食うために軍人になりました【一人称版】

KBT

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第六章

10人の将

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 完全に囲まれている。
 正直、簡単に勝てるとは思えないし、逃げられそうにもない。
 ここは誰かがこの事態に気づくまで時間を稼ぐしかないな。

「俺一人に10人とは随分と高く買ってくれたものだ。光栄だよ」

「貴殿は16歳の若さで共和国の英雄ルーストレームを撃退した英雄である。あれから2年の間に貴殿が腐らず、更なる成長を遂げたとすれば当然の戦力である」

「そうかい。俺の事をよく知っているみたいだな」

「もちろん知っている。旧ライエル領での戦い、オーマン伯爵の叛逆、虎龍討伐にルーストレームとの戦い。貴殿の武勇は誠に見事である」

 参ったなぁ。
 味方の上層部より敵の方が俺を高く評価してくれるってわけか。
 複雑な気分だ。

「さて、時間稼ぎはこれぐらいで良いかね?」

 やっぱりバレてたか。
 まぁ、当然だよな。
 俺を単独任務にした事、コクトー様達のいる場所と距離を離した事、クラリス達の同行を認めなかった事、そしてこの戦力。
 俺が孤立無援でここにいるタイミングを狙ってきたって事はフェンドラこいつらは方面軍の作戦を知っているって事だ。
 つまり、こいつらの手は方面軍の内部にまで及んでいる。
 ここまで大掛かりで緻密な作戦を立てているんだから、救援が来ないようになっているんだろう。
 なら、これ以上は無駄だな。

「腹を括ってやるしかないか」
 
「そういう事である」

 重苦しい空気が身体にズッシリとのし掛かり、聴覚が途絶えたような静寂が流れてくる。
 飲まれるな! 先手をとるんだ!

「うぉおおおおおおおおっ!」

 抜刀して目の前のグランツに斬りかかる。
 おそらくこの男が司令塔だ。
 最初に頭を潰す!

「真っ向から来るとはなんとも実直な男なり! だがっ!」

 俺とグランツの間に小さな影が割って入って耳をつん裂く金属音をたてながら俺の一撃を双剣で受け止めた。
 こいつ、速い!

「危なかった! この人、なんて速さですか!? 僕でなかったら間に合ってませんでしたよ、グランツ様」

「うむ。さすがは溟海のリンク、見事な速さである」

 俺の一撃をこうも簡単に受け止めるなんて、やっぱり全員強いと見るべきだな。

「おやおや、止まっていてよろしいのですか? シュナイデン殿」

 丁寧なようでムカつく喋りと共にムワッとする紫色の煙が周囲に噴き出して纏わりついてくる。
 双剣の男が慌てて距離をとった。
 これは……毒かっ!?

「それなら《暴剣ぼうけん狂飆きょうひょう》!」

 狂飆の竜巻で毒もろとも全員まとめて吹き飛ばす!
 
「ふん。《閉ざされた氷アイスバウンド》」

 な、なんだっ!? こ、氷の壁が毒と狂飆ごと俺をとり囲んで閉じ込めた!?
 このままだとマズい!

「この氷壁を突破するしかない! 《穿剣せんけん裏搔うらか》!」

 螺旋状の風を纏った刀で氷壁を削りとる。よしっ! 抜け……たっ!?

「もらったぁあああ!」

 氷壁を突破したと同時に渦巻く槍が俺に向かってきた!
 裏搔にそっくりの螺旋の動き……これは避けきれない!
 仕方ない!

「おらぁ!」

「なっ! て、手で槍を弾くとは……ぐはっ!」

 咄嗟に螺旋の槍を左手の籠手で弾いて男のガラ空きの胴を蹴り飛ばす!
 だけど……痛ってぇええええええ!
 愛用の《ガイアガントレット》が無かったら腕ごと持っていかれてた!
 なんて威力だよ! 洒落になんねぇぞ!

「ボサっとしてんじゃないよ!」 

 今度は背後から荒っぽい声が……違う! 上かっ!?

「オラァアアア!」

 大きく横に飛んでゴロゴロと転がりながら距離を取った。
 口の中にジャリジャリとした感触が入ってきた。
 衝撃音と一緒に舞い上がった砂埃が口に入ってきたみたいだ。
 ぺっぺっ! 不味い!
 しかし、これくらいは我慢しないとな。
 俺がいた場所が大きく地面が陥没していやがる。
 なんて馬鹿力だ、あの女!
 ヒルダ以上のパワーだぞ!
 
「ふむ。波蝕のメイビスの毒を躱し、氷海のマルスの氷を穿ち、渦潮のドルトンの螺旋槍を弾いて、砕波のアマーリエの拳を避けたか。やはり油断ならん男よ」

 なんか一度にたくさんの名前言われたけど覚えられないぞ?
 それにしても一人一人が強いな。
 2、3人だったら何とかできたかもしれないが、さすがに10人はキツい。
 だけど、ここまで派手に戦っていれば誰かが異変に気づくはず。
 それまで耐えるしかないな。
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