食うために軍人になりました【一人称版】

KBT

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第六章

含み笑い

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 疲れの見える閣下を休ませるために、一旦退室する。
 やはり、相当弱っておられる。
 このままでは、跡目が決まらないままお亡くなりになるやもしれん。
 そうなれば、この西部で新たな内戦が起こり、諸外国に隙を見せる事になる。
 
「それだけは絶対に防がねばならん」

「何を意気込んでるんだい?」

 不意に口から出た言葉を拾ったのはフィンリーだった。
 なんとも不機嫌そうな顔をしている。
 あの3人が余程酷かったのだろう。

「もう終わったのか?」

「ああ、あっさりとね。やる事の派手さに比べて、小さい事この上なかったよ。目先の欲に負けて国を売る奴等なんて、そんなもんだろうけどね」

 悔しそうな呆れたような、そんな複雑な表情ながら怒っているのだけは伝わってくる。
 こいつも、閣下と同じく帝国の現状を酷く憂いているのがよくわかる。

「クラッセン辺境伯は?」

「良くはない。このまま身罷られる可能性もなくはないだろう」

「まだ混乱は続く、か。もういっそ、クラッセン家には御退場願う方がいいのかもね」

 それもあり得ない話ではない。
 謀られたとはいえ、クラッセン辺境伯家の統治する西部が帝国に叛逆したのは事実だ。
 これを看過しては、他の貴族に示しがつかぬ。
 クラッセン辺境伯には残念ながら取りなせるだけの功績もない。
 もし、伯が身罷られれば当主不在をもって御家断絶、下手をすれば、一族郎党全て極刑もある。
 
「そうなったら、後継をどうするかだけど、西方で辺境伯の他に有能なのは?」

「レヴァンス侯爵だが、あの方の領地は中央と西部の中間地域だ。西部までとなれば流石に領地が広くなり過ぎる。他の諸侯からの反発は免れんだろう」

「ダウスターの小僧は?」

「あの者はまだ子爵だ。辺境伯への陞爵は難しかろう。仮に出来たとしても、やはりダウスターからは遠い。近くと言えば、サラバス子爵か、アスタピアン男爵だが」

「お世辞にも有能とは言えん。父親から受け継いだ爵位を守るのが精一杯の奴等じゃないか。とても、辺境伯は務まらないよ」

 辛辣だが、同意見だな。
 それこそクラッセン辺境伯の二の舞いにならんとも限らん。

「だったら、他所から呼ぶしかないね」

「それは領民が納得せん。これまで治めていた者と縁もゆかりもない者が現れても、すぐに受け入れられはしない。余程、帝国全土に知られる程の名声でもあれば別だがな」

「帝国全土に知られる程の名声、か。なら、私に1人思い当たる人物がいるよ?」

 含み笑いを浮かべた、この顔。
 フィンリーとは長い付き合いだが、この顔の時は本当に嫌な事を考えている時だ。
 突拍子もないのに、変に筋が通っていて反論の隙がない。
 
「言っておくが、シュナイデン男爵は駄目だからな。彼には南部の……」

「わかってるよ。あの鼻垂れとは違う。私も認める、もっといい奴を知ってるのさ」

 さらに笑みが深くなる。
 色んな意味で恐ろしい。
 頼むから、これ以上悩みの種を増やさないでくれよ。
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