食うために軍人になりました【一人称版】

KBT

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第五章

決着

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「グボァッ!」

 【火炎の一撃ファイヤーストライク】と【極震きょくしん】の融合技がロビンの鳩尾にめり込んだ。
 信じられない程の衝撃が俺の腕にものし掛かり、悲鳴を上げるかのように嫌な音を立てながら俺の拳は砕けた。
 どうやらこの技は俺が想像していた以上の威力だったらしい。
 めっちゃ痛い……けど、それをモロにくらったロビンはというと……

「っ………………!」

 固まったまま動いていない!
 かろうじて息はしているけど、目が見開かれて瞳孔は散大している。
 口や鼻からは涎や血が垂れ流しの状態になっていて、顔色は生気を感じさせない土気色に変わりつつあった。
 慌てて拳を引き抜くと、へこんだ箇所から黒い血がぬるりと滴り落ちてボトボトと地面に落ちていく。
 それでもロビンの身体は動かず腹が凹んだままの状態で固まっていた。
 こいつは本当にマズいぞ!

「審判!」

「……はっ、はい!」

 呆気にとられたように固まっている審判に檄を飛ばすと、滴る血に気づいたのか慌ててロビンの元へと駆け寄っていった。

「ロ、ロビン殿! 大丈夫ですか!? 試合続行できますか?」

「そんな場合じゃない! 早く高位のヒーラーを呼べ! 心臓が止まってるんだぞ!」

 ロビンの身体を横たえながら呑気な審判に状況を伝える。
 事態が把握できていない審判は困惑していたが、しばらくして事態を理解したのか悲壮な顔になっていった。

「あ……あ……あぁああああ! し、試合終了! ヒ、ヒーラー! ヒーラーはどこだ!? 早くロビン殿の治療を! し、心臓が……心臓が止まってるぅうううう!」
 
 審判の悲痛な叫びに観客席全体から狂気じみた叫び声が上がった。
 慌てて至る所からヒーラーらしき人達が駆けつけてロビンの治療に当たった。

「ど、どうなってるんだ!? この血は一体何なんだ!? 傷口が見当たらないぞ!」

 ベテランと思しきヒーラーが叫んだ。
 どうやら傷口を確認しようとしていたようだが、見つけられなかったらしい。
 
「それはロビンの血じゃないから傷口を探しても無駄だ」

「シュナイデン様っ!? 何と言われましたか? では、この血は一体……」

「それは俺の血だよ。さっきの技のあまりの破壊力に俺の拳まで砕けたんだ。ロビンは損傷は内部だ。おそらく【火炎の一撃ファイヤーストライク】の炎が【極震きょくしん】の衝撃とともに内部に浸透して内臓を焼き尽くしたんだよ」

「な、内腑を焼いたと……な、なんと恐ろしい事を……」

 いや、そんな全員揃って怯えた眼で見るのはやめてほしい。
 俺だって別にそんなつもりじゃなかったんだ。
 ロビンがあまりにも強いからそれに見合った技を出しただけで……やり過ぎたか?

「と、とにかく回復魔法をかけ続けよ! 内臓損傷はならば魔法より回復薬の方が効果は早い! 口をこじ開けてでも流し込め!」

 無茶苦茶するなぁ。
 まぁ確かに効果的だとは思うけど。
 それより困ったぞ。
 内臓の損傷は魔法なり回復薬なりで治るだろうが、問題は止まった心臓だ。
 止まってしまった心臓は回復魔法や回復薬では治らない。
 このままだと綺麗な遺体ができるだけだ。

「破壊だけとはつまらん拳だな」

 ん? 
 急に声をかけてきて誰かと思ったら確か東方の……

「コクトー様?」

「そうだ。だが今はお前よりこっちが先だな。少しあけろ」

 コクトー様は治療するヒーラー達をロビンから離し、ロビンを見下ろすように立って構えた。
 一体何をする気だ?

「見ているがいい。これが本当のアブデュルガゼムだ! 【極震きょくしん】!」

 何をっ!?
 横たわっているロビンの胸に【極震きょくしん】を打ち下ろすなんて!
 トドメを刺す気か!?

「ぐっ…………ゲホッゲホッ! ぐぁ……ハァハァハァハァ!」

 うおっ!
 ロ、ロビンが息を吹き返した!
 まさか、【極震きょくしん】で心臓を再鼓動させたのか?
 なんて無茶な事を……

「シュナイデン! 破壊だけの拳などつまらん! お前はもっと精進すべきだ!」

 そう言うとコクトー様は帰って行った。
 うーん、これはさすがと言うしかないな。
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