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第六章
拘束
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「御父様。お話があります」
執務室で仕事をしていた御父様はこちらを一瞥する事なくその手を止めた。
私が何をしに来たかわかっているのだろう。
ゆっくり顔を上げる御父様の顔は珍しく緊張しているように見えた。
と言っても身内でもなければ気づかない程度の変化には違いない。
「シャーロット。ちゃんと終わってるんだろうな?」
「はい。全て終わっています」
机の上に大佐がまとめてた資料を置くと、御父様はそれを手にとって中身に視線を走らせた。
時々資料を持つ手が震え、いつも冷静な御父様に似つかわしくなく歯を食いしばる事もあった。
許せないのは私も同じ。
気持ちは痛いほどわかります。
ですが、これに目を背ける事は絶対にできない。
それはわかってくださいませ、御父様。
「これが東方方面軍の内情か。我が膝元でよくもこれだけ恥を晒してくれたものだ。それに気づかなかった私も愚かとしか言いようが無い。今すぐにでも喉を裂きたい気分だ」
「御父様の首を裂くとして今ではありません。全てが終わり、私に家督を譲ってからお願いします。それと屋敷を汚さぬように何処か別の土地でしてください」
厳しい視線を私に向ける御父様。
ええ、分かっています。
今はそんな冗談を言っている場合じゃない事は。
でも、それぐらい言わないとやってられないのも事実なんです。
「パトリック……あの愚か者め」
「パトリック御兄様自身はおそらく私腹を肥やそうと思ってはいなかったでしょう。サザントール、ひいてはこの帝国東部発展のためと……」
「甘い! その甘い考えの隙を突かれたのだ。確かに経済的発展は民の生活を裕福にし、幸福にするだろう。しかし、幸福とは誰かに与えられる物であってはならない。己が力で勝ち得た物にのみ、価値はあるのだ。誰かに与えられた物がなければ生きていけないようでは、それは家畜に成り下がる事と同義だ」
御父様の言う通りだ。
そして御兄様はそれに気づけなかった。
フェンドラとの貿易で経済発展を遂げた事を己が力と勘違いしてしまったのだ。
本当はフェンドラによる経済支配の片棒を担がされていただけなのに。
「それに他の軍将校達もだ。私利私欲に溺れ、軍人としての精神を腐敗させている。フェンドラが武力で攻めてきたとしても対処できたかわからない程だ」
「既に全員の不正の裏どりは出来ています。アンダーソン大佐が全て調べ上げてくれました」
「よかろう。ならば是非もない。シャーロット、後は頼む」
「……本当によろしいのですね?」
「ああ、私自身も処分は免れん。しかし、このジェニングス家を終わらせる訳にはいかぬ。お前には辛い言葉かもしれんが、情け容赦は無用だ」
辛くないと言えば嘘になる。
でも、これが理想国家建設のための第一歩となるなら私は躊躇ったりはしない。
「わかりました。御父様、いえジェニングス辺境伯。貴方を拘束致します」
執務室で仕事をしていた御父様はこちらを一瞥する事なくその手を止めた。
私が何をしに来たかわかっているのだろう。
ゆっくり顔を上げる御父様の顔は珍しく緊張しているように見えた。
と言っても身内でもなければ気づかない程度の変化には違いない。
「シャーロット。ちゃんと終わってるんだろうな?」
「はい。全て終わっています」
机の上に大佐がまとめてた資料を置くと、御父様はそれを手にとって中身に視線を走らせた。
時々資料を持つ手が震え、いつも冷静な御父様に似つかわしくなく歯を食いしばる事もあった。
許せないのは私も同じ。
気持ちは痛いほどわかります。
ですが、これに目を背ける事は絶対にできない。
それはわかってくださいませ、御父様。
「これが東方方面軍の内情か。我が膝元でよくもこれだけ恥を晒してくれたものだ。それに気づかなかった私も愚かとしか言いようが無い。今すぐにでも喉を裂きたい気分だ」
「御父様の首を裂くとして今ではありません。全てが終わり、私に家督を譲ってからお願いします。それと屋敷を汚さぬように何処か別の土地でしてください」
厳しい視線を私に向ける御父様。
ええ、分かっています。
今はそんな冗談を言っている場合じゃない事は。
でも、それぐらい言わないとやってられないのも事実なんです。
「パトリック……あの愚か者め」
「パトリック御兄様自身はおそらく私腹を肥やそうと思ってはいなかったでしょう。サザントール、ひいてはこの帝国東部発展のためと……」
「甘い! その甘い考えの隙を突かれたのだ。確かに経済的発展は民の生活を裕福にし、幸福にするだろう。しかし、幸福とは誰かに与えられる物であってはならない。己が力で勝ち得た物にのみ、価値はあるのだ。誰かに与えられた物がなければ生きていけないようでは、それは家畜に成り下がる事と同義だ」
御父様の言う通りだ。
そして御兄様はそれに気づけなかった。
フェンドラとの貿易で経済発展を遂げた事を己が力と勘違いしてしまったのだ。
本当はフェンドラによる経済支配の片棒を担がされていただけなのに。
「それに他の軍将校達もだ。私利私欲に溺れ、軍人としての精神を腐敗させている。フェンドラが武力で攻めてきたとしても対処できたかわからない程だ」
「既に全員の不正の裏どりは出来ています。アンダーソン大佐が全て調べ上げてくれました」
「よかろう。ならば是非もない。シャーロット、後は頼む」
「……本当によろしいのですね?」
「ああ、私自身も処分は免れん。しかし、このジェニングス家を終わらせる訳にはいかぬ。お前には辛い言葉かもしれんが、情け容赦は無用だ」
辛くないと言えば嘘になる。
でも、これが理想国家建設のための第一歩となるなら私は躊躇ったりはしない。
「わかりました。御父様、いえジェニングス辺境伯。貴方を拘束致します」
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