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第六章
クラッセン辺境伯
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「ローゼンハイム卿。此度の事、申し開きのしようもない……本当に申し訳なかった」
床に臥し、頭を下げる事すら出来ないクラッセン辺境伯が沈痛な面持ちで詫びた。
この御仁が何を謝る必要があるのかと、つい自問してしまう。
齢七十を越え、毒を盛られて動けぬ身となった者に、一体どんな罪があると言うのか。
数年後の自分の姿が重なって、なんとも言えない気持ちになる。
「クラッセン辺境伯閣下。お身体に障ります故、もうお休みください」
労いの言葉にも閣下は力無くも首を横に振った。
責任感が強いのは変わっていないようだ。
「そうはいかんよ。老いたりとはいえ、これでも栄えある帝国の西部を預かる身の儂だ。首を吊られてもおかしくはない失態を犯しておきながら、偉そうに寝ておるわけにはいくまい。せめて、処刑台には自分の足で上がりたいものだ」
「滅多な事を! 閣下に責任が無いとは申せませんが、発端はフェンドラであり、それに唆されたルドルフ達にこそ責任があります! 奴等の首を刎ねさせていただきます」
事の真相は睨んだ通りだった。
前回の四勲章競合戦に西から出ていたルドルフ、マルセル、ルーペルトの3人が今回の騒動の首謀者だった。
奴等は事もあろうに主人であるクラッセン辺境伯に毒を盛り、それを帝都からの暗殺者と噂を流して挙兵させていた。
本来であれば、そのような妄言を信じるような者はおらんが、クラッセン辺境伯の御子息達の跡目争いのせいで、領軍にも領民にも不安が広がっており、奴等はその不安につけ込んだのだ。
なんとも卑しい策、反吐が出るわ!
「情けない事よ。儂は貴賤や貧富に関わらず、才ある者は重用されるべきと考えておったのだ。この国は良い国ではあるが、緩やかな腐敗はある。その根源は貴族社会だ。血筋だけでこの世の春を謳歌し続け、何の努力も成長もなく堕落していくのみの社会を変えたかったのだ。だから、儂はあの者達を我が家に迎え入れた。しかし、それがこのザマだ。儂の甘い考えが帝国の危機を招いた。結局、儂も堕落した貴族だったという事か……口惜しいな」
少し潤んだ声で、閣下は己の失態を嘆いている。
違う、閣下は違う!
決して堕落などしていない!
「閣下は帝国の憂慮すべき現状に、何かを為そうと懸命な行いをされました! それが賢明な行いではなかったとして、誰が閣下を責められましょう! 閣下は堕落などしておりません! 堕落した者は動く事もせず、見ようともせず、関心すら抱かない者達の事です! 決して閣下は堕落などしておりません!」
いつの間にか熱くなっていた。
正しい事をしようとした者が辱められるような事があっていいわけがないのだ。
「……ローゼンハイム卿、感謝する」
少し笑みを浮かべた閣下の表情に、少し報われた気がした。
床に臥し、頭を下げる事すら出来ないクラッセン辺境伯が沈痛な面持ちで詫びた。
この御仁が何を謝る必要があるのかと、つい自問してしまう。
齢七十を越え、毒を盛られて動けぬ身となった者に、一体どんな罪があると言うのか。
数年後の自分の姿が重なって、なんとも言えない気持ちになる。
「クラッセン辺境伯閣下。お身体に障ります故、もうお休みください」
労いの言葉にも閣下は力無くも首を横に振った。
責任感が強いのは変わっていないようだ。
「そうはいかんよ。老いたりとはいえ、これでも栄えある帝国の西部を預かる身の儂だ。首を吊られてもおかしくはない失態を犯しておきながら、偉そうに寝ておるわけにはいくまい。せめて、処刑台には自分の足で上がりたいものだ」
「滅多な事を! 閣下に責任が無いとは申せませんが、発端はフェンドラであり、それに唆されたルドルフ達にこそ責任があります! 奴等の首を刎ねさせていただきます」
事の真相は睨んだ通りだった。
前回の四勲章競合戦に西から出ていたルドルフ、マルセル、ルーペルトの3人が今回の騒動の首謀者だった。
奴等は事もあろうに主人であるクラッセン辺境伯に毒を盛り、それを帝都からの暗殺者と噂を流して挙兵させていた。
本来であれば、そのような妄言を信じるような者はおらんが、クラッセン辺境伯の御子息達の跡目争いのせいで、領軍にも領民にも不安が広がっており、奴等はその不安につけ込んだのだ。
なんとも卑しい策、反吐が出るわ!
「情けない事よ。儂は貴賤や貧富に関わらず、才ある者は重用されるべきと考えておったのだ。この国は良い国ではあるが、緩やかな腐敗はある。その根源は貴族社会だ。血筋だけでこの世の春を謳歌し続け、何の努力も成長もなく堕落していくのみの社会を変えたかったのだ。だから、儂はあの者達を我が家に迎え入れた。しかし、それがこのザマだ。儂の甘い考えが帝国の危機を招いた。結局、儂も堕落した貴族だったという事か……口惜しいな」
少し潤んだ声で、閣下は己の失態を嘆いている。
違う、閣下は違う!
決して堕落などしていない!
「閣下は帝国の憂慮すべき現状に、何かを為そうと懸命な行いをされました! それが賢明な行いではなかったとして、誰が閣下を責められましょう! 閣下は堕落などしておりません! 堕落した者は動く事もせず、見ようともせず、関心すら抱かない者達の事です! 決して閣下は堕落などしておりません!」
いつの間にか熱くなっていた。
正しい事をしようとした者が辱められるような事があっていいわけがないのだ。
「……ローゼンハイム卿、感謝する」
少し笑みを浮かべた閣下の表情に、少し報われた気がした。
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