296 / 480
第五章
試験
しおりを挟む
声が聞こえてすぐに入り口前に全員が集まり、武器を構えて周囲を警戒しつつ、入り口の扉を確保した。
こんな場合は声がする方に目が行きがちだが、陽動も考えて全方向を警戒し、退路を迅速に確保する必要がある。
事前に不測の事態が起こった時の対応を教えておいて良かった。
「副長、階段上に2人」
隊員の言葉に視線を上げると、階段上に2人の男女が立っていた。
1人は小柄な少年、もう1人はメイドだった。
「副長、使用人だ。排除するぞ」
「おい! メイドは捕まえて楽しんでからだろ」
「気を抜くな! 奴等はただの使用人じゃない!」
気を抜いた2人の発言に思わず、潜入作戦だと言うのに声を荒げてしまった。
いや、今はそれどころじゃない。
全員でかかるべきか、撤退すべきかの判断をせねばならない。
「ふんっ! 副長とかってのはマトモみたいだね。誰?」
「フェデリーゴ・タムード。元南方方面軍の軍曹です。除名理由は軍規違反となってて詳細は不明です」
こいつ、俺の事を知っているのか?
南方の時に一緒だったか?
いや、それはない。
俺が軍を抜けたのは10年以上前だ。
こいつと同じ時期にいたとは思えない。
「ふーん、じゃあ他は?」
「ヘリッコ……ダーン……メンテナン……他は上等兵止まりで、それに大した戦歴も何もありません」
「なんだとっ! このクソガキ、舐めやがって!」
「バッ……やめろ!」
奴等の一番近くにいたダーンが階段に向かって走り出した。
完全に頭に血が昇っていて、俺の声が聞こえていない!
「死ねぇえええ!」
階段を駆け上がったダーンはその勢いのまま少年に向かって剣を振り下ろした……ように見えたが、次の瞬間後ろ向きに大きく飛び退いた。
なんだ? 急に冷静になって退いたのか?
フワッと身体を浮かせたまま、ダーンは階段の手前に降りた。
「おい、ダー……」
ドサッ!
呼び声に返答する事なく、ダーンは床に足が着くや否や後頭部を床にぶつけるようにして仰向けに倒れた。
なんだ? 一体、何がどうした!?
「ちょっと、コニー!」
「ああっ! す、すいません! つい……」
「もう! 『つい……』じゃないよ! しっかりしてよ!」
階段上の2人が何やら言い合いをしている。
今だ! この隙に負傷したであろうダーンを回収して撤退しよう!
「メンテナン! ダーンを!」
「お、おう!」
一番体格のいいメンテナンにダーンを回収させ、このまま後退する!
奴等はまだ何か言い合っているし、今なら逃げれる!
「メンテナン、急げ!」
「ふ、副長……駄目だ……」
ダーンに駆け寄ったメンテナンがすぐに諦めの言葉を口にした。
チッ!
相変わらず図体に似合わず小心者め!
こんな時まで弱腰になるとはっ!
「もういい! ダーンは俺が連れて行く! お前は他の奴らと一緒に……」
放心するメンテナンを退けて、ダーンを抱えようとして、俺は言葉を失った。
ダーンが着ている胸部鎧の胸の部分が大きく陥没していた。
深さを大人の拳一個分は優にある。
なんだ? なんなんだ、これは!?
「もう! 今日は私の試験だから全員私がやってて言ったじゃないか!?」
「す、すいません……じゃ、じゃあ残りの6人で判断しますから……」
「ほんっっとに、もう! ちゃんと採点してよね!? じゃあ、いい?」
「あっ、はい。ああ、そうだ。フェデリーゴ元軍曹! 隊列が乱れてますよ? ちゃんとしてください。試験にならないですから」
「し、試験?」
言い合いの最中に急に名前を呼ばれて戸惑い、普通に聞き直してしまった。
試験? 試験とはなんだ?
「はい。では、ソフィアさん。この2年の間に僕が教えたアブデュルガゼム流の試験を始めます。頑張ってください」
「しょうがねぇな。6人で我慢してやんよ!」
メイドがメイド服を勢いよく脱ぐと、その下から身体にフィットとした黒いボディスーツを来た全身真っ黒な女の姿が表れた。
あの姿は……まさかっ!?
「総員、てった……!」
「では、撲殺試験の開始です」
少年の声の後、黒いメイドの姿が消えて俺の耳には重く低く鈍い音と悲鳴だけが聞こえてきた。
こんな場合は声がする方に目が行きがちだが、陽動も考えて全方向を警戒し、退路を迅速に確保する必要がある。
事前に不測の事態が起こった時の対応を教えておいて良かった。
「副長、階段上に2人」
隊員の言葉に視線を上げると、階段上に2人の男女が立っていた。
1人は小柄な少年、もう1人はメイドだった。
「副長、使用人だ。排除するぞ」
「おい! メイドは捕まえて楽しんでからだろ」
「気を抜くな! 奴等はただの使用人じゃない!」
気を抜いた2人の発言に思わず、潜入作戦だと言うのに声を荒げてしまった。
いや、今はそれどころじゃない。
全員でかかるべきか、撤退すべきかの判断をせねばならない。
「ふんっ! 副長とかってのはマトモみたいだね。誰?」
「フェデリーゴ・タムード。元南方方面軍の軍曹です。除名理由は軍規違反となってて詳細は不明です」
こいつ、俺の事を知っているのか?
南方の時に一緒だったか?
いや、それはない。
俺が軍を抜けたのは10年以上前だ。
こいつと同じ時期にいたとは思えない。
「ふーん、じゃあ他は?」
「ヘリッコ……ダーン……メンテナン……他は上等兵止まりで、それに大した戦歴も何もありません」
「なんだとっ! このクソガキ、舐めやがって!」
「バッ……やめろ!」
奴等の一番近くにいたダーンが階段に向かって走り出した。
完全に頭に血が昇っていて、俺の声が聞こえていない!
「死ねぇえええ!」
階段を駆け上がったダーンはその勢いのまま少年に向かって剣を振り下ろした……ように見えたが、次の瞬間後ろ向きに大きく飛び退いた。
なんだ? 急に冷静になって退いたのか?
フワッと身体を浮かせたまま、ダーンは階段の手前に降りた。
「おい、ダー……」
ドサッ!
呼び声に返答する事なく、ダーンは床に足が着くや否や後頭部を床にぶつけるようにして仰向けに倒れた。
なんだ? 一体、何がどうした!?
「ちょっと、コニー!」
「ああっ! す、すいません! つい……」
「もう! 『つい……』じゃないよ! しっかりしてよ!」
階段上の2人が何やら言い合いをしている。
今だ! この隙に負傷したであろうダーンを回収して撤退しよう!
「メンテナン! ダーンを!」
「お、おう!」
一番体格のいいメンテナンにダーンを回収させ、このまま後退する!
奴等はまだ何か言い合っているし、今なら逃げれる!
「メンテナン、急げ!」
「ふ、副長……駄目だ……」
ダーンに駆け寄ったメンテナンがすぐに諦めの言葉を口にした。
チッ!
相変わらず図体に似合わず小心者め!
こんな時まで弱腰になるとはっ!
「もういい! ダーンは俺が連れて行く! お前は他の奴らと一緒に……」
放心するメンテナンを退けて、ダーンを抱えようとして、俺は言葉を失った。
ダーンが着ている胸部鎧の胸の部分が大きく陥没していた。
深さを大人の拳一個分は優にある。
なんだ? なんなんだ、これは!?
「もう! 今日は私の試験だから全員私がやってて言ったじゃないか!?」
「す、すいません……じゃ、じゃあ残りの6人で判断しますから……」
「ほんっっとに、もう! ちゃんと採点してよね!? じゃあ、いい?」
「あっ、はい。ああ、そうだ。フェデリーゴ元軍曹! 隊列が乱れてますよ? ちゃんとしてください。試験にならないですから」
「し、試験?」
言い合いの最中に急に名前を呼ばれて戸惑い、普通に聞き直してしまった。
試験? 試験とはなんだ?
「はい。では、ソフィアさん。この2年の間に僕が教えたアブデュルガゼム流の試験を始めます。頑張ってください」
「しょうがねぇな。6人で我慢してやんよ!」
メイドがメイド服を勢いよく脱ぐと、その下から身体にフィットとした黒いボディスーツを来た全身真っ黒な女の姿が表れた。
あの姿は……まさかっ!?
「総員、てった……!」
「では、撲殺試験の開始です」
少年の声の後、黒いメイドの姿が消えて俺の耳には重く低く鈍い音と悲鳴だけが聞こえてきた。
4
あなたにおすすめの小説
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!!
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる