食うために軍人になりました【一人称版】

KBT

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第五章

邂逅

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「やれやれ、とんでもない奴がいるようだね」

 闘技場内にいる二人の男。
 一人はロビン・マックス。
 前回の大会にも出てきた奴でタフさで一目を置いていた奴だ。
 独特な匂いがしていたからそうじゃないかと思っていたが、やはり獣人との合いの子かい。
 まぁ戦争が終わって数十年だ。
 私からすれば獣人はそれ程憎む相手でもない。
 合いの子だって気にはならないさ。
 だがあの戦争の際に軍費のために臨時徴税を課せられて資産が減った貴族どもは未だに根に持っているようだね。
 それに媚びるようなオルダーニみたいな輩なんざ理由も無く獣人を毛嫌いしている有様だ。
 真っ当な貴族は減っていく一方だよ。
 しかし、あの小僧は見込みがありそうじゃないか。
 リクト・フォン・シュナイデン男爵。
 陛下のお気に入りで平民出身でありながら16歳で騎士爵、更に男爵にまで陞爵し、高等士官学校では教官二名が付きっきりで指導し、卒業と同時に帝国軍中佐となって帝都に屋敷まで与えられたって聞いた時には最悪だと思ったもんだけどね。
 遂に皇帝までおかしくなったかと。
 でも、あの小僧を見る限りお嬢ちゃんはまだ真面まともだったようだ。
 
「フィンリー」

「……気安く呼ぶんじゃないよ。死に損ない」

 馬鹿面下げた爺が息を乱しながらやってきた。
 この馬鹿は……無茶するからだよ!

「相変わらずだな」

「アンタの馬鹿さ加減もね。今のアンタの身体であの高さから飛び降りればどうなるかわかってるのかい? 下手すりゃ帝国の恥を晒す事になってたんだよ」

「ふん。死にはせんさ。儂は帝国軍上級大将ウィルバルト……ゴフッゴホッ!」
 
 言わんこっちゃない!
 こいつの身体は普通の人間ならとっくに死んでるくらいの重症なんだ!
 それをこいつは……馬鹿な男だよ。

「目障りな爺だね。私の控室を貸してやるから寝てな。個室だから誰の目にもとまりゃしないさ」

「はぁはぁ……世話をかけるな。昔からお前には」

「黙りな。私はもう今のアンタには興味ないんだよ。今は若い小鳥に夢中なんでね」

「リクト・フォン・シュナイデン男爵か。あれは良い男だ。これからの帝国を担う者はああでなくては困る。できれば私が面倒をみてやりたいが、この有様ではな……」

「泣き言なんざ聞きたかないね。アンタは……もう十分役目を果たしたじゃないか。もう休みなよ」
 
 本当にウィルバルトはよくやった。
 帝国の主柱として何十年もこの国を支えてきた英雄だ。
 だが、そのせいで身体はボロボロになり人並みの幸せすら得られないまま仕舞いには病に侵され、今じゃこのザマだ。
 前回の大会で私が勝てたのも私が強かったわけじゃない。
 こいつが私に負けるくらい弱くなってただけなんだ。
 もう十分だよ。
 何でこの爺は休まないんだ?
 何で私の気持ちをわかってくれないんだい!?

「お前との付き合いも長い。言いたい事はわかるが、まだ休む訳にはいかんのだ。儂には帝国を更なる高みへと導ける人材を育てる義務がある。あのシュナイデン男爵ともう少し早く出会えていれば……なんとも口惜しい事よ」

 まただ。
 二言目には帝国のため帝国のためって……仕方ない、付き合ってやるよ。

「本当に馬鹿だね。仕方ない。だったら私があの小僧を……」

「それには及びません」

 気配も何も感じないこの空間に突如として声が流れてきた。
 この慇懃無礼な口の利き方はあいつしかいない!

「ほぅ……珍しい男が出てきたな」

「珍しいってのは同感だね。別に会いたくもなかったけどね!」

「随分な言われようですな。それが旧友にかける第一声ですかな?」

 柱の影からのそっと現れたのは燕尾服テール・コートを着込んだ白髪の老人。
 ウィルバルトの親友にして私の大っ嫌いな男、テラーズ・フォン・フリード!
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