食うために軍人になりました【一人称版】

KBT

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第五章

女王蜂と大熊

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 試合が終わってやる事がないから次の試合を見に来たんだけど、予想外の展開になってるな。

「ぬぅおおおおおおおおっ!」

 ダウスター子爵がこれ程強いとは思わなかった。
 超重量武器の大斧の破壊力とそれを自在に操る膂力、そして戦場で培ってきた戦闘技術は見事としか言いようがない。
 今度手合わせをお願いしてみようかな?
 だけど、相手のメアリーって女の人はもっと凄い。
 あの猛攻を紙一重で躱している。
 傍目からは防戦一方にしか見えないかもしれないけど、表情には余裕がある。
 聞いた話では彼女は魔道士って話だけど、あの動きは確実に近接戦闘に覚えがある動きだ。
 一体何者なんだ?

「おい」

「あのダメージでもう動けるのか? 本当にタフなんだな」

 横に並んで来たのはロビンだった。
 コクトー様に蘇生してもらったとはいえ、身体へのダメージは軽いものじゃない筈だ。
 それを平然とした顔で歩いてやがる。
 大したもんだよ。

「殺しかけといて一言目がそれかよ。随分と冷たいじゃねえか」

「戦場での生きた死んだは気にしない様にしてる。それが兵士としては正しいそうだ」

「その通りだ。お前は上官に恵まれてたようだな。それで? その兵士としてこの戦いをどう見る?」

 試すような顔で聞いてくるなよ。
 嫌な奴だなぁ。
 でも、前に比べれば少し険がとれたかな?

「子爵の方が押されているな。相手は魔道士だ。距離をとられたら勝ち目はない。だから距離を詰めるしかないが、あの身のこなしは予想外だったんだろう。攻めあぐねておられる」

「ふっ、あの斧使いもなかなかの腕だが、そもそも小回りの効かない大斧は近接には向いていない。接近すれば仕掛ける攻撃は限られてしまう。このままあの女のペースで戦わされるとジリ貧だ」

 同感だ。
 あのメアリーって人は自分が魔道士って事を餌にして子爵を接近させて戦いにくい距離で戦わせる様に仕向けている。
 子爵が少しでも距離をとろうとしたら大きく間合いをとって魔法を使う素振りを見せ、子爵が距離を詰めないといけないように振る舞っている。
 個人戦でここまで戦略的な戦いをする人も珍しい。
 勉強になるな。

「はぁはぁはぁ……ふ、不覚」

「ふふふっ。お見事ですわ、ダウスター子爵。ここまで出来る御方とは思っていませんでした」

「褒め言葉と受け取っておこう。鍛錬は続けていたが、勘は鈍ったままだったようだ。まんま貴公の策に乗せられた」

「やはり魔道士相手となれば近接戦闘に持ち込みたくなるでしょうからね。では、今度はこちらから行かせてもらいます。子爵様、御無礼」

 なんだ?
 子爵を指差して何のつもりだ?
 
「さぁ! どこからでもかかって……っ! ぐぁあ!」

 今のは一体なんだ!?
 メアリーの指先が一瞬赤く光ったと思ったら子爵の肩が貫かれたぞ!
 何の魔法だ!?

「ぬぅうう……妙な魔法を使いよるな。だが、この程度で私を倒せると思っているのか?」

「思っておりませんわ。ですが、これはいかがですか?」

「むっ! ぬぅうううう!」

 今度は連続で光った!?
 子爵の身体が無数に貫かれてる!
 一発一発のダメージは小さくてもくらい続ければまずいぞ!

「ふふふっ。蜂蜜を狙う熊さんは無数の蜂の攻撃に耐えられますか?」

「子爵! 防御を!」

「ぐわぁあああああああああ!!」

 俺の声は子爵自身の叫びによってかき消され、声が止んだ時には子爵は倒れていた。
 その後聞こえてきたのは子爵の敗北を告げる審判の声だった。
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