃって……
　あっ、最後の雑魚もあっさり倒れた。
　ここまで全く良いところ無しだよ。
　
「よーし、これで残りはアンタだけだね。フェデリーゴ副長さん？」

「くっ！　き、貴様っ！」

　ソフィアさんのやっすい挑発にフェデリーゴは怒りを露わにしている。
　けど、全然迫力ないね。
　だって縛られて床に転がされてるんじゃ、威厳も何もまったく感じられないよ。

「くそ！　まさか魔法使いを隠していたとは……不覚！」

「はぁ？　何言ってんの？　ここには私とコニーしかいないよ？」

「とぼけるな！　だったら、この《魔法縄マジックロープ》はなんだ！？　俺を拘束して仲間の死に様を見せつける外道め！」

　フェデリーゴは魔法の縄で縛られて芋虫みたいな状態のままジタバタしている。
　部下か仲間か知らないけど、自分が何もできない状態のまま目の前で殺されたんじゃ恨みたくなる気持ちもわからないでもないか。
　でも、戦いに卑怯も外道もないと思う。
　ましてや賊に堕ちた人達にそんな事言われる筋合いもないよ。

「フェデリーゴ副長。勘違いするのもわかるけど、僕達にそんな趣味はないよ。その《魔法縄マジックロープ》だって、そこにいるソフィアさんの魔法です」

　近づいて説明した僕をフェデリーゴ副長はキッと睨んでくる。

「小僧、ふざけた事を言うな！　魔法は才能だけで使えるような生易しいものではない！　才能と日々の研鑽があって初めて使えるようになる事くらい、子どもでも知っているだろ！？　このメイドは俺の部下を素手で5人も殺したんだぞ！　しかも圧倒的な実力でな！　そんな武術の達人が魔法使いなわけがない！」

　そう怒鳴らなくても聞こえてるよ。
　それにしても、わざわざ説明してあげたのにわからない人だな。
　まぁ、いいさ。
　別にわかって欲しいわけでもないし、今から始まる本当の試験を味わえば嫌でもわかるだろう。

「もういいや。ソフィアさん。今からが本番ですよ」

「わかってるよ！　さっき外道と言った罰だ。味わった事のない痛みであの世に送ってやる！」

　魔力を高めたソフィアさんの拳に炎が揺らめき始める。
　さぁ、どうなるかな？