食うために軍人になりました【一人称版】

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第六章

帝国統括諜報部

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 帝国統括諜報部、話には聞いた事はあるが、詳しいことは知らない。
 ただ、帝国の闇を支配する秘密機関と聞いている。
 主な任務は国内外の情報収集や諜報活動、反乱分子や敵国の監視、そして、敵対組織に対する破壊工作や暗殺。
 噂では貴族の不審死の半分は奴等の仕業だと、そんな組織の長官だった男がこのテラーズだと言うのか?
 悪い冗談、であってほしいものだ。
 冷汗が止まらないからな。
 
「信じられなければ信じなくとも結構ですよ。ただし、くれぐれも他言は無用に願います」

 なんという眼をしているのだ。
 背筋が凍りつく。
 この世の闇を全て集めたような瞳は、感情のない人形のように空虚で、気味が悪い。

「まぁ、そこまで警戒しなくとも私は既に引退した身です。ただ、先ほどの話を少しでも信じていただければ幸いですな」

「ふっ……信じないわけにはいかないだろう。この国で最も優れた諜報機関の元長官殿の御言葉だ。我々の常識など、愚者の戯言も同然であろうからな」

「そこまで卑屈になる必要はありませんが、まぁいいでしょう」

 そう言ったテラーズの瞳は以前の憎たらしい爺のそれになっていた。
 ありがたい。
 さっきまでの調子でいられたら、本当に気が滅入ってしまうところだったからな。

「では、話を戻しましょう。私の推測ですが、魔族が何らかの理由でこの地に住み着き、何かを隠すためにあの【海底の小さな魔物】は作られたと考えています。そして、その魔族は人間に対しては敵対心を持っていないと思われます」

「孤児達を治療しているからか?」

「ええ、些か楽観的ではありますが、可能性は高いでしょう。そして、その地に偶然ですが、旦那様は落ちた。もし、その魔族が旦那様を発見していれば」

「助けられた可能性は高い、そういうことか。魔族を全面的に肯定するならその結論も、あながち的外れではない、か」

 だが、まだ疑問は残っている。
 怪我や病気をすぐに治せる程の魔族が保護したなら、リクトは何故すぐに帰ってこないのだ?
 あいつの事だ。
 やられたままで終わるような男ではない。
 それが何故帰ってこないのだ?

「テラーズ殿、一つ疑問があるのだが」

「すぐに戻られない理由については分かりません。何かしらの理由があるのだと思われますが……むっ、な、なんだとっ!?」

 テラーズが急に立ち上がり、声を荒げた。
 こんなテラーズを見たのは初めてだ。
 急にどうしたと言うのだ?

「テラーズ殿、どうしたのだ?」

「……私の過去を貴女方に話していて幸いでした。先ほど、私の影から信じられない情報が入ってきました」

 私の影? 情報だと?
 何の事かはわからないが、何らかの通信手段をこいつは持っているという事か?
 それにしても、この動く石像のような男に汗をかかせる情報とやらが気になる。

「その情報を聞いても良いか?」

「ええ。国の一大事ですから」

 テラーズはテーブルの紅茶を一気に煽ると、溜息混じりに呼吸を整えた。
 どうやら、只事ではないようだ。

「お伝えします。アマナ王国に攻め込んだライブランド王国軍が全滅、逆にアマナ王国に侵攻され、国王以下王族全てが処刑されたそうです」

「なっ……」

 もう嫌だ。
 こいつとは今後二度と関わりたくない。
 どうして、いつも私の頭と心を狂わせるような事しか言えないのだ! この男はっ!
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