食うために軍人になりました【一人称版】

KBT

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第五章

出向

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「随分と安く見られたものだな」

 静かにそう言ったのはジェニングス辺境伯だ。
 取り繕っているようだけど眼光の鋭さが不機嫌なのを物語っている。
 確かに俺の推察通りだとすれば辺境伯が不機嫌になるのも無理はない。
 なんせ二重で虚仮にされたようなもんだからなぁ。
 
「あっ……あぁあああああ! そ、そういう事かよっ! な、舐めやがって! ぶっ潰してやる!」

 レッドウッド辺境伯も気づいたようだ。
 こっちは怒りを隠そうともしてないけど、そっちの方がらしいと言えばらしいな。
 レッドウッド辺境伯が冷静沈着になってたらそれこそ何かあったのかと勘繰ってしまう。

「……おい、リクト。なんかお前、失礼な事考えてないか?」

「いえ、別に。それより、これからどうするかが問題ですね」

 危ない危ない。
 野生動物並みに勘が鋭いな。
 しかし、これでここにいる面子全員が状況を理解したわけだ。
 本当の敵は東だって。

「ローゼンハイムよ。この事は陛下には?」

「報告済みです。陛下から『よきにはからえ』との御言葉を賜っております」

「ならば良い。軍令部総長として命じる。ローゼンハイム上級大将にこの件を一任する。使えるものは全て使って構わん」

「軍務大臣フェラースも承認する。西方方面軍への備蓄であれば好きに使ってくれて構わない」

「かしこまりました。軍隊司令長官殿は如何ですか?」

「むぅぅ……中央軍二万を預ける。辺境伯の軍に関してはその長の判断に委ねる! 文句はあるまいっ!?」

「はっ、ありがたき幸せでございます」

 二万かぁ……もうちょい欲しいところだな。
 まぁ、西方方面軍は三万だし、後は練度の差でなんとかするしかないか。

「ローゼンハイムのおっさん! なんだったら北方方面軍ウチからも兵を出すぜ! 辺境伯を舐めた事を後悔させてやりたいからな!」

「いや、北はルークリアの事もある。今は下手に動かぬ方が良い」

 ん? ルークリアの事ってなんだ?
 またあの共和国の連中が何かやったのか?

「レッドウッド辺境伯。北で何かあったのですか?」

「まぁな。二年前の戦を覚えてるか? あの戦をルークリア軍の馬鹿共は大勝利だったと国民に発表してたんだよ」

「は? しかし、あの戦は……」

「そうだ。勝ちも負けもねぇただの泥戦だった。それが最近になって国民にバレたんだよ。なんでも偉い奴の一人がポロッと聞屋に漏らしたんだってさ。アホな話だ」

 漏らした? 
 なんとなく誰かわかる気がする。
 あの姉さんならやりかねん。

「だからその問題を払拭するために再度帝国に侵攻してくる可能性もあるのだ。だから北方の軍は動かすわけにはいかんのだ」

 なるほどね。
 しかし、ローゼンハイム閣下って南方の人だろ?
 北の情勢まで知ってるのかよ。
 どんだけ優秀な情報網を持ってるんだ?
 俺にも教えて欲しいよ。

「それより良い事を思いついた。シュナイデン卿」

「はっ! 何でしょうか、閣下」

「卿を東のジェニングス領へ出向とする。存分に暴れてくるがよかろう」

 げっ!?
 東側かよ……てっきり西だと思ってたのになぁ。
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